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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第二章 衝撃の火曜日
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衝撃の火曜日1

 勇哉が目を覚ますと、そこはまだ暗闇だった。

 自分はまだ夢を見ているのかと一瞬考えたが、暗闇に目が慣れてくると、いろいろな出来事が鮮明に脳裏に蘇ってきて、これは夢ではないのだということを思い出した。そして、その恐怖に背筋が震えた。夢だ夢だと思おうとしても、体があの揺れを体感として覚えていた。いまだに自分自身が揺れているようにさえ錯覚する。


 恐ろしい。暗闇がこんなに恐ろしいものだということを、いまさらながらに思い出した。

 暗闇が明るさを取り戻すまでに、果てしなく長い時間が過ぎたように思われた。しかし、それがどのくらいだったのか、時が止まったままの時計からはなにもわかりはしなかった。


 辺りが明るくなってきたころに、勇哉は一階へと下りていった。リビングやトイレ、玄関などを見て回ったが、誰も帰宅した痕跡は見つからなかった。結局あれから家に、両親が帰ってくることはなかったのだ。


 気がつけば、昨日は帰宅してからなにも口にしていなかった。夕飯も食べずに布団に入ってしまったのだ。冷蔵庫の扉を開けると、まだそこには多少の冷気は残っていたが、電灯は点かなかった。このまま放置しておけば、中のものは腐ってしまうだろう。


 勇哉はとりあえず、冷蔵庫にあるものや置いてあった食パンで腹ごしらえをした。

 そのあと水を出そうと水道の蛇口をひねったが、案の定それも止まっていた。風呂場に水が残っていないか確かめにいったが、そちらも洗濯に使ってしまっていて、残ってはいなかった。これからトイレにも困ることになりそうで、勇哉は思わずため息をついた。


 勇哉はその足で、風呂場の隣にある納戸をのぞいた。納戸には非常用の備蓄品が置かれてある。そこにあるものを確かめると、水やレトルト食品、缶詰や乾パンやらの非常食が、段ボール箱にたくさん詰められていた。とりあえずは、それでしばらく飲食面のことはなんとかなるだろう。


 しかし、生活用水というものが使えないのは痛い。トイレや風呂はもちろんのこと、手を洗うことにも困るというのは、とにかく面倒なことだった。こういう場合、給水車などが、どこかで水を配りにくるはずだが、それもいつになるのかわからないうえ、今のこの町の状況からして、あまり期待はできそうになかった。


 ひとまず勇哉はキッチンに戻って、冷蔵庫の食材をクーラーボックスに入れる作業を始めた。冷凍庫でまだ溶けずに残っていた保冷剤なんかを隙間に入れておけば、しばらくはもたせることができるだろう。ガスも止まっていたが、カセットコンロを使えばどうにか食事も作れそうだ。悪くなりそうな生肉なんかの食材は、できるだけ早めに使ったほうがいいだろう。


 それから勇哉は、リビングに置いてある電話を調べてみた。しかし受話器を耳につけてみたが、通話音は聞こえてこなかった。次にパソコンはどうかと電源を入れてみる。それは残っていたバッテリーのおかげで立ちあがりはしたが、インターネットは繋がらなかった。それならばと、今度は玄関の隅に置いてある非常用持ち出し袋からラジオを取り出して試してみたが、ザーザーと音がするだけで、どこの局にも繋がることはなかった。


 八方塞がり。外部との繋がりは完全に途絶えていた。恐ろしい虚無感が全身を襲いかけたが、勇哉はそれを頭を振って追い払った。まだ絶望するには早い。

 先程のラジオはライトも使え、手回し式の充電機能もついている。電気の使えない今のこの状況では、なにかと役に立つに違いない。しかも携帯の充電もそれですることができる。勇哉はラジオをそのまま非常用持ち出し袋にしまい、それを背負って出かけることにした。


 外に出ると、空は相変わらずどんよりと曇っていた。だが、夜の暗闇よりははるかにましに思えた。そしてそのときようやく、勇哉は自分が制服を着たままであることに気がついた。昨日帰宅してから着替えることすらしていなかったのだ。しかし、彼は構わずにそのまま出かけることにした。


 一応こんな非常事態ではあるが、本来なら学校では授業のある日だった。さすがに今日学校が通常通りやっているとは思わないが、どうしていいかもわからない今、他に行くところなど思いつかなかった。勇哉は一縷の希望を胸に、学校へと向かうことにした。


 学校へ向かうその前に、勇哉は隣家に立ち寄ってみた。石垣家は相変わらず静かなままである。勇哉はインターホンを押してしばらく待ってみた。――誰も出ない。今度は三回連続して押してみた。しかし、やはり誰も出てくる気配はなかった。


 勇哉は唇を噛み、心を決めてその門を開けた。玄関扉を調べてみるが、当然のように鍵がかかっていた。今度は庭のほうへと回る。そこから上を見上げると、そこには優里の部屋の窓があった。勇哉はそこで、大きく息を吸い込んで、一気に吐き出した。


「優里ーーーっっっ!」


 自分でも驚くくらいの大きな声だったと思う。窓が閉まっていても、もしそこに誰かがいるのならば聞こえたはずだ。けれど、いつまで待ってもその窓が開くことはなかった。

 昨日から、薄々そうではないかと思ってはいたが、もしかしたらというわずかな希望があった。しかし、そんな甘い考えは脆くも崩れ去った。


 彼女はそこにはいない。それがなにを意味しているのか。今彼女はどこにいるのか。なにもわからなかった。


 勇哉は堪らずそこから逃げた。考えれば考えるほど、悪いことばかりが浮かんでくる。それならば、なにも考えないほうがいい。今はただ、自分ができることをするしかない。


「うおおおおおおーーーっっっ!」


 勇哉は叫び声を上げながら、胸が苦しくなるまで、なにも考えなくなるまで、ひたすら住宅街の通りを走り抜けた。


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