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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第六章 真実の土曜日
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真実の土曜日7

 亜美はさえ先輩に言われるままに、そのあとをついていった。そこは、北校舎の二階にある図書室だった。まだ地震のあとの片付けができていないため、本がそこら中に散らばっていた。落ちている本を避けながら中に入っていくと、前を歩いていたさえ先輩が、貸し出しカウンターの上にのぼった。そしてそのままそこを乗り越えて、中へと入っていった。亜美もそれに倣うように、カウンターに身を乗り出して、そこから中へと入っていく。

 目の前にいたさえ先輩は、カウンターの奥に向かってしゃがみ込んでいた。


「江藤くん」


 さえ先輩が呼びかけたその人物は、そこでうずくまっていたが、彼女の呼びかけに微かに反応を示した。


「う……ん……? 水城、さん……?」


「ああ、まだ無理はしないで。そのまま、話を聞いて」


 さえ先輩は非常階段で、亜美に江藤先輩を連れ出すことを手伝って欲しいと頼んできたのだった。そんな彼女の頼みに亜美は驚いたが、江藤先輩がスタンガンを受けて倒れているということを聞いて、すぐにその現場へとやってきたのだった。


「一緒に屋上に来てほしいの。早くしないと、取り返しのつかないことになる! 止められるのは、あなたか鷹野くんしかいないの!」


 さえ先輩がそう言うと、江藤先輩はゆっくりと顔を上げた。


「……ああ。そうだ。行くよ。行かなくちゃいけない……」


 江藤先輩はそう言うと、カウンターの天板に手をかけ、そこから立ちあがった。しかしまだ足元がおぼつかないのか、ふらふらとしている。


「あ、わたし手伝います」


 亜美は慌てて江藤先輩に手を貸した。さえ先輩も彼の支えになり、そこから廊下へと彼を連れ出した。

 江藤先輩には、いろいろと訊ねたいことがあった。しかし、こんな状態の彼に質問を投げかけることは気が引けて、さえ先輩とともに亜美は黙って彼の背中を支えて歩いていた。

 すると、少し意識がしっかりしてきたらしい江藤先輩が自らしゃべり始めた。


「水城さんはわかっているだろうけど、五十嵐さんは僕が誰にやられたのか、気になるよね」


「え、あ……はい」


 彼が気を失っていたということは、そうさせた誰かがいるということだ。さえ先輩はなにもそのことについて言わなかったので、もしかすると彼女がやったのかもしれないと思っていたが、江藤先輩のこの口ぶりはそうではないことを示していた。


「……五十嵐さん。前に、僕が一年一組の教室で隠れてなにかを見ていたこと、覚えてる?」


「あ、はい。いけないときに入っていっちゃったかなと、ちょっと思ってましたけど……」


「あれは、これを見ていたんだ」


 江藤先輩はそう言うと、亜美の肩から手を離して、自分のズボンのポケットから折りたたまれた紙切れを取りだした。そして、それを開いて見せた。


「それって、最初に出された文書……ですよね」


 亜美が文書のありかを彼に訊いたとき、彼はそれはまだ視聴覚室にあるはずだと答えていた。しかし、実は彼はそのとき手元にそれを持っていたのだ。


「あのときは嘘をついてしまってごめん……。でも、まだいろいろと判断を迷っていたんだ。びりびりに破られてしまっていたこともあるし、それにXの文字のことも……」


「それ……なんで破られて……?」


 さえ先輩はその文書の無惨な姿を見て、驚いたようだった。


「ああ、水城さんは知らなかったんだね。これ、田坂さんがやったんだよ。水城さんのために」


「わたしの……?」


「これは二年前のいじめを告発しているものだ。それに対して、水城さんは恐怖心を抱いたはずだ。そんな水城さんを苦しめるものを、彼女は許せなかったんだろうね。こっそりこれを破り捨てていたんだ」


「そうだったの……」さえ先輩はそれを聞いて、少し動揺していた。


「この文書のことで、あることが気になっていた僕は、視聴覚室に行き、必死にこれを捜しだした。破り捨てられていたことには驚いたけど、幸い欠けたところもなく、修復することができた。そしてこの文書について僕は気になることを発見した。それについて、僕は今まで個人的に調査をしていたんだ」


 彼にとっては、文書がこんな状態になっていたことは想定外のことだっただろう。いろいろな思惑が重なって文書はぼろぼろになってしまっていたが、どうにか修復できたことで、彼は調査を続けることができたのだ。


「そして調査の結果、僕はあることに気づいたんだ……」


 江藤先輩はそう言うと、一度呼吸を整えるように息をついた。


「この文書、Xの文字だけが他の文字と字の濃さが違うのはわかる?」


 水野正の家へ向かう途中、江藤先輩が鷹野先輩としていた話だ。


「はい。でも、たまたまじゃないんですか?」


「そうだね。そのことだけだったら、僕もそこまで疑問に思わなかったかもしれない。でも、違っていたのは文字の濃さだけじゃない。筆跡も、他の文とはどこか違う特徴を示していると思わないか?」


 そう言われて文書に記されたXの文字を、亜美はじっと見つめてみた。言われてみれば確かにそれは、書き始めが丸くなっていて、他の文章の角張った感じとは少し違うように見えた。しかしそれも、たったひと文字のことだ。これだけのことでは、亜美には判断はつきかねた。


「確かに言われてみればそんな気もしなくもないですけど、これだけではちょっとなんとも言えないですよね」


「そうだね。だけど僕は、直感でそう感じた。このXの文字は、誰か違う人物が書いたものなんじゃないかと。そして、第二の文章のXの文字も同じ特徴を示していた。それを見て確信したんだ。これはたまたまそうなって書かれたものではない。これは水野くんとは違う人物の書いた文字なんだと」


 なるほど、確かにひと文字だけなら偶然と片付けられるかもしれないが、二度同じことがあれば、それは偶然ではないのかもしれない。


「それに僕にはそれが水野くんが書いたものではないと考える、ひとつの根拠があったんだ」


「根拠……?」


「僕はその文字に見覚えがあった。つまり、そのXという文字は、僕のよく知っている人物が書くXという文字に、とてもよく似ていたんだ。そして、教室でその人物のノートを探しだしてそれを確かめてみた。やはりそこには、怪文書にあったXの文字と同じ筆跡の文字が書かれてあった。そして僕は確信したんだ。差出人のXはその人物に間違いないと……」


「もしかして、スタンガンで江藤先輩を攻撃したのって……」


「そう。その人物だよ。僕が追求をすると、動揺したその相手は僕に攻撃をしてきた。油断していた僕も馬鹿だったけどね。そしてあっけなく倒されてしまった僕は、さっきまでカウンターの中に押し込まれてたってわけさ」


「そうだったんですね。それで、その人物っていったい……?」


 亜美が恐る恐る訊ねると、江藤先輩はうめくようにその名前を口にした。


「その人物は……」


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