真実の土曜日4
千絵は信じられないものを見ている気分だった。
どんなときでも、千絵の行動原理の中心には直がいた。千絵の中では、直はいつでも正しくて、そこにはどんな間違いもなかった。彼女を信じて従っていれば、迷う必要などなかった。
そして、そうすることで、これまで千絵は何度となく救われてきたのだった。
実際、直は非の打ち所のない正しさで、この世界でもみなの中心となってメンバーを引っ張ってきていた。直の言葉は千絵にとって、絶対的な正しさを持っていたのだ。
直の言うことを聞いていれば間違いはない。直の言うことに従っていれば、自分は正しく進んでいける。そのはずだった。
しかし今、それを千絵は自らの意志で破ろうとしている。
非常ベルは鳴りやまない。胸の鼓動は激しく脈打っている。
暗闇に包まれた学校の廊下で、千絵たちは佇んでいた。
「千絵ちゃん。お願い。わたしの言うことを聞いて」
直の哀願するような声が、千絵の胸に切なく響いた。
「お願いよ……」
千絵は今、孤独と戦っていた。決断することは孤独と戦うことなのだ。千絵は直の言葉ではなく、自分自身の意志でそれを決めようと思った。しかしそれは、とてつもなく不安なことでもあった。
鳴り続く非常ベル。激しく拍動し続ける心臓の音。
目の前にいる直は悲しげな目をしている。千絵に、自分の言うことに従って欲しいと訴えてきている。
けれど、今それに従うわけにはいかない。きっとこの決断は間違ってはいないはずなのだ。
千絵は、ゆっくりと頭を横に振った。
彼女の言葉に従わなかったのは、これが初めてのことだった。