真実の土曜日3
三年一組の教室の前まで戻ってくると、そこにはすでに透や直たちの姿はなくなっていた。
「清川さんたち、透を保健室まで運んでいったのかな?」
「そうみたいだね」
「あれ? そういえば五十嵐さんは? 彼女も清川さんたちについていったのかな?」
「え? さあ。そういえば、どうしたんだろう。でもここにいないってことは、清川さんたちと一緒にいるはずだろう?」
景子の声色に、不自然なところはなかった。確かにここにいないのだとしたら、直たちと一緒にいるはずだ。またあとで保健室へ行けば、それもわかることだろう。
勇哉は確認のために、ちらりと教室内をのぞき込んだ。しかし、やはりそこにも誰の姿も見つからなかった。
「うちらもとりあえず、一階に下りていこうか」
景子がそう言ったが、勇哉はそれには答えず、そのまま教室内に足を踏み入れていった。
「おい。鷹野? なにやってるんだ?」
教室内はある程度片付けられていて、他の手つかずの教室内と比べたら、かなり綺麗になっていた。勇哉はふと、そのときあることを思い出していた。何日か前に、雄一はここで散らかった教室内を片付けていた。あのとき、彼は誰かのノートをながめていたようだった。
勇哉が声をかけると、彼は慌てたようにそれを机の上に置いて何事もなかったように笑っていたが、今思えばどことなくその笑顔には不自然なところがなかっただろうか。どこか取って付けたような、作り笑いを彼はしていなかっただろうか。
勇哉は、そのとき雄一がいた場所へと近づいていった。そこは教室の中では廊下側の、前から三番目にあたる席だった。そこの机の中をのぞくと、置きっぱなしにしてある教科書やノートの類がきちんと整頓されて入れられていた。
勇哉はその中のノートを一冊手にとって、中をぱらぱらと眺めていった。それは、英語のノートだった。少し癖のある字で、アルファベットが書かれてある。
そして、それをじっと見つめていると、ふいにあることに気がついた。
雄一があのとき、どうしてここでノートを調べていたのか。そして、なぜそのことを隠そうとしていたのか。
そのことに気づいた勇哉は、あまりのことに目を見開いた。そして、今このとき、危険が他のメンバーの身に降りかかっているかもしれないことに思い至った。
「やばい! これは罠だったのかもしれないぞ!」
「え? 罠?」
「急ごう! みんなが危ない!」
勇哉はそう叫んで、猛然と教室を飛び出していった。