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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第六章 真実の土曜日
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真実の土曜日2

 文書の差出人Xは、水野正ではない。では誰がXなのか。それを考えたときに、勇哉はふと直が第二の文書を見て言った言葉を思い出していた。


 ――自分という存在に気づいて、見つけて欲しい。


 それを聞いて感じたのは、まるで、すぐ近くにそいつがいるような、そういう恐怖感だった。そのときはそれを気のせいのように思っていたが、今考えるとそれは気のせいではなかったのかもしれない。

 Xは身近にいる誰かなのではないか。そう考えれば、いろいろと説明がつく。


 第一の文書のことにしても、もともと校舎内にいた人間の仕業である可能性は、ずっと考えてきた。けれど、仲間を信じたいという気持ちから、外部の人間の犯行であることを除外することはできずにいたのだ。


 写真を置いていくのも、メンバーのうちの誰かであれば簡単にできた。

 第二の文書については、それを貼れたのは、メンバーの中ではさえと景子だけだが、景子はあの文書のことを知らないと言っていた。それが本当だとすると、残るはさえのみだ。第二の文書を貼ったのは、水城さえで、ほぼ間違いないと言えるだろう。


 しかしそこで、すべての犯行を水城さえの仕業だと決めつけることはできない。

 第一の文書の隠滅をはかったのは景子だったとしても、それをさせたのはさえのあの文書に対する言動があったからだ。さえがXであるなら、やはりあの言動は不自然に映る。

 それともあれも演技のうちだったのだろうか。

 勇哉はそうも考えたが、すぐに頭を横に振った。


 違う。第一の文書を隠滅することで、Xになにか得があったとは思えない。あれはやはり、さえや景子の意志によるものだったはずだ。

 ならばやはりさえは、X本人ではない。Xの協力者であると考えるほうが自然だろう。


 Xがメンバーのうちの誰かであれば、さえに陰で指示を出す機会は今までにいくらでもあった。彼女が学校からいなくなったこともきっとXの指示だったのだろう。いなくなったと思わせることにより、水面下でいろいろと彼女を動かすことができる。彼女が隠れて学校へと戻ってきたのは、Xの指示でなにかをやらされているからなのではないだろうか。


 もしそうだったとしたら、さえを操っているそのXとはいったい誰なのだろうか。

 そう考えたとき、すっと背筋が寒くなった。


 今まで仲間だと思って過ごしてきた人物が、実はみなを裏切っていた。そんなことを考えたくはなかった。みんなであの状況の中を、協力して乗り切ってきたのだ。そんな仲間を疑うなんてことをしたくはなかった。


 けれど、それを避けて真実にたどり着くことはできない。今はそれをしなければ先へと進めないのだ。

 勇哉は唇を噛み締め、再び思考に戻った。


 Xは誰なのか。まず、そこに当然自分自身は除かれる。そして、第一の文書の隠滅をはかった景子も、Xではないと考えてもいいだろう。彼女がスタンガンによる攻撃を受けていることからも、Xである可能性は低い。

 そうすると、残るのは直、千絵、亜美、雄一、透の五人だ。


 そして、先程透が倒れていたのを見て、勇哉はある仮説を思いついた。

 非常ベルを鳴らしたのは、勇哉と一緒にいた直や千絵ではない。景子でも亜美でもなかった。それなら考えられるのは、それ以外のメンバー、さえ、雄一、透の三人だ。さえがやったと考えるのは簡単だが、本当にそうだろうか。あの非常ベルのあとで、透が倒れているのを発見した。そして、そこに雄一の姿はなかった。


 これは偶然だろうか。

 もし雄一が非常ベルを押したのだとしたら? 透を襲ったのは雄一だったのだとしたら?


 Xは雄一だったのかもしれない。


 そんな思いが、勇哉の中に芽生えていた。もしそうだったとしたら、一番に事情を聞くべきなのは、友達である自分自身でなければならない。

 雄一がいいやつであることは、他でもない自分がよくわかっているのだ。こんなことをもし彼がしたのであるとすれば、そこには深い理由があるはずなのだ。

 そんな思いから、勇哉は暗闇の校舎内を雄一の姿を捜して駆け回っていた。


(雄一……! どこだ! どこにいる……?)


 懐中電灯でそこら中を照らすが、勇哉の目に映るのは、誰もいない教室や、不気味に伸びる虚ろな廊下ばかりだった。校舎の東の突きあたりまでやってきたが、それまでに、雄一やさえの姿を見ることはなかった。


「鷹野!」


 後方から声をかけられ、振り向くと、そこに景子が立っていた。


「一人にならないほうがいいって言ってただろ。勝手に走っていくなよ」


「……わりい」


 勇哉はそうひと言だけ口にすると、くるりと向きを変えて、角の教室の中へと足を踏み入れていった。教室の中をさっと懐中電灯で照らしてみたが、やはりそこに人影らしきものは見つからなかった。


「……さえ、本当にどこに行ったんだろう」


 そんなつぶやきが背中から聞こえてきた。勇哉ははっとして、後ろを振り向いた。


「田坂さん。もしかして、水城さんのことまだ信じてるのか……?」


 勇哉の言葉に、今度は景子が驚きを顔に表した。


「当たり前だろ。そりゃ、さえは今回のことになにかしら関わっているんだろうけど、だからと言って、さえを信じられなくなるなんてことはありえない。だってさえは理由なくそんなことをやる子じゃない。これにはなにか事情があるに違いないんだ。あたしは親友として、それを聞く権利があると思っている。そして、それによって苦しんでいるに違いない彼女のことを、あたしがこの手で助けたいんだ」


 景子のこの言葉に、勇哉は衝撃を受けた。

 彼女のさえへの友情は本物なのだ。その心のなんという強さか。

 そして、勇哉は雄一への自分自身の気持ちをあらためて思った。雄一は親友だ。一年のころから、同じサッカー部として一緒に過ごしてきた。しかし今、その雄一に疑いをかけているのは、他でもない自分自身なのだ。


 景子と同じように、もし雄一がXだとしても、それにはなにか理由があるはずだと勇哉は考えている。しかしそれでも、心のどこかで景子ほどに友達を信じ切れていない自分が存在している。信じたいと願っているのに、もしそれが真実だったのだとしたら、信じ切れない自分がいるような気がしている。こんな自分は、本当に彼の友達と呼べるのだろうか。友達を信じ切れない自分は友達失格なのではないのだろうか。


「とりあえず、みんなのところに戻ろうか。ここらには誰もいないみたいだし」


 勇哉はぬぐい去れない自己嫌悪感を抱いたまま、そこをあとにした。


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