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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第六章 真実の土曜日
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真実の土曜日1

 非常ベルの音は、保健室にいる亜美にも聞こえていた。


「なにこれ? 非常ベル? まさか、火事……っ?」


「いや、どうかな。なんかそういうのじゃない感じがするけど」


 ベッドから身を起こした景子先輩がそう言った。


「え?」


「もしかすると、これもXの仕業なんじゃないか? 心理的にこちらを追い込もうとしている。そういう作戦なんだよ」


「や、やっぱりXはこれからなにかをしようとしてるんですね? もしかして今、みんながバラバラになったのはまずかったんじゃ?」


「そうかもしれない。これは、みんなを捜しに行ったほうがいいかもしれないな」


「え。じゃ、じゃあ、わたしが行ってきます。景子先輩はまだ休んでいたほうが……」


「馬鹿亜美。うちらまでバラバラになってどうするよ。あたしも一緒に行くに決まってんだろ」言いながら、景子先輩はもうベッドから抜け出ていた。


「大丈夫なんですか? どこかまだ痛むんじゃ……」


「たいしたことないよ。それより、この状況はなにかやばい感じがする。早くみんなと合流をはかろう!」


 景子先輩がベッドの枕元にあったランタンを手にして廊下へと出たのに次いで、亜美も保健室の外へと躍り出た。すると、非常ベルの音の中に、バタバタという足音が混ざって聞こえてきた。そちらのほうを振り向くと、懐中電灯の灯りが三つ揺れながら近づいてきていた。鷹野先輩に直先輩、千絵先輩の三人だ。


「田坂さんに五十嵐さん?」


 声をかけてきたのは鷹野先輩だった。景子先輩がそれに食いつくように言った。


「鷹野! なんなんだよ、この音!」


「わからない! とにかくやったのは俺たちじゃない!」


 非常ベルの音がうるさいせいで、二人とも声を張り上げて会話をかわしていた。その声色には、苛立ちもまぎれている。


「誤作動か? それか、やっぱり他の誰かが押したんだろうか?」


「どこかで本当に火事が起きてるって可能性もある」


「江藤たちは?」


「まだこれから捜しに行くところだ。とりあえず、先にこっちに来たんだ」


「そうか。じゃあ、あたしらも一緒に行くよ! なんか嫌な感じがする。早くみんなを集めたほうがいい」


「そうだな。ここからはみんなで行動しよう! 田坂ももう、体のほういいんだな?」


「もう大丈夫だ。それより、今は江藤たちのことだ。上の階のほうか?」


「ああ。とにかく行ってみよう!」


 そうしてみな、一番近くにある階段へと向かい、そこを駆け上がっていった。

 二階へ上がると、なぜか先程より闇が濃くなったように感じ、亜美は背筋が震えた。早く早くと気持ちは焦るが、体は緊張して、みなについていくのがやっとだった。


「雄一ーっ! 透ーっ!」


 鷹野先輩が声を張り上げて彼らを呼んでいた。他のメンバーも廊下の向こうに呼びかけ、反応がないか確かめていた。しかし、校舎の二階をざっとまわってみたが、彼らの姿を見つけることはできなかった。


「三階に上がっていったのかもしれないな」


「行ってみよう!」


 鷹野先輩と景子先輩が先陣を切って、三階へと続く階段を上がっていくのを、他のメンバーも必死についていっていた。千絵先輩はみなよりかなり出遅れて、息を切らしながら階段を上がっていた。


「雄一ーっ! 透ーっ! いたら返事しろーっ!」


 三階にたどり着くと、鷹野先輩が再び大声で暗闇の彼方に呼びかけていた。他のメンバーも、それに続くように辺りに呼びかけている。

 暗闇の中、鳴り続ける非常ベル。それはいやおうなく、みなの心を不安でかき乱していた。


「くそ! 返事がない。あいつら、どこに行ったんだ?」


「鷹野くん。落ち着いて。教室の中も捜していきましょう?」


 直先輩が、鷹野先輩の昂ぶった感情をなだめるようにそう言った。


「……そうだな。今のところ火の手とかも見えないし、まだ差し迫って危険というわけでもなさそうだしな」


 直先輩の言葉に少し我を取り戻したのか、懐中電灯の灯りの中の彼の表情は、幾分やわらいだように見えた。しかしそれもわずかな間のことでしかないだろうことは、彼の眉間に刻まれた皺から見て取れた。


「とにかく急いで見てまわろう!」


 そうしてみなで協力して、各教室を灯りで照らしてまわった。

 三年一組の教室の前まで来たときだった。亜美が教室の入り口付近を懐中電灯の灯りで照らしたとき、なにか大きなものが落ちているように見えた。


「きゃっ!」


 亜美が叫び声を上げると、みながそれに気がついて、亜美を振り返った。


「い、今あそこになにかが見えて……」


 亜美が恐る恐る先程照らしたものをもう一度照らし出すと、あっと誰かが叫んだ。


「おい! しっかりしろ!」


 鷹野先輩がそこに駆けつけ、その人を抱き上げていた。


「宮島くん!」


 直先輩が悲痛な叫び声を上げた。それを聞いて、亜美は先程自分が照らし出したものの正体を知った。


「透! 返事をしろ!」


 鷹野先輩が必死に呼びかけるが、宮島先輩から反応が返ってくることはなかった。


「た、鷹野くん。宮島くんは……?」


「大丈夫。意識を失っているだけみたいだ」


 それを聞いて、みな、安堵したように深く息をついた。


「でもこれ、田坂さんのときと同じ状況だな。透もスタンガンでやられたんだろうか?」


「そう考えるのが自然よね……」


「でも雄一は? 透と一緒だったんだろう?」


「江藤くんも襲われてるかもしれないわ。彼のことも早く捜さないと!」


 直先輩の言葉に、鷹野先輩は立ち上がった。


「俺、捜しに行ってくる。清川さんたち、透のこと頼むよ」


 彼はそう言うと、廊下の向こうに走り去っていった。


「あ、鷹野くん!」


「あいつ、なに焦ってやがんだ。清川さん。あたしもあいつについてくから、あとよろしく頼むよ」そう言って、景子先輩も鷹野先輩のあとを追った。


「景子先輩! 待ってくださいよ!」


 それを見た亜美も、慌ててそのあとを追いかけていった。


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