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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第五章 静寂の金曜日
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静寂の金曜日14

「まず、今までどこにいたのか。そこから話すことにするよ」


 ランタンのぼんやりとした灯りの中、景子は語り始めた。


「さえがいなくなってから、あたしは町を捜し回っていた。家にも行ってみたけど、さえの姿は当然のようにそこにはなかった。最初はあたしも闇雲に捜し回ることしか思いつかなかった。けど、それじゃ見つからないということがわかってから、さえが身を隠すならどこに行くかということを考えてみた。そこで思いついたのが、昔よく遊びに行っていたという、近所の電気店のことだった。そこのお兄さんが子供好きで、さえもよく遊んでもらっていたって話を聞いたことがあったんだ。そして行ってみたら、そこにさえはいたよ。冷蔵庫の横でうずくまってしくしくと泣いていた」


 あの気の強いイメージのあるさえが、そんなふうに迷子の子供のように泣いている姿は、千絵にはなかなか想像がつかなかった。


「さえはすごく怯えていた。あの怪文書を見つけてからのさえは、すごく気が立っていて、あたしも気が気じゃなかった。清川さんがあの文書を黒板に貼ろうとしただけで、あんなふうにむきになってたのには、あたしもちょっと不思議に思っていたんだ。だけど、あとで理由を聞いてみて、納得したよ。本当のことをみなの前で言いたくなかったわけも。だから、あたしが代わりにあの文書を破り捨てた。さえのためにも、あんなものは捨て去ったほうがいい。そう思ったんだ」


「理由……っていうのは、もしかすると二年前の一年三組でのいじめのことに起因するものなのかしら?」直がそう言うと、景子はふっと笑みを浮かべた。


「なんだ。もうわかってるんじゃん。それじゃあ、もう隠してても仕方ないね。……そうだよ。さえは、あの文書が水野正の書いたものだって気がついたんだ。そして、彼が復讐をしにくると考えて、怯えていた。……自分も、いじめに加担した一人だったから」


「そんな……っ。さえ先輩がいじめなんて……」


 亜美の切実な声に、けれども景子は首を横に振った。


「いじめをしてたのは本当らしい。それも、どちらかというと率先して」


 景子の答えに、亜美は言葉を失っていた。


「……だから、学校にいるのが怖くなった。復讐をされることを恐れて、みなの目を盗んで姿を消した。さえはそう言っていた。それなのに……」


「それ、おかしいよな。だって、さっき田坂さんが言っていたことと矛盾してる」


 勇哉が指摘したことは、千絵も考えていた。さっき、景子はこう言っていたはずだ。

 さえは学校に戻ってきているはずだ、と。


「そうなんだ。付き添っていたあたしになにも言わずに、さえは電気店から再び姿を消した。昼の間、辺りをさんざん捜したけど、その姿は見つけられなかった。それでまさかと思ったけど、学校に戻ったのかもしれないと思ったんだ。みんなにも顔を見せなきゃと思っていたところだったし、とりあえずあたしは学校に向かった。それで、夕方になって学校にやってきたところで、そこにさえの姿を見つけた」


 景子は言いながら、次第に表情を曇らせていった。


「そのときのさえはなんだか不審な行動をしていた。校庭のほうから辺りをうかがうようにして出てきたと思ったら、普段使うことなんてない、北校舎の非常口のほうに向かっていったんだ。辺りも暗くなってきていたし、ちょうどあたしのいた場所の前に車があって、それが死角になっていたせいであたしはさえに見つからずに済んだ。そして不審に思ったあたしは、そのとき彼女にすぐには声をかけず、こっそりとそのあとをつけていくことにしたんだ」


 そうだったのか。さえはいつの間にかこの学校に戻ってきていたのだ。自分たちはそれに気づかずに今まで過ごしていた。ということは、彼女はあえて仲間に気取られないように行動していたということになる。しかし、なぜ彼女はそんな行動を取っていたのだろう。


「そして、彼女が非常口から校舎内に入っていくのを見た。そのころにはもう辺りはだいぶ暗くなってて、校舎内も灯りなしではほとんどなにも見えなくなっていた。けど、さえに気づかれないようにするためには灯りを持ち歩くわけにはいかない。仕方なく、真っ暗な中を手探りしながら、さえの足音を頼りについていった。さえもまた灯りをつけずに歩いていた。ほぼ手探り状態だったけど、さえが工作室の前を通りすぎていったのが足音からわかった。あたしは気づかれていないと思って、そのままそこを通り過ぎようとした。その通り過ぎようとしていた、ちょうどそのときだった。どうやら待ち伏せをされていたらしい。そのあとは見ての通り、あたしは気を失ってしまってたってわけ」


「あれ? ちょっと待って。今の説明だと、田坂さんも水城さんも灯りを持っていなかったってことになるわよね。だったら、千絵ちゃんたちが見たっていう光はなんだったのかしら?」


 直がそう言うと、景子は少し言いにくそうにしていたが、こう答えた。


「……たぶん、それ、スタンガンの光だったんじゃないかな……?」


「スタンガン?」


 みな、その単語に目を丸くした。


「そう。あたしを気絶させたのは、たぶんそれだったんだと思う……」


「え……? でも、その状況でそれを使えたのって……」


 勇哉の口にした当然の疑問に、景子は目を伏せた。

 そうだ。景子はさえを追いかけて校舎に入ったのだ。普通に考えて、それを行使したのは彼女の他にはいなかったはずだ。


「……なにか、理由があったんだと思う。あたしにも言えない、知られたくないことを抱えていたんだと思う。だからお願い。さえを責めないで。さえを悪者みたいに言わないであげて!」


 絞り出すように発した景子の悲痛な叫びは、保健室内の淀んだ空気を瞬間切り裂いた。しかし、それもすぐに疑念の渦に飲み込まれ、闇へと吸い込まれていった。


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