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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第五章 静寂の金曜日
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静寂の金曜日13

「北校舎でなにかが光っていた……?」


 教室に戻り、千絵が先程目撃したことを話すと、みな驚きを隠しきれない様子だった。


「位置的に、一階の工作室辺りからだったと思う。でも、佐々嶋くんたちは戻ってきていないはずだし……」


 千絵の言葉に、直も難しい表情を浮かべていた。


「でも、もしかしたら知らないうちに戻ってきてたって可能性もあるわ。とにかく、一度みんなで見に行ってみましょう」


 そうして、全員でその光が見えた辺りへと向かうことになった。


「見間違えたってことはないんだよな?」


 工作室へ向かう道中、勇哉がそう千絵に訊ねてきた。


「わたし一人ならともかく、五十嵐さんも見てる。見間違いじゃないと思う」


「そっか。そうだよな」


「でも佐々嶋たちが戻ってきてるなら、多少なりともわかりそうなもんだけどな。あいつら原付使ってきてただろ。エンジン音とか結構聞こえるはずだもんな」


 透も横からそう言ってきた。


「そうだな。その前にも教室内とか見て回ってたし、あいつらがいなかったのは間違いなかったはずだ」


「だとしたら、もしかすると……」


「X……?」


「幽霊……?」


 勇哉と透はほぼ同時にそう言った。


「ってなんでそこで幽霊が出てくんだよ! 普通に考えて、誰かが懐中電灯かなんかを持ち歩いてたってほうが自然なはずだろう」


「でも、幽霊だったらおもしろそうじゃん。いかにもオカルティックな話だったからさ」


「なにを呑気な。まあでも、ある意味幽霊より人間のほうが俺は怖いけどな」


「つーか、今の状況ってまさに肝試しみたいじゃね? 夜の学校なんてさ」


「言われてみれば確かに!」


 そんな呑気なことを言い合う男子たちに、直がとうとう鶴のひと声を発した。


「鷹野くんたち、ちょっと静かに!」


 そのひと声で男子二人はしゅんと口を閉ざし、それからはみな静かに歩いていった。

 工作室前に伸びる廊下までやってきたとき、先頭で懐中電灯をかざしていた直が、あっと声を上げた。


「直ちゃん?」


「今、なにかが向こうのほうに見えた気がしたの」


 少し動揺した様子の直に代わって、ランタンを持っていた雄一が前に進み出た。


「僕が先に行って確かめてくるよ」雄一はそう言うと、すたすたと廊下を進んでいった。


「江藤くん……」


 直が動きを止めたので、後ろにいた他のメンバーも同様に立ち止まった。そしてみな、先を歩いていった雄一の様子を固唾を呑んで見守っていた。

 雄一は廊下の途中で立ち止まると、あっと叫んでその場でしゃがみこんだ。遠目には、ランタンの光が床に向かって落ちていったようにも見えた。


「江藤くん? どうしたの?」


 直がそう訊ねると、雄一は少しせっぱ詰まったような声で叫んだ。


「おい! しっかりしろ!」


 その言葉を聞いて、みな慌ただしくそちらへと近づいていった。そして、灯りに照らされたものを見て、みな一瞬言葉を失った。


 そこに倒れていたのは、田坂景子だった。雄一が必死にその肩を揺らしている。


「田坂さん!」


「景子先輩!」


 みな口々に彼女の名前を叫んでいた。しかし、景子はなかなか目を覚まさなかった。


「まさか、景子先輩……」


 亜美の絶望的な声色に気づいて千絵がそちらを振り向くと、彼女はへなへなと床に沈んでいっていた。


「い、五十嵐さん」


「江藤くんっ。田坂さんは……っ」


 直が慌ててそう問うと、雄一が答えた。


「大丈夫。ちゃんと息はしてるよ。ただ、気を失って意識はないみたいだ」


「そう……」


 直はほっと胸を撫で下ろした。最悪の状況を想像したのは、他のメンバーも同じだったようで、安堵の空気がみなの間に広がった。


「でも、どうして彼女がこんなところに? 千絵ちゃんたちの見た光の正体は彼女だったのかしら?」


「わからないけど、そうなのかもしれないな」


「とりあえず、一度、保健室に連れていきましょう。くわしい経緯は、彼女が目を覚ましてから訊けばいいことだわ」


 そうして雄一が景子をおぶって、みなで保健室へと移動した。

 ベッドに寝かされた景子は、どことなくやつれているようにも見えた。安らかに呼吸はしているものの、意識はなかなか戻らなかった。


「景子先輩、大丈夫なんでしょうか……?」亜美の問いに、雄一が答えた。


「少なくとも、目立った外傷とかはないし、きっと大丈夫だと思うよ」


「それにしても、彼女はいったい今までどこにいたんだろう? 水城さんと一緒じゃなかったんだろうか?」


 勇哉のその問いは、誰に向けてというものではなかったが、いずれにしても今それに答えられる人物はいなかった。とにかく今は景子が目覚めるのを待つしかない。

 景子が目覚めたのは、それから随分時間が経ってからだった。時計が役に立たない今は、個人の感覚でそれを推し量ることしかできなかったが、千絵の感覚ではそれはかなり長い時間だったように感じられた。


「……あ……れ……?」


 景子は少しの間ぼんやりと天井を眺めたあと、ゆっくりと周囲に視線を走らせた。


「田坂さん?」


「……え? 清川……さん?」


「よかった。気がついたみたいね。あなた、工作室の前で倒れていたのよ」


 直がそう言うと、景子はなにかを思い出したように、はっと目を見開いた。


「さえ……っ! さえは……? う……っ!」


 景子はベッドから起きあがると、どこかに痛みを感じたのか、顔を俯けてうめき声をあげた。


「田坂さん? 大丈夫?」


 直が慌ててそう言うと、景子は顔をしかめながらも軽くうなずいていた。


「あたしのことは大丈夫……。それより、さえを見なかった? 学校に戻って来ているはずなんだけど……」


「え? 水城さんが? でもわたしたち、彼女の姿は見ていないわよ」


「あ……。そう、なんだ……」


 景子はそう言うと、少し考えるように唇を噛み締めてから、再び口を開いた。


「ねえ、清川さん。あたしが意識を失ってたのって、結構前から?」


「あ、うん。正確な時間っていうのはわからないけど、わたしたちがあなたを発見してから、だいたい一時間くらいは経ってるんじゃないかしら。それよりも前からあなたがあそこにいたんだとしたら、もっと時間が経っているはずよ」


「くそ……っ! そんなに……っ」


「田坂さん? ねえ。なにがあったの? 今までどうしていたの? 他にもあなたにはいろいろ訊かなきゃいけないことがあるわ」


 直のその言葉に、景子はぴくりと目蓋を動かした。


「例の文書のこと。あなたが破り捨てたのよね? どうしてそんなことをしたのか、わたしたちにちゃんと説明してもらえる?」


 直の疑問は、他のメンバーも同じように感じていたことだった。みなの視線の圧力に屈したように、景子はその場でうなだれた。そして、しばらく沈黙したあと、口を開いた。


「……わかった。ちゃんと説明するよ」


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