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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第五章 静寂の金曜日
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静寂の金曜日8

 さえ先輩がいじめを見て見ぬふりをしていたという佐々嶋の言葉は、亜美に大きな衝撃を与えていた。

 さえ先輩はいじめに加担していた。

 亜美の頭の中で、そのことがぐるぐると回っていた。


 嘘だ。なにかの間違いだ。

 昼食もほとんど喉を通らず、胸が苦しかった。さえ先輩や景子先輩が今どこにいるのかわからないだけでも不安でつらいのに、どうしていじめだとかそんなわけのわからない事柄まで出てくるのか。


「水野くんはもともと頭の良い生徒だったわ。だけど、人付き合いはあまりいいとはいえないタイプだった」


「だから、佐々嶋に目をつけられるようなことになってしまったんだろうな」


 直先輩と鷹野先輩はそんなふうに水野正について語っていた。一年一組の教室に戻ってきたメンバーは、再び話し合いを始めていた。


「文書の内容も、そんな彼が書いたと言われれば、一番しっくりくる。字体も特徴的だし、これが水野正の書いたものだという想像がつく人物であれば、この文書がいじめを告発するものだということは、すぐに気づけたのかもしれない」


 鷹野先輩が言うと、今度は江藤先輩がこう言った。


「じゃあ、やっぱり水城さんはそれに気づいて文書を隠滅しようとしたのかもしれないな。そして、彼からの復讐を恐れてここから逃げ出した」


(違う違う。さえ先輩はそんな人じゃない。わたしの知っている先輩は、優しくて正義感が強くてわたしのあこがれで……)


 亜美はそう思いながらも、さえ先輩の中に、亜美自身が知らなかった別の顔があるのではないかということは薄々感じていた。あの怪文書の一件があってから、日に日にその思いは強くなってきていた。


 しかし、亜美はそれを認めたくなかった。地震が起きた際、自分を助けてくれたのは、他でもないさえ先輩たちなのだ。そんな先輩のことを、亜美は疑いたくはなかった。だからこそ、亜美は自身の中で葛藤を繰り返していたのだった。


「それにしても、水城さんもだけど、田坂さんもなかなか学校に戻ってこないのは気になるな。まだ一人で水城さんのことを捜しているんだろうか」江藤先輩が言った。


「そうかもしれない。それか、もしかしたら二人は一緒にいて、まだどこかで留まっているということも考えられるわね」


「そうだったらいいけどな。田坂さんも一緒なら、少しは安心だ」


「そうね。そうだったらいいとわたしも思う。とりあえず、水城さんたちの行方も気になるけど、今のわたしたちにこれ以上できることはないし、今日のところの捜索はここまでということにしておきましょうか」


「そうだね。このまま無闇に捜索を続けてても見つかりそうもないし」


「その代わりと言ってはあれだけれど、あの文書のことでいろいろ気になることも出てきたし、全員で一度、水野くんの家に行ってみない?」


 直先輩のその提案に、他のメンバーたちは驚いた顔をした。亜美もまた、それには思わず顔をあげていた。


「水野正の家に? 大丈夫か? そんなことして」


 鷹野先輩が言うと、直先輩はにこりと微笑んだ。


「そんなの、大丈夫に決まってるわよ。みんな、なにか勘違いしているような気がするけど、水野くんはわたしたちと同じ中学生よ。ただ、学校に出てくることができなくなっちゃっただけで、わたしたちとそう変わりはないのよ。もしそこで彼と会うことができたら、そこでいろいろ話を聞いてみればいい。なにかをしようとしているのなら、説得してやめてもらえばいい」


 直先輩の意見は、はっきりしていてわかりやすかった。明朗で力強い彼女の意見に、その場の空気は変わっていった。


「でも、会えなかったら? もともと彼がいることもはっきりとはしてないわけだし」


「……そのときは、もうそれ以上わたしたちにできることはないわ。でも、もし彼がこの世界にいるのなら、いずれはわたしたちの前に姿を現す。それを待つより、今は仕方ないと思う」


 その彼女の意見に、みな深くうなずいていた。


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