波乱の木曜日11
その日はとりあえず、さえ以外のメンバー全員で家庭科室に行き、食事の準備を手伝うことになった。
窓の外はいつの間にか太陽が姿を消し、灰色の雲が辺りを暗くしていた。そんな様子をときおり眺めながら、勇哉はカレーの鍋の底をかき回していた。
そうして、ようやくどうにか全員分のカレーライスができあがった。
「よし。じゃあ、さっそく食べようぜ!」
一番にそう言ったのは、準備でほとんど役に立っていなかった透だった。
「透。お前はホント作るより食べる専門だな」
「いいだろ。カレーは好物なんだ。それに、そう言う勇哉だってさっきから腹鳴りまくってるじゃねーか」
透の言うとおり、勇哉もお腹がぺこぺこで、カレーを作っている最中から腹がぐうぐうと鳴っていた。女子たちが、そのやりとりをくすくす笑いながら眺めている。
「水城さんも呼んでこないと」直がそう言うと、景子が反応した。
「あたしが呼んでくるよ」
景子は、言うが早いか家庭科室を飛び出していった。
「あの二人、ホント仲良いんだな」
雄一がしみじみとそんなことを言った。確かに、ここに来てからのさえと景子は、勇哉の見る限りでも常に一緒だった。親友同士なのだろう。特に景子は、さえのことをとても気にかけているように見える。
「これ、佐々嶋たちのぶんも、もしかして入ってたりする?」
カレーの入った鍋を見ながら、透が言った。その問いに、勇哉が答える。
「一応は多めに作ってあるけど、欲しいって言ってこなければ、残しておくこともないだろう」
「ふうん。じゃあ、食べてもいいんだな?」
「お前、食い意地張りすぎ」
一応全員揃ってから食べ始めようということで、景子とさえがやってくるのをみんなで待っていた。しかし、なぜか帰りが遅い。心配になった直が席を立ち、様子を見に行くと言って家庭科室から出ようと戸の前に立ったちょうどそのとき、景子がその戸を開けて入ってきた。
「田坂さん。遅いよ。俺待ちくたびれて、お腹ぺこぺこだよー」
透のそんな台詞に、しかし景子が応じることはなかった。景子の異変にまっさきに気づいたのは、すぐそばにいた直だった。
「田坂さん……。どうしたの? 酷い顔色だわ」
直の言うとおり、景子は真っ青な顔をしていた。ふらふらとした足取りで家庭科室内に入ってきたかと思うと、すぐ近くにあった机の上に手をついた。
「田坂さん?」
直がもう一度そう彼女に呼びかけると、景子はようやく口を開いた。
「さえが……」
勇哉は、はっと目を見開いた。
「さえがいなくなった……」
その言葉に、そこにいた全員が凍り付いた。
薄暗い雲が、この学校に魔物を呼び寄せようとしていた。