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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第四章 波乱の木曜日
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波乱の木曜日7

「佐々嶋くん。とにかくそういうことだから、今は返答を待ってもらえる?」


 直先輩が正面に再び向き直って言った。佐々嶋はなにやらおもしろいものでも見るように、直先輩とさえ先輩の様子を眺めていた。


「ああ。それで構わない。待てというならいくらでも待つよ」


 佐々嶋がそう言ったときだった。教室の前方の戸が開き、宮島先輩が姿を現した。


「ただいまー。ちょっと遅くなっちまった……」


 言いながら、その表情がみるみる強張っていくのが、亜美からも見て取れた。この教室の今の状況を、その一瞬で察したのだろう。宮島先輩の視線は固まったように、教室の正面にいる佐々嶋に向けられていた。


「いよう。宮島、だったよな。いいところにやってきた。ちょうど今、お前らのことを話していたんだ」


「え……? なにこれ、どういう……」宮島先輩は佐々嶋からの視線に耐えかねたように、教室に入ろう

としていた足を、逆に後ろへとずらした。


「おいおい。いきなり逃げることないだろ。誰かあいつにも説明してやってくれよ」


 それには戸の近くにいた景子先輩が動いた。景子先輩は宮島先輩の近くにいって、これまでの状況を説明した。それを聞いた彼は、驚愕のためか口を半開きにして絶句していた。

 とりあえず宮島先輩も教室内に入り、教室内のメンバーは一人増えた形となった。


「さて、あとはもう一人だな」


 それからしばらくして、江藤先輩も教室に姿を現した。彼も佐々嶋の存在に驚いてはいたが、それほど取り乱す様子はなかった。それよりも他に気になることでもあるのか、どこかそわそわとしているように見えた。


 もともとのメンバーが全員集まったところで、佐々嶋は一旦土居たちの様子を見てくると言い、教室から出て行った。つまり、その間に話し合えということなのだろう。

 佐々嶋が出ていくと、教室内の空気は一気に緩和されたようだった。緊張に身を固くしていた面々は、一様にほっとした表情を見せている。

 とりあえずみなそれぞれの席に座り、話し合うことになった。


「いったいどうするんだよ。これから」


 宮島先輩がそう言い、鷹野先輩がそれに答えた。


「とりあえず、形としては素直に従ったほうがいいだろうな」


「まじかよ。あんな奴らと仲良くなんてできるわけないだろ」


「だから、形だけだよ。あいつらが欲しいのは、俺たちの持つ情報だ。強がってはいるが、きっと奴らも不安なんだよ。なにか有益な情報を俺たちが握っていないか、探りを入れてきているといったところだろう」


 鷹野先輩の言葉に、今度は直先輩が反応した。


「本当にそれだけなのかしら? もしかしたら、佐々嶋くんは本当にわたしたちと仲間になりたいと思っているってことはないのかしら?」


「それはたぶんない。って言い切るほど彼のことを知っているわけではないけど、ないと思う」そう言ったのは江藤先輩だった。


「彼は基本一匹狼タイプの人間だ。土居や山本とは、利害の一致とか打算で一緒にいるに過ぎない。彼らの間に、僕たちが思い描くような友情はないよ。佐々嶋自身もそう言っていたんだろ? だから、そんな彼がこちらに近づいてきたのも、やはり打算からくるものだろう。この世界では、僕たちといたほうが得だと判断したんだろうね」


「だとしても、表面上は彼らとは友好的に接していたほうがいいということだな。正直本心としてはあいつらと口も聞きたくはないが、みんなの安全のためにはそれも仕方ないだろう」


 鷹野先輩が憮然としながらもそう言った。


「他のみんなは? このまま佐々嶋くんの申し出を受け入れてもいいと思ってる?」


 直先輩がそう言うと、千絵先輩が小さく声を発した。


「……わたしは、直ちゃんの意見に従う。きっと、それが一番いいと思うから」


 亜美はそんな彼女の様子を見てから、ちらりとさえ先輩と景子先輩のほうを見やった。教室に入ってきてから、彼女たちはほとんど言葉を発していなかった。普段ならこんなとき、さえ先輩はもっと前に出て自分の意見を述べるはずだ。しかし、今回に限ってはまるで貝のように口を閉ざしている。先程直先輩に声をかけられたときも、なんだかいつもと様子が違って見えた。思い返してみれば、さえ先輩の様子がおかしくなったのは、外で土居たちと話をしたあとからだったように思う。そのときにしていた話の内容はなんだったろうか。確か、一年三組がどうとか言っていたような……。


「水城さんたちは? 今回のこと、どう思ってる?」


 直先輩がそう訊ねると、先に景子先輩が口を開いた。


「ごめん、清川さん。さえ、ちょっと今調子悪いみたい。あたしが保健室に連れていって休ませるから、その話はそっちでまとめておいてくれる?」


 景子先輩はそう言うと、さえ先輩を促して席を立たせた。


「ちょ、ちょっと待って。あなたたちの意見は? 水城さん。さっき、あなたが話をまとめるってことになってたじゃないの」


「……ごめんなさい。本当にちょっと調子がすぐれないの。この場のまとめ役は、清川さんにお願いするわ。わたしたちもその意見に従うことにするから」


 さえ先輩はそう言い残し、景子先輩と二人で教室を出て行った。残された面々は、なんとなく腑に落ちないような表情を浮かべながら、その光景を見守っていた。

 それに一番戸惑ったのは、亜美だった。頼りにしていた先輩二人がいなくなり、どうすればいいかと不安な気持ちが押し寄せてきた。


「五十嵐さん。あなたもついていきたい?」


 亜美の気持ちを察したのか、隣の席にいた千絵先輩がそう声をかけてきた。


「あ、……いえ。わたしが行ったところで、たいした役には立てないでしょうし、ここに残ります」


 亜美はそう言ったが、千絵先輩の言うとおり、できることならばさえ先輩たちについていきたかった。けれど、なんだか先程の二人の様子は、他者が入り込むことを許さない、そういう雰囲気を醸し出していた。様子のおかしいさえ先輩のことが気がかりではあったものの、あそこで一緒に行くとはとても言い出せなかった。


「仕方ないわね。彼女たちにはあとで意見を訊くことにして、とりあえずこの場に残ったメンバーの意見をまとめることにしましょう」


 直先輩の進行でみなが意見を言い合い、結局佐々嶋の申し出を受け入れる方向でまとまった。結局亜美もそれを受け入れることにしたのだ。これはある意味佐々嶋の圧力に屈する結果ではあったが、それも仕方のないことだった。彼らを仲間とするリスクよりも、そうしなかったときのリスクのが遙かに高い。みなの安全を第一に考えるなら、これは当然の結果だった。

 ただしそれは、さえ先輩と景子先輩の意見を除いたもので、まだメンバー全員の総意が得られたわけではなかった。二人はみなの意見に従うと言ってはいたものの、そこに本心からの同意はないような気がした。


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