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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第四章 波乱の木曜日
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波乱の木曜日2

 勇哉と雄一、透の三人が向かったのは、町の市役所や公民館、福祉会館といった公共施設だった。そういった場所は各地の避難場所として指定されており、有事の際には近隣の住民がそこを頼りに避難してくるはずのところだった。だから勇哉たちはそこに一縷の希望を抱いて、各公共施設をそれぞれの自転車を使って訪ねて回っていた。


「駄目だ。誰一人としている気配はない」


 勇哉は近所で一番大きいとされている公民館から出てくると、先に外で待っていた雄一に話しかけた。


「市役所も福祉会館もなしのつぶてだったからな。もうさほど期待はしてなかったけど、本当にどこにも人間がいないんだな」


 雄一はそう言いながらも、どこかそれを受け入れているようだった。あきらめともつかない苦笑いを浮かべている。


「これ以上人の捜索を続けても、今のところ成果はあがりそうにないな。とりあえず一度家に戻って食料とかを調達するか」


「そうだな。そっちのが有益だろうな」


 透も合流すると、三人はそれぞれの家に食料や生活必需品を取りに行くことになった。あとは各自で学校に集合することにし、おのおの散らばっていった。

 勇哉は二人と別れると、ふいに地震の日の夜のことが脳裏によみがえってきた。電気も点かず、暗闇の中で一人で過ごした孤独で不安な夜。けれど、それは朝が来れば終わりを告げるものだとばかり思っていた。そう信じていた。しかし、待ち人は来ず、なにも元のようには戻らなかった。


 今、空に太陽は見えてはいるが、勇哉の心の中はあの夜のままだった。孤独と不安で押しつぶされそうな心は、いつ壊れてもおかしくない。正直、他のメンバーはよく耐えていると思う。こんな状態でヒステリーを起こさない彼らはすごい。勇哉も必死に耐えてきたが、もう正直限界ではあった。


 しかし、そんな状況だったが、ひとつだけでも希望の光が見えたことに、勇哉の折れそうだった心は、どん底から立ち直ることができた。昨日あのLINEのメッセージが送信できたことは、単なる偶然とは思えない。きっと意味のあることだったのだと思う。あのメッセージを優里は見ただろうか。彼女に自分は生きているということを伝えられただろうか。


 返事はいまだ来てはいないが、きっとそれは届いたのだと信じるしかない。それだけが、今の勇哉にとっての心の支えだった。






 家に荷物を取りに行ってから学校へと戻ると、雄一や透はまだやってきてはいなかった。直と千絵の二人も不在で、先に教室に戻ってきていたのはさえと景子、亜美の三人だった。


「あ、鷹野くん。おかえりー」とさえが言った。


「食材とか適当に持ってきた」


「うちらもさっき帰ってきて、これから家庭科室に行ってなにか調理しようかって話してたとこ。無難にカレーがいいんじゃないかって話になってるけど」


「おお。カレーいいね。俺もなんか手伝うよ」


「そうそう。そのことなんだけど、これから食事のことも当番制にしたほうがいいんじゃないかって思ってるんだ」


「ああ、それは確かに俺も思ってた。調理場に何人もいすぎてもしょうがないし、当番制にしたほうがかえって効率も良くなるかもしれないな」


「じゃあ、またみんなそろったらその話をすることにしようか。他にもいろいろ役割決めて、それぞれが各自の判断で動けるようにしたほうがいいかもね」


「そうだな。男子と女子でも得意とすることが違いそうだしな」


 勇哉がそう言うと、景子がこんなことを口にした。


「あたしはどちらかというと力仕事のほうが得意なんだけど?」


「いや、その辺は柔軟に考えて、各個人がやりたいことを優先していこう」


「そうだね。この共同生活がいつまで続くかわからないけど、その間はみんなで協力していこうよ」


 勇哉はそう話すさえが頼もしく思えた。直との間で予期せぬ衝突はあったものの、彼女自身のことは勇哉も認めている。女子バレー部の部長でもあるという彼女は、やはりそれなりの資質を持っているのだ。直に変わって、リーダーとしてこの場をまとめていくことのできる、その資質を。

 しかし、なにかが釈然としない。直をあんなふうに糾弾した彼女の意図がわからなかった。あのときの彼女は、普段の彼女となにか違っていた。どちらかというと和を重んじる人だと思っていただけに、なんとなく不自然な気がしたのだ。あのときほど、彼女を彼女らしくないと感じたことはなかった。


 そうだ。。あの言動はいつもの彼女らしくなかった。

 きっとそれが、この釈然としない気持ちの理由なのだろう。


「さて、じゃあ今日のところはうちらが昼食の準備に行くことにするよ。鷹野くん。他のみんなにも来たらそう言っておいて」


 そう言い残すと、さえたちは食材を入れたビニール袋を持って、一年一組の教室から出て行った。

 勇哉はさえを引き留めて問い糾したい気持ちをこらえ、教室にとどまった。

 幸い彼女自身は元気そうだ。直もそれほど気に病んでいるふうでもない。こうした女子同士のぶつかりあいは、ときとして起こりうるものなのだ。そう考えれば、こんなことはたいしたことではないのかもしれない。


 そう思って、勇哉が教室の窓のほうを振り返ったときに、それは起こった。


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