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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第三章 懊悩の水曜日
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懊悩の水曜日6

 この学校の校舎は、北校舎と南校舎にわかれている。それぞれの校舎には横並びに各教室が配置されており、それを繋ぐような形で中庭に渡り廊下が渡されていた。渡り廊下は北校舎と南校舎とを繋ぐ連絡通路として、一階と二階から渡れるように作られていた。

 渡り廊下の両脇は中庭になっており、そこには青々とした芝生が敷かれてある。天気のよい日などは、そこで生徒たちがおしゃべりや、昼寝をしたりしている。三中の生徒たちにとって、中庭はそんな憩いの場所だった。しかし今は雨が降っていて、とてもそこに足を踏み入れようという気はおこらない。濡れそぼった芝生の緑が、いつになく寂しい色合いに見えていた。


 勇哉はその渡り廊下の一階部分で、そんな光景を見るともなしに眺めていた。

 あれから直と千絵は、しばらく一年一組の教室には戻ってこなかったが、しばらく経って、二人はみなの前に姿を現した。教室内に広がった不穏な空気はぬぐい去れてはいなかったものの、二人が戻ってきたことで、とりあえず勇哉はほっとした。今はみなで協力して、この状況を乗り切っていくことが第一だ。すぐには再びそんな状態にはなれないかもしれないが、完全にみなの心が決裂してしまう前に、なんとか関係を修復していければいいと思う。


 当分雨脚が落ちる気配はなさそうだということで、さえの提案で、今日は町に下りていくことなく、みな校内で過ごそうということになった。それぞれ自由な時間を過ごすことになり、みな一年一組の教室からぱらぱらと出ていった。勇哉も教室を出て、校舎内を歩いていた。自由時間を使い、試してみたかったことをすることにしたのだ。


 勇哉の手には先程からずっと、携帯電話が握られていた。校舎内に電波の届く場所がどこかにないかと探しているのだ。しかし、先程まで北校舎内をずっと調べて歩いていたが、それは無駄足に終わっていた。

 勇哉はなんの反応も示さない携帯電話を見て、深いため息をついた。表示は頑ななまでに圏外を示したままで、そこからは希望のきの字も見いだすことはできなかった。


 勇哉は携帯から目を離し、再び外の様子を見つめた。雨は容赦なく、校舎の壁や窓ガラスを打ち続けている。そんな眺めだけは以前と変わりないことが、やけに虚しく思えた。

 月曜日に地震が起きてから、日にちとしては二日が経とうとしていた。それなのに、依然として状況は変わらない。時計は四時二十九分で止まったままだ。いつになったらこの状況は変わるのか。世界はどうなってしまったのか。それを知るその糸口すら、なにも掴めていない。ただ無駄に時間だけが過ぎていっていた。そして、その時間さえも本当に過ぎているという確証すらなかった。


 勇哉は今までどんな困難にぶち当たっても、なんとかそれを乗り越えてきた。これからも、自分はそれを乗り越えることができるはずだと考えていた。けれど、今回ばかりはさすがにきつかった。

 なにもわからずこんな状況に放り込まれて、どう対処すればいいのかもなにひとつとしてわからない。こんなことは想定外であり、今まで培った経験や知識も、なにも役に立たなかった。まるでなにも訓練を受けていない一般人が、宇宙空間にひょいと突然投げ出されたようなものだ。ただ、むやみやたらともがいて体力を消耗している。そんな自分がなさけなくて、勇哉は心が折れそうだった。


 勇哉は渡り廊下を渡りきると、南校舎にある西昇降口まで歩いていった。そして、今朝文書が貼られていたというガラス扉へと近づいていった。


 こんな場所に、いったい誰があんなものを貼っていったのだろうか。

 みなの証言を信じるとしたら、それはここにいるメンバー八人と佐々嶋ら三人以外ということになる。つまり、まだ会えていない人物がどこかに存在しているということだ。

 その可能性は確かにある。誰かがなんのためにかはわからないが、自分たちに向けてメッセージを寄こしている。けれど、それも考えれば考えるほどわからなくなっていく。勇哉には、なにをどうすることもできなかった。


「無力だな……」


 そんなことをつぶやく自分もどうかしていた。勇哉は一度外の空気でも吸おうと、扉に手をかけた。しかし扉は開くことはなかった。


「ん? 鍵かかってるのか」


 勇哉は扉についているサムターンを回そうと手を伸ばし、そこで動きを止めた。そして、そこにあるもう一つの扉のところに行き、閉まったままなのかを確認した。


 両方閉まっている。鍵のかかっていない扉はない。

 勇哉はその事実に、ふとあることを思いついた。一度透に確認しなければいけない。


 勇哉は急いで友人の姿を捜しにいった。


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