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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第二章 衝撃の火曜日
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衝撃の火曜日12

 勇哉は食事を終えて、廊下に出た。そして、少し離れた場所で、窓外を眺めて佇んでいる直の姿を見つけた。そんな彼女に静かに近づいていき、そっと声をかけた。


「清川さん。ちょっと話があるんだけど。今っていいかな?」


 彼女は少し考え事でもしていたのか、声をかけた瞬間、ぴくりと肩を震わせた。


「あ、鷹野くん。うん。構わないけど、なに?」


「……実はさっきの調査で、ある出来事があってさ。みんなに話す前に、一応清川さんには伝えておいたほうがいいかと思ってきたんだ」


「ある出来事?」


「うん。……実はさ。俺たちさっき、ここのメンバー以外の生きてる人間に会ったんだ」


 勇哉のその言葉に、直は驚愕に両目を見開いた。


「それ、本当? 町の人?」


「いや、それがきみもよく知ってる人物なんだ……」


 本来なら人に出会えたという事実は、今の状況であれば喜ぶべきことのはずなのに、この場合はそうとは言えなかった。口を濁す勇哉に、直も困惑の表情を浮かべている。


「佐々嶋和輝に会ったんだ」


 直は再び両目を見開いた。ここでその名前を耳にするのが、信じられないとでも言うように。


「佐々嶋の連れの土居と山本もいた。コンビニの商品に勝手に手をつけたり、原付バイクを乗り回したりして、この状況をいいことに、好き勝手やってるみたいだった」


「……そう、だったんだ」


「いろいろ話を訊いておくべきだったと思うけど、いろいろあってちょっとできなかった。でも、あいつらがいたってことは、やっぱりまだ、俺たち以外にも人がいるかもしれないってことだよな。これって少しは希望が持てるってことになるんだろうか?」


 新しい情報を仕入れるためにも、彼らともっと話をするべきだったのだろうが、あの状況でそれをすることは勇哉にはできなかった。彼らと普通に会話をするのは難しい。しかし、佐々嶋らの存在は、他にもどこかに人がいるかもしれないという可能性を示唆している。だからこれは、まったくの無駄な情報でもないはずだ。直がこの事実をどう捉えるのか、勇哉はじっと答えを待った。


「……残念だけど、あまり希望は持てないと思うわ」


 答えは半分予測がついていたが、やはり実際に聞いてみると、落胆の度合いは大きかった。


「やっぱり? あいつらがいたところで、害はあっても利になることはないだろうしな」


「ううん。そういうことではなくて、佐々嶋くんたちはこの学校の生徒でしょう? あの地震の際、彼らもこの学校の敷地内にいた可能性が高いわ。だとしたら、新たな可能性が出てきたとは考えにくい。まあ、本人たちに確認しないとはっきりわからないんだけれど」


「そっか。そうだよな。たぶん、あいつらもあのとき校庭かその付近にいたんだろう。そっちのが理屈としては通るような気がする」


「わたしもそう思う。今日町の中を見て回った感触でも、人は忽然と姿を消してしまったとしか考えられない状況だったわ。それを考慮しても、あのときこの学校の校庭付近にいた一部の生徒だけにこの状況が起きた。または逆にそこにいなかった人たちになにかが起きた。そう考えるしかないと思う。だからきっと、佐々嶋くんたちもあのとき校庭付近にいたんだわ」


「そう簡単に、都合のいいようには事実は動かないってことか……」


 この状況のことについて、考えれば考えるほど、わけがわからなくなる。いったいこの世界はどうなってしまったのだろう。なぜ自分たちだけが、こんな状況に陥ってしまったのだろう。



 直がふいにそんなことをつぶやいた。それを聞いた勇哉は、ぞわりと背筋になにかが這うような感覚を覚えた。

 直の瞳をのぞいて見ると、そこには冷たく暗い深淵があった。


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