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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第二章 衝撃の火曜日
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衝撃の火曜日6

 五十嵐亜美は女子バレー部に入ってすぐに、二人の先輩のことが好きになった。そう言葉にしてしまうといろいろと語弊があるが、もちろんそれは、恋とかそういう意味での好きではない。あこがれや尊敬という意味での『好き』にあたる。


 その一人は水城さえ先輩。バレー部の部長で、バレーがとてもうまい。それに、明るくてとても楽しい先輩だ。

 もう一人は田坂景子先輩。背が高くて髪の短いその風貌は、ぱっと見男の子のようにも見える。さばさばとした性格も相まって、女子部員からは絶大な人気を誇っていた。実際下手な男子よりもかっこいい。

 そんな二人の先輩とお近づきになりたくて、亜美は自分から二人に話しかけた。亜美は昔から人懐こい性格で、先輩たちに気に入られるのに、そう時間はかからなかった。


 昨日の放課後、亜美は校庭の西側にある部室棟の辺りに、二人の先輩がいるのを目撃した。亜美は、同級生たちの輪から抜け出して、先輩たちの元へと走っていった。向かってきた亜美に対して、二人の先輩は温かい微笑みで迎えてくれた。


 先輩たちは部室に用があったらしかった。景子先輩が部室に忘れ物をしていたらしい。しかし、忘れ物を取ってきた景子先輩の表情はどこか冴えなかった。どうやら部活が休みになったことが原因らしかった。景子先輩は本当に部活が大好きなのだ。さえ先輩はそんな景子のことを少々呆れていたが、あまりに落胆した様子の景子先輩のために、再び部室に入り、そこからバレーボールを持ってきた。そして少しだけ、三人でバレーをやってから帰ろうと提案したのだった。それに亜美たちは賛成した。


 幸い、そのとき辺りに教師の姿はなかった。屋外のバレーコートは少し奥まったところにあるので、職員室のある辺りからは見えにくい。それに顧問の教師から今朝の部活動の際に、放課後会議があるということを聞いていたさえは、きっと見つかって注意されることもないだろうと話していた。そんなわけで、たまたま居合わせた亜美も加わって、三人は制服姿のまま、バレーの練習をしていたのだった。


 あのことが起きたのは、そんなときだった。空は暗い雲に覆われ、ゴロゴロと不穏な音を響かせていた。さえ先輩が高くボールを天に弾いたとき、地面が大きく揺らいだ。そして、天に溜まった怒りが爆発したかのような雷鳴が響いた。そのとき亜美は目を閉じていたので、それがどこに落ちたのかはわからなかったが、かなり近かったことだけは確かだった。


 そしてあの、キーンという謎の音が聞こえた。雷鳴のために耳がおかしくなったせいだとそのときは思っていたが、他の人にも聞こえていたということなので、そうではなかったらしかった。

 そして、そのあとのわけのわからない諸々のことがあり、亜美は心細さから先輩たちに助けを求めた。一人で家に行くのも怖くて、先輩たちに無理を言ってついてきてもらったのだ。亜美の家に、他の家族の気配はなかった。飼っている愛犬の姿すら見当たらなかった。そんな家に一人でいることに耐えられなかった亜美は、先輩たちについていく形でそれぞれの家にもいった。結局どちらの家も状況は同様で、家族に会うことはできなかった。


 そして景子先輩の提案で、夜は彼女の家で三人で過ごすことになった。各自の家に戻って家族の帰宅を待つことも考えられたが、亜美は一人であそこに戻るのはやはり怖かった。そのことも配慮して、景子先輩はそう提案してくれたのかもしれなかった。


 さえ先輩が冷蔵庫に残っていた材料で夕飯を作ってくれ、みんなで食事をした。なかなか食事は喉を通らなかったが、それでも頑張って食べた。電気も点かない不安な夜だったが、景子先輩が代わりにろうそくを灯してくれた。暖かい火の色合いを見ることで、亜美も少し心が安らいだ。


 それから一階の和室に布団を敷いて、みなで固まって寝ることにした。亜美はさえ先輩と景子先輩に挟まれる形で眠ることになった。亜美はそのとき、とても不思議な気分だった。最悪の状況の中なのに、自分はなんて幸せ者なのだろうと思った。不安で堪らなくて涙が出たけれど、それを心配して気遣ってくれる先輩たちの優しさが、本当に嬉しかった。


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