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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第二章 衝撃の火曜日
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衝撃の火曜日5

 それから直の指示に従い、それぞれが昨日からの自分たちの状況について話し始めた。


「あの大きな地震で、とにかくパニックだった。でもそのときは、家に帰れば家族に会えると信じてた。だけど、どんなに待っても、俺以外の他の家族は家に帰ってくることはなかった。そして、家族以外の人物にも、ここのメンバー以外には会っていない」


 最初に語った透の話の内容は、他のメンバー全体とも認識は同じだった。そのときの状況を語るときは、みな一様に険しい表情をしていた。

 話の内容は誰のものも似たりよったりだったが、話し合いの中で気になる反応があった。

 それは、あの地震のときに聞こえた音のことだ。それを始めに話したのは、勇哉だった。


「地震が最高潮に達したときに、ほんの短い間だったと思うけど、耳鳴りみたいなかん高い音が聞こえたんだ」


 その勇哉の意見に同意を述べたのは、千絵だった。


「わたしもその変な音を聞いた。すごく耳障りな感じだったと思う」


 彼女は意外なほど真剣にそう話した。まるで直の影のように控えめにそこにいた彼女が、そのときだけははっきりと自分の言葉を話していた。


「その日の朝、その音の噂を聞いていたから、絶対にそれがそうだと思ったの」


 音の噂。勇哉には初耳だったが、意外にもその噂を聞いたことのある人物が、他にもいた。雄一と景子だ。


「雄一もそんな噂聞いてたのかよ。だったら教えてくれればよかったのに」


 勇哉がそう言うと、雄一は「くだらない噂だと思ってたから」と肩をすくめて見せた。


「あたし実は、以前にそれと同じような音を、校庭にいたときに聞いたことがあるんだ。そのときは自分の耳鳴りだって思ってたんだけど、もしかするとそれもその音だったのかも」


 景子は実際に、以前それを聞いていたのだ。これは、その噂が本当だということを裏付ける証言ということになるのではないか。彼女が嘘をついていなければの話だが。


「じゃあ、みなさんに訊きます。あの地震のときに、その音を聞いたという人は挙手してください」


 直の言葉に、その場にいたものたちがそろそろと手を挙げた。周囲を見回しながら、半信半疑で手を挙げるものもいたが、結局その場にいた全員がそれに手を挙げた。


「全員ですね」


 直は特に驚きもせずに、まるでそれを周知の事実であるかのような口調で言った。


「では現時点をもって、その音が実際にあったことであると断定することにします。それを含めて、一度昨日起きたことについて黒板に書き出してみます」


 彼女はそう言うと、黒板に書いた名前を消して、代わりに新しく文字を書き出した。


 五月六日に発生した事象について。

 ・大地震。

 (発生した時刻 四時二十九分?)

 ・落雷。

 ・謎の音。

 ・ライフライン(電気、水道、ガス)の供給停止。

 ・住宅火災。


「とりあえず、わたしが思いつくのはこのくらいかしら」


「なるほどね。こう書き出してみると、確かに現状を把握しやすいや」


「でもそれ以外のことは? 行方不明の人たちのことは? この町以外のところがどうなっているかとかそういうことは?」


 直の板書を見て、透と雄一がそれぞれ違う反応を示した。直は雄一の疑問にも、落ち着いたまま答えた。


「それはまだ、確証が得られていない事象です。でも、わかりやすく整理するためにもそれらも一度書き出してみましょう」


 直はそう言って、再び黒板に文字を書き始めた。


 ・学校、町に人がいなくなった。

 ・電波が通じない。

 (テレビ、ラジオ、携帯電話、固定電話、インターネット等)

 ・時計が止まった。


「うわあ。こうして見てみると、恐ろしく大変な状況なんだね」


 さえが思わずといったふうに声を上げた。それに続くように、景子も口を開く。


「それが現在も進行中。復旧のめどは立っていないときた」


「景子先輩。怖いこと言わないでくださいよぉ」


 亜美が怯えたように、両手で口を押さえた。

 勇哉も口には出さないが、黒板に書かれた状況を理解するにつれて、今がどれほどの非常事態であるかを、あらためて思い知らされた。

 今は五体満足、健康な体で自分たちはここにいる。けれど、昨日のあの地震の瞬間から、すべてが変わってしまった。安全で安心な暮らしはもうない。ここにあるのは、見えない危機。外部からの情報がまったくないこの状況が、どれほど不安で危険なことなのか。勇哉は肌全体で感じ取っていた。


「なにが起きているんだ……」


 つぶやくようにそう言った勇哉の言葉は、教室内に瞬く間に浸透していった。

 しばらくみな黙り込んでいた。そして、全員が固唾を飲んで、黒板に書かれた文字をじっと見つめていた。


「それを知るためにも、調査しなくちゃいけない」


 沈黙を破ったのは、直だった。


「わたしたちに、いったいなにが起こったのか。これから、なにをしなくちゃいけないのか。知らなければいけないと思う」


 毅然と話す直の言葉は、暗闇を照らす灯台の光のようだった。迷いを感じさせない彼女の言葉は、この状況のなか、強い力を持っていた。


「清川さんって、強いんだね」


 そう言ったのは、さえだ。しかし、直は首を横に振った。


「強いわけじゃない。ただ、わたしは思ったことを言っただけのことよ」


「だけどやっぱり、こんな状況で、あなたみたいに落ち着いていられるのはすごいと思う」


 さえは、少し視線を俯けたまま言った。


「ねえ。清川さん。あなたはどう思う? わたしたち、元の生活に戻れると思う?」


 その問いに、直は肯定も否定もしなかった。ただ真っ直ぐに、さえの顔を見つめたままだった。


「……そう。そうだよね。そんなの、あなたにもわかるわけないよね」


 それから話し合いを重ねた結果、まず調査をするべきこととして、本当に町に人がいなくなったのかを確かめることになった。


「全員で一緒に動くのも効率が良くないし、それぞれで別れて調査に行ったほうがいいだろうな」


「そうね。三手くらいに別れて調査する地区を決めましょう。でも、火災が起きているところや危険なところには、くれぐれも近づかないように」


 勇哉の提案に、直や他のメンバーも同意し、自然と親しいもの同士でグループを作ることになった。ちょうどそれぞれの家の方面も、そのグループでわけることができたので、その近辺をそれぞれが調査していくことに決まった。


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