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きみたちはセカイのかけら  作者: 美汐
第二章 衝撃の火曜日
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衝撃の火曜日4

 教室内は机や椅子がぐちゃぐちゃになっていたため、まずはそこをみなで片付けることから始めた。とりあえずどうにか座れるようになり、それぞれが適当な席についていった。


「なんか変な感じ。こうしてると、いつもの日常って気がするな」


 透が椅子の背もたれにのしかかりながら、そんなことを言った。

 勇哉たちは西昇降口に一番近い場所にある、一階の一年一組の教室に集まっていた。席は必要でない机は後ろに押しやることにして、人数分の机と椅子だけを前に出す形にしてある。そして話し合いのしやすいように、半円状にそれらを並べた。


「とりあえず、こうして席に着くだけでも少し落ち着くな」


 雄一もそんなことを口にしていた。隣に座ったさえが呆れたように言った。


「あんたたち気楽ねー。この状況下でそんなことが言えるなんて」


「気楽なわけあるかよ。けど、いちいち深刻に構えてたって仕方ないじゃんよ」


 学校へ着いたときの自分の状況を棚に上げて、透はそんなふうに言い返している。どうやら彼も、いつもの調子を取り戻してきたようだ。


「彼の言い分にも一理あるかもね。せっかくこれだけの人数が揃っているのに、みんながみんな暗くしてたってどうしようもないからさ」


 さえの友人のボーイッシュな女子がさばけた感じでそう言った。

 一年の女子はさえたちお姉さん連中に囲まれながら、控えめに端のほうでちょこんと座っている。目がくりくりとしていて髪の毛を下の方で二つに縛っている。なんとなく愛嬌がある雰囲気なので、きっと先輩たちに可愛がられているのだろう。


「さて、それじゃあとりあえずこの場にいるみんなの自己紹介も兼ねて、黒板に名前を書き出していくことにします。お互いを知っている人もいるけど、知らない人もいるわけなので」


 直は、席に座る間もなくそう言って、前に進み出た。確かに先程から名前の知らない女子たちのことを気にしていたくらいなので、最初に自己紹介をすることには異存はなかった。


「それじゃあ、俺から」


 と一番窓際近くにいた透が手を挙げた。そして席を立って、さっそく話し始めた。


「宮島透。サッカー部に所属してます。趣味はサッカー観戦とテレビゲーム。あ、あとお笑いとかも好きでよく観てます。それと好きな食べ物は……」


「はい。宮島くん。もう結構です」


 直が非情なまでに淡々とそう言って、透のどこまでも続きそうな自己紹介を止めた。涼しい顔で黒板に宮島透と名前を書いている。その姿に、勇哉は思わず尊敬の念を抱いた。


「じゃあ、次は僕かな」


 透が座ったのを見て、その隣にいた雄一がすっと立ち上がった。自然と机の並びの順番で、自己紹介をしていく形になりそうだった。


「僕は江藤雄一。あらためて言うのもなんだけど、宮島と鷹野と同じサッカー部に入っています。よろしく」


 雄一はシンプルにそう言い終えると、再び席に座った。直は今度はなにも言わず、雄一の名前を板書している。次は勇哉の番だった。


「鷹野勇哉。部活は前の二人と同じくサッカー部所属。とにかく今は、俺にとってもここにいるメンバーの存在が頼りです。だから、そういう意味でもこれからよろしく頼みます」


 勇哉は席から立ち上がってそう言うと、周りの面々を見渡した。そうしてから静かに席に座る。続いて、さえが席から立ち上がった。


「わたしは水城さえ。ここにいるみんなとは、たぶん全員面識があると思います。とにかくこのわけのわかんない状況から脱するためにも、みんなで協力していきましょう」


 さえは、持ち前の意志の強そうな表情でそう言った。そのあとには、あの背の高い女子が続いた。みなが座っている中で彼女が立ち上がると、余計身長の高さが際だって見える。


田坂景子たさかけいこ。バレー部所属。よろしく」


 自己紹介もなんだか男前だ。続いて、その隣に座っていた一年の女子が少し慌てて立ち上がった。


五十嵐亜美いがらしあみです。二年生です。えっと、よろしくお願いします」


 亜美が着席すると、次に千絵がゆっくりと椅子から立ち上がった。


「吉沢千絵です。美術部に所属しています。よろしくお願いします」


 小柄な亜美と対比してしまうのは悪いとは思いつつも、千絵の体は亜美と比べて肉付きがよい。ついその二の腕に目がいってしまう。しかしその肌は、白くてきめ細やかに見えた。


「じゃあ、最後はわたしの番ね」


 その台詞で、みなの注目は教卓のところに立っている直に移った。


「わたしは清川直。前期生徒会の会長もやっていたので大抵みな知ってると思います。一応とりあえず、この場は前に出てますけど、こんなふうにわたしがリーダーシップを取るのが嫌だという人がいれば、遠慮せず言ってください。代わりの人を選出することにしますので」


 直はそう言ったが、誰も彼女がリーダーシップを取ることに異を唱えることはなかった。


「清川さんが、このままリーダーでいいと思うよ」


 雄一がそう言い、他の何人かもそれにうなずいていた。


「ありがとう。ではこの話し合いのまとめ役は、とりあえずわたしが務めることにします」


 直はそう言うと、背後の黒板を振り返った。


「さて、これで全員の自己紹介は済んだわけですけど」


 そこには、彼女自身が黒板に書いた八人の名前が、丁寧な文字で並んでいた。


 宮島透。

 江藤雄一。

 鷹野勇哉。

 水城さえ。

 田坂景子。

 五十嵐亜美。

 吉沢千絵。

 清川直。


 こうして見ると、本当に少ない人数だ。今現在、間違いでなければ、この学校内にはこの八人しかいない。


「今後、この人数が増えることも考えられなくはないとは思いますが、とりあえず今いる八人で、今後のことを話し合っていくことにします」


「そうだな。個人個人でいるより、ここにいるメンバーで協力していくほうが絶対いい。みんなもそう思うよな?」


 勇哉がそう話すと、そこにいたメンバーはそれぞれうなずいていた。異論は特にないようだ。


「で、これからどうすんの? さっきこの状況について調査するとかいう話をしてたけど。いってもこれだけの人数しかいないわけだから、たいしたことはできないと思うんだけど」


 勇哉がそう言うと、直はうなずいた。


「確かに、専門的なことはできないから、わたしたちができる範囲のことをやるしかないと思う。他に頼る人も、今のところ見つからないわけだし。とりあえず、今後のことを考える必要もあるし、さしあたっては、現状を把握することが先決だと思うわ。そういう意味での調査を、これからわたしたちでしていく必要があるわね」


「現状を把握……か。確かに」


「まずは、ここにいるみんなに、昨日の地震のときの状況や、現在起きていることについての認識を確認していきます。そして、そこになにか齟齬そごはないか。お互いの認識に、食い違いはないかを確認していく。そうしてから、これからどんな情報が必要か。今後の対策について話し合いたいと思います」


 教卓に手をついてそう語る直の姿は、凛として頼もしく見えた。このわけのわからない、下手をすればパニックに陥りそうな状況の中で、こんなに冷静に、今の状況を整理できる人間はそうはいないだろう。不謹慎かもしれないが、直がこの場にいることに、ある意味感謝した。


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