衝撃の火曜日2
学校へ着くと、校門付近に三人の女生徒たちの姿が見えた。そこにいたのはやはり、昨日の地震のときに校庭にいた生徒たちだった。水城さえと、彼女と同じバレー部の背の高い女子、それと彼女たちの後輩らしき女子の三人。彼女たちも勇哉と同じように、制服を身につけていた。
「あ、鷹野くん。おはよう」
さえが勇哉に気づいて、真っ先に声をかけてきた。彼女たちの間にも、やや疲れた雰囲気が漂っていたが、それでもさえの声は明るく響いて聞こえた。
「おっす」
勇哉は彼女たちの元まで近づくと、たまらない安堵感で満たされた。やはり、こうして他に誰かがいるというのは、なによりも心強い。女子たちはすぐには次の言葉を発さず、なにかを相談するように三人で視線を交わしてから、代表してさえが話し出した。
「あのさ。鷹野くんのところ、親は帰ってきた?」
彼女は端的にそう言った。こんなことを訊いてくるということは、彼女たちも自分と同じような状況なのかもしれない。
「いいや。親どころか、学校出てから俺たち以外の人間の姿を見ていない」
言葉にすると、とても現実のことには思えなかった。しかし、目の前にいる女子たちは、それを笑い飛ばすようなことはしなかった。
「……そっか。実はうちらも同じでさ。昨日から誰も家族や他の人に会えてないんだよね。携帯や家の電話も通じないし、連絡も情報もなくて困ってたんだ。友達のところとか今朝からいろいろ訪ねてもみたんだけど、結局うちら以外の子には会うことはできなかった。それで、学校に行けば他にも誰か来てるかもしれないと思って、三人でここまで来たところなんだ」
「そっか。じゃあ俺と同じだ」
勇哉は有益な情報がないことに、ため息を漏らす。
「うん。まあでも、ここに来たのは正解だったかな」
「え?」
「学校に来れば、昨日のメンバーには会えるかなと思ってたから」
さえはにこりと笑みを浮かべた。勇哉もつられるようにして微笑む。やはりこうして生身の人間とふれあえるということは、この非常時においてはとても大きなものだ。ただでさえ不安な状況下で、たった一人孤独に耐えるのは、このうえなくつらい。
昨日の夜に味わったのは、まさにそれだった。世界にたった一人取り残されたような孤独と恐怖。静かすぎる暗闇は、窒息しそうなほどの圧迫感があった。もしそれがこの先もずっと続くのだとしたら、それはまるで地獄だ。人は一人では生きていかれない。それを、本当の意味で思い知った夜だった。だからこそ、人の温かさを感じられることは本当に嬉しい。ここで彼女たちに再会できたことは、勇哉にとって大いなる助けだった。
しかしその嬉しさも、すぐに現実の重さによってかき消された。さえたちの表情も、希望が見えたのは一瞬だけで、あとは一貫して暗いものが続いている。
「ここまで来る途中の町の光景、見た?」
さえの言葉に、勇哉は重くうなずく。
「あちこちで煙とか上がってたな。いろいろ倒れてたりとか崩れ落ちてたり……」
「酷かった……。でも、それなのに絶対おかしいよね?」
彼女の言いたいことは、勇哉にもわかっていた。
「静か過ぎるんだよね。あんなに火事が起きてるっていうのに、消防車のサイレンや放送も聞こえない。車だって一台も走っていない。人の声も、犬の鳴き声だって聞こえない」
勇哉は振り向いて、視界に広がる町の光景を見つめた。暗い雲の下に見えるのは、住み慣れたはずの町の光景。しかし、そのところどころからは火の手があがり、煙がのぼっている。それは鎮火するどころか、どんどん勢いを増していっているように見えた。
「絶対に、変だよね」
勇哉はそれに、なにも答えることができなかった。