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―5月18日 オトロンの南西500KM地点 高度10000M―
輸送機が4機飛んで行く。内2機には兵士が、残り2機には機械が詰まっている。その2機の機械の中央にはポッドが一つずつ立てられている。
ポッドの中で少女は薄く目を開ける。白い壁以外、何も目に映らないのを確認し、再び目を閉じる。ずっと立ち続けてはいるが、足に体重はかかっていないので疲れは無い。まるで浮いているようだ、と少女は思う。再び目を閉ざし、今後のことを考えていると、耳元の機器から声が響く。
〈到着まで大体30分だから、最終確認を行う。いいな?〉
〈はい。〉
「……ん。」
〈まず、今作戦の目的だが、お前達が聞いている通り、オトロンの民の解放だ。手段は問わない。最善は透析を行うことだが、止むを得ない場合は無力化しろ。〉
〈それは殺せ、ということですか?〉
〈違うな02。あくまでそれは最終手段だ。武器を破壊したり、気絶させたりすることがメインだ。〉
〈そうですか。了解しました。〉
「ふふっ」
01と02は性格こそ違えど、やはり思考回路を同じくする姉妹だ、と03は考え、思わず笑う。
〈ん? どうかしたか?〉
「……いや、なんでもない。」
慌てて声色を戻すが、多少上擦る。幸い誰も追及せず、事なきを得たが、03は感情を表に出すまいと固く決意する。
〈それで03は確認したいことがあるか?〉
「……ない。」
〈うむ。それでだな、オトロンで、これまで観測されたことのない熱源を確認した。敵の兵器かもしれないから、くれぐれも気を付けてくれ。〉
「……サンプルを持ち帰れば、褒めてもらえる?」
〈そりゃそうだろうが…無理はするなよ?〉
「……デクソール様の為なら命でも惜しくない。」
〈まさにその通りです。〉
〈あのなあ、お前ら、自分が死んだらあの方が悲しむとは考えられないのか? もっと自分を大事にしろ。〉
〈私は本来10年前に死んでいました。あるべき場所に帰るだけです。〉
「……あの方が私たちごときに執心する訳が無い。もっと大局的に見るはず。」
〈ああもうわかったよ。それじゃあ俺が悲しむから死ぬな。いいな?〉
「……じゃあ、生きて帰ったらなんか頂戴。」
〈どういう論理だ、そりゃ?〉
フレイが思わず素っ頓狂な声を上げる。
「……私たちが生きて帰るというのが貴方の願いなら、その願いを叶えてもらったらお礼をするべき。」
〈そうなのか? お前たち自身の為に生きて欲しいと思うんだがな…〉
「……つべこべ言わない。なんか頂戴。」
〈そうだな… じゃあ、俺がケーキを作ってやるよ。〉
〈「けーき?」〉
2人の声が重なる。
〈ああそうか、お前達は知らないのか。旧世代の食べ物ですごく甘いんだ。〉
「……それでいい。」
即答する。言い方に力が籠ってしまったが、がっついているようには聞こえないはずだ、と03は自分を落ち着ける。
〈そういや03、お前、甘いもの好きだったな。〉
「……げっ」
思わず声を漏らすと、フレイと02の笑い声が聞こえる。それとは裏腹に03の中では、築き上げてきたはずの、寡黙で知的なイメージがガラガラと音を立てて崩れていった。
〈03さん、無理しなくてもいいんですよ?〉
〈確かにそうだな。時々出るお前の素の方が似合っていると思うぞ?〉
「……いや、私はこれを貫く。」
〈もう勝手にしろ。さて、そろそろ降下だ。準備はいいな?〉
「……ん。」
〈はい。〉
〈それでは各員、降下準備に入れ。〉
その声と共に03はコマンドを発する。
〈「……射出シークエンスに移行。」〉
機械音声が続く。
〈射出シークエンスに移行〉〈自由落下演算開始〉〈風力偏差演算開始〉〈誘導システム回路確認開始〉
〈減速機システム回路確認開始〉〈衝撃吸収システム回路確認〉……
30秒程の後、再び音声が告げる。
〈システム オールグリーン 射出可能 降下地点を指定してください〉
〈降下地点はどうしますか?〉
〈オトロンの北部の方が熱源反応が少ない。そうだな…セントラルタワーの北部8KMだから、455.756が良いな。〉
〈「……了解。座標設定455.756。」〉
〈指定しました 射出まであと10秒〉
〈10〉
〈検討を祈る〉
〈9〉
〈はい。〉
「……ん。」
〈8〉〈7〉〈6〉〈5〉〈4〉〈3〉〈2〉〈1〉〈射出〉
ポッドが二つ、宙に放たれた。