1-1´
―およそ3時間前―
旧リバリタスとマキナス連邦を隔てる海域の上空を1匹の巨大な生物と、10の輸送機がV字を形成して飛んでいく。その生物は、角の生えた爬虫類のような体に蝙蝠のような羽根が両腕についている。全身は特殊なゴムで覆われ、中身は機械でできているので、生物学上、どう頑張っても生物とは呼べないが、製作者が頑なにそう言い張るので、その存在を知る者は皆、諦めてそういう事にしている。どらごんなる生き物は機械でできている、と。
そのどらごんとやらには、AIは積まれていない。製作者が生物としての勘を重んじ、人間が直接操作するようにしたからだ。その操縦者は一団の遥か南方、5000KM離れた所からデバイスに囲まれて座っている。
液晶ゴーグルをつけた少女は楽しげに笑う。
「あははっ! まさか本当にこれで行くとは思わなかったよ! 普通の爆撃機で行った方がよかったんじゃない?」
「わかってるだろ、01。これはリントヴルムの性能テストも兼ねているんだ。真面目にやれ。」
オペレータが注意する。
「はいはい、わかってるって。よろしくね、リンちゃん。ところであの王さまになんかおみやげを持って帰った方がいいのかなぁ?」
「あの方の色好みな所は気になるが、まあお前の判断に任せよう。」
「じゃあ、良さそうな娘を見つけたら適宜回収ってことで。」
「了解」
こうして一団はマキナスの首都、オトロン目指して飛んでいく。
2時間半程すると、オトロン最高のセントラルタワーがはっきり見えてくる。01なる少女はこれといった迎撃も無しに首都まで来られてしまったことに、いささか落胆しつつも、隊員に指示を出す。とはいっても、指示というには余りに簡素で雑なものであったが。
「平和ボケしてるみんなに、ちょっとあいさつしよっか!」と。
そういいつつ彼女はレバーに付いているボタンのひとつを押す。機械音声がそれに続く。
〈レーザー起動〉〈エネルギー充填開始〉〈照準補正開始〉
彼女の視界には、大きさの異なる2つの白い円が表示され、互いにランダムに動き回る(ように彼女には見えた)。それと同時に、視界の下部中央ではエネルギーのゲージが表示される。
〈エネルギーチャージ20%〉〈光学偏向演算開始〉〈重力偏向演算開始〉〈エネルギーチャージ40%〉〈エネルギーチャージ60%〉〈エネルギーチャージ80%〉〈光学偏向演算完了〉〈重力偏向演算完了〉〈照準補正完了〉〈エネルギーチャージ100%〉〈射撃可能〉
その間、およそ20秒。2つの円は中心を重ね、赤く変わり、ゲージは緑から黄色になった。少女は待ちくたびれたかのように不満げに声を漏らす。
「演算おそすぎ~。まあいいや。じゃあ早速うちましょ~。ぽちっ」
リントヴルムの口から熱線が放たれる。
熱線は緩やかなカーブを描いてセントラルタワーに直撃する。10秒程の照射の後、レーザーが止まる。
〈オーバーヒート〉
着弾箇所をドラゴンのカメラ越しに見て、またもや少女は不満げに声を漏らす。
鉄骨は融解し、黒く焦げた穴がぽっかりと開いている。どうやらそれだけでは足りないらしい。
「やっぱなんか地味じゃ~ん。もっとなんかないの~?」
少女が他のボタンを探し始めると、オペレータがそれを止める。
「ちょっと待て。あのレーザーは遅れて爆発するらしい。なんでも、原子核を崩壊させるとか。」
「ほんとに?」
「まあ、だからしばらく様子を見ろ」
1、2秒後、セントラルタワーが白い光に包まれる。
「おおおっ! すご~い! きれいなはなび~!」
少女は、無垢な子供のように瞳を輝かせた。
隊員は本当にこいつが隊長でいいのかという疑問を抱く。しかし、彼女は戦闘に関しては天才であるから、と各々自分を納得させた。