初夏の夜。1の巻
昼の暑さと梅雨の湿気を同時に引き継いでしまった残念な蒸し暑い夜、お風呂上がりにドライヤーをかけようものなら汗と湿気で入浴前に元通り。はぁ、めんどい。それならドライヤーをかけない方が賢いと思う。そうだ、きっと僕は今一番賢い選択をしている。あー、うん、賢いとかは正直、どーでもいーや。
湿った髪をそのままにソファーにうつ伏せに転がって目を瞑る、わん、つー、すりー……で、都合よく眠らせては貰えなかった。
「…み! 和美ー!!ちょっと!返事くらいしなさいよ、居ないわけないのわかってるんだから、入るわよ!」
んー、言ってるだいぶ途中で入ってくる音が聞こえた気がする。ただもう僕は1ミリだって身体を動かす気分じゃない、いこやすが次に何を言うかわかりきっているけれどそれでも僕は動かない。
「まった髪そのままで寝てんのバッカじゃないの!?なんで!!そう!!だらしないのよ!!!」
「んー…」
正確には、いこやすが何をするかわかっているから動く必要がなかったわけで。慣れてくれたおかげか手際よく僕の部屋からドライヤーとタオルを出して、ん、今日はいつもより少し雑っぽい。それはさておきいや〜楽ちん。言うまでもないけれど、いこやすが来なかったらそれはそれで普通に僕は朝を迎えてたつもりだった。
前髪を乾かすのに起こされる。乾くまでその間もずっと小言を言われていた気がするけどあまり覚えてない。
「そんでー?いこやすはいったい何しにきたのー」
「まったく誰のせいで話し出せなくなったと思ってるのよ! って違っ!?ついいつもの癖でドライヤーなんて!!」
「おあっ」
また小言が始まったと思ったら急に腕を掴まれて外に連れ出された、ねぇこれ、まさかとは思うけど……
「緊急招集よ!!もう他の人達は先に向かってる!あーもうっ!ただでさえ遅かったのに」
聞くと目的地は今年も七夕参りで賑わうエール神社。町のはずれにある木々に囲まれた、この辺で一番大きなお社。そこに緊急招集、つまりゲンマが出たっぽい。なんでこんな半端な時間に、こっちの都合も考えて欲しいよね。
「はぁ、結局お風呂入り直しじゃん…」
もういっそ入らないでも良いかなぁ、うぅ、めんどい…。