表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

花言葉

作者: 雨水

この世にはたくさんの花言葉が存在している。

例えば、赤いバラには「愛情」や「情熱的な恋」、それが白色に変われば「純潔」、はたまた桃色になったら「上品」になったりと、一つの花だけで色々な花言葉があるのです。

これから幕を開ける物語は、一輪の花による不思議な出会いを描いた物語。




---



ギラギラと照りつける太陽。大粒の汗をぬぐい、熱せられたアスファルトの上をゆっくりと歩く。ぬぐっても、ぬぐっても、汗は止まることを知らない。僕はバックからぬるくなってしまった水を取り出し、浴びるように飲み干す。一滴でもこぼすと、鉄板と化したアスファルトの上で蒸発してしまいそうだ。

冷房が効いている涼しい部屋でゆっくり寝ていたい。

なぜこんな暑い中外にいるのかって?

僕だって家から出たくなかったさ。原因はあの出来事だよ。思い出したくもない、あの出来事。



---



「はー。涼しい……」


エアコン。なんて快適な機械だろうか。エアコンを開発した人に会って、これ以上ないほど感謝したい。


ソファーに横たわりテレビを見つめる。


「今日の気温は38度。照りつける日差しも強く、熱中症にご注意ください」


む? 35度だと? こんな日に外へは出たくないものだな。しかも日差しが強いのか。 買い物は明日、いや明後日にでも行くしかないか。

そんなことを考えていたら、だんだんと眠くなってきた……。


「ちょっと寝るかー……」


一度背伸びをし、もう一度横たわる。大きなあくび。意識がふわふわとしてきて、目を閉じる。そこから眠りにつくまで、どのくらいかかったかは分からない。



---



「……うん?」


寝苦しさを覚え、目を覚ます。部屋の中は暑くなっていた。

エアコンが切れたのか。

リモコンへ手を伸ばし、ボタンを押す。


ピッ。


そしてまた夢に中へ……。


行くことはできなかった。


「む?」


ピッ。


つかない。つかないんだ、冷房が。

これはマズイ。緊急事態だ。激しい焦燥感に駆られる。

焦りと暑さから、どんどん汗が流れ出てくる。

エアコンを修理する? いいや、一日じゃ無理だろう。どこか涼しい店へ行く? それは夜、寝るときに僕が生き絶えてしまう。


思考を巡らせ、行き着いた答え。


扇風機を買うしかない……。



---



そして今に至る。

扇風機を買うために、この38度という絶望的な暑さの中、外を歩いていたのである。家電量販店までは家から少し歩かなければならない。暑さのせいで家電量販店までの道のりが、まるで万里の長城の端から端まで歩かされているように感じる。


しっかりと意識を保つのも難しいほど衰弱していた。スポットライトで照らされ、激しい熱気に包まれている。僕はスターにでもなったのだろうか。


バシャ。


足にひんやりとした水がかかる。

朦朧としていた意識を覚醒させるには十分すぎる出来事だった。


「す、すみません!」


そんな声が聞こえた。


「はは、大丈夫です……」


視界と体がグラグラと揺れ、力が入らなくなってきた。視界はだんだんと白くなっていき、耳鳴りのような音が遠く、いや近く、やはり遠くから聴こえてくるような感覚に襲われた。




---



目を開けると、畳の上で寝ていた。風鈴の音が聞こえる。


ふむ? 夢を見ていた、わけでもない。


体を起こし、辺りを見回す。見慣れない景色だ。

その時、襖が開き、花柄のエプロンを着た若い女性が部屋へ入ってきた。


「気がつかれたんですね、よかったです」


この女の人は……。うん、知り合いじゃない。


「あのどうして僕はここで寝ていたんですか?」

「えっと……。今日はものすごく暑いので、軒先で打ち水をしていたところ、あなたが倒れてしまったもので……」


そうか。僕は家電量販店へと向かっていたんだった。


「それはご迷惑をおかけしました……」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。どうぞ、お水です」


お盆に乗せられている水滴のついた透明なコップ。そしてプカプカと浮いている氷。それが白く綺麗な手によって差し出される。


「あ、ありがとうございます」


つ、冷たい。手を介して伝わってくるひんやりとした感覚。恐る恐る口へ近づけ、喉へ流し込む。

美味しい。これほどまでに冷えた水が美味しいことがあっただろうか? まるで北極の流氷の上にいる気分になった。

そして数秒後、突然、頭痛に襲われる。

そう、あれだ。かき氷を食べると襲ってくる、あの頭痛。


「ごちそうさまでした」


カランカランと音を立てるコップをお盆の上へ乗せる。

意識がはっきりしてきて気づいた。


「ものすごくいい匂いがしますね」


そう、花の匂いだ。あの鼻をくすぐる、独特な花の匂い。僕はあれが好きなのだ。


「ええ、私は花屋を営んでいまして。いろんな花がありますので、ぜひ見ていってください」


女性はゆっくりと立ち上がり、お盆を運んでいく。


「私はお店の方にいるので、体調が良くなったらお越しください」


僕は軽く頷く。もう少しだけ風鈴と一緒に庭を眺めていよう、そう思った。



---



カラフルな空間。色とりどりの花。ふんわりとした匂い。

僕は多種にわたる花をひとつひとつ見つめている。

この店の素晴らしい点は、ひとつの花ごとに花言葉が書かれていることだ。


「アガパンサス」


聞いたことのない花だ。

花言葉は「恋の訪れ」

なるほど、僕にはまったく関係のない花だな。


「アスチルベ」


これはどんな花言葉だろうか。

花言葉は……。

「恋の訪れ」

ほう、なんだ。この店は僕に嫌がらせをしているのだろうか。そんな出会いはないのだと、僕には関係のない話だと。思った矢先にこれか。


待て。みじめになるだけだ。

首を振って考えるのをやめた。


気を取り直して、別の花を見る。


「アンスリウム」


花言葉は……。

「恋にもだえる心」

そうか、もう動じないからな。そんな低レベルな煽り方では僕は怒らないぞ。詰めが甘いな。


さて次だ、次。


「オシロイバナ」


花言葉は……。

「恋を疑う」


「……。なんなんだよ、ちくしょう!」


おっと、ついつい声を出してしまった。


「どうかしましたか……?」


先ほどの女性が心配そうに声をかけてくる。


「なんでもないです。申し訳ない」


なんなんだ、全く。ろくな花言葉がないじゃないか。

そう思っていた僕の目の前に、黄色い綺麗な花があった。


「ゼラニウム」


花言葉は……。

「予期せぬ出会い」

なんていい言葉の響きだろうか。これが一目惚れというやつだろう。これしかない、そう思った。



---



「ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ。助かりました」


深くお辞儀し、店を後にする。


結局、黄色いゼラニウムの花を買ってしまった。

いい花に出会えたことでウキウキ気分になっていた。

そうか、これも「予期せぬ出会い」なのか。そんなことを思いつつ、本来の目的である家電量販店へと向かう。

今度は無事に着けそうだ。



---



家電量販店の前まで来た。どっしりとしていて大きく、もの凄い存在感だ。

早速、入店して思ったこと。


涼しい。涼しいんだ。もう涙が溢れ出てくるほど涼しい。

しっかりとした足取りで扇風機を販売している場所へ向かう。

いろんな扇風機が販売されているんだな。扇風機の種類をまじまじと見たことはなかった。

感心しながら、色々な扇風機へ目を向ける。安いものにしようか、ここはひとつ高めの扇風機を買ってみてもいいんじゃないか。

そんなことを思いながら見ていくと、そこにあった扇風機に目が留まった。

そして時も止まった。


そこにあったのは。


「羽のない扇風機」


羽のない扇風機だと……。そんなものは扇風機だというのか。認めない、認めないぞ。どうせ風が弱かったりするんだろう。

ゆっくりとゆっくりと手を近づける。


「!?」


涼しい、だと。


僕は驚いた。羽のない扇風機がこんなにも画期的なものだったなんて。知らなかった。


そして僕はハッとした。そして見つめる。

僕の手元にある、黄色いゼラニウム。

その花言葉はなんだったか。


そう、「予期せぬ出会い」


そうか、これが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ