プロローグ 始マリ
※現在この小説は凍結中です。しばらくお待ちください。
「いいだろー?もう少し聞かせろよ~」
バスの中は楽しげな笑い声で満たされている。
市立今泉中学校は一学年一クラスしかない、田舎の中学校である。彼らは3年生。修学旅行で隣の県の”神田山”に来ていた。
神田山は棚田が美しい小さい山で、夏場はキャンプなどに訪れる人々でにぎわう避暑地である。
「えー、もうすぐみんなが宿泊する三日月荘に着きます。遊ぶものはしまって、降りる準備をしてくださいね~」
担任の増山先生がマイクを使ってみんなに呼びかける。生徒は30人だけなので、引率は、この増山先生一人だけなのだ。
「はぁ…山かぁ…虫とかたくさんいそう…」
憂鬱そうに窓の外を眺める少年ーー宮田茂は中学2年の頃に東京から転校してきた転校生であった。父親の転勤がなければ東京の中学校で、もっと楽しい場所に行けるはずだった…そう思って憂鬱になっていたのである。
「まあ虫はいるかもだけど、でもキレイな棚田眺めたり、川で釣りしたり…きっと楽しいよ!」
快活に笑いかけてくる彼女は藤沢かなえ。人懐っこい性格で、一番最初に声をかけてくれたのも彼女であった。茂はかなえに対して反論や文句ばかり言っているが、実は結構気にいっていた。
いわゆるツンデレである。
「かなえは都会を知らないからこんなんで満足出来るんだよ。都会っ子の俺にとってはつまらないんだよ。」
「へぇー、じゃあいつか都会に連れて行ってよ!」
「なんでだよめんどくさい。」
「えー、ひどーい」
高校卒業したら、連れて行ってやってもいいかな…と少し思っていた茂である。
ほどなくして、三日月荘に到着した。三日月荘は毎年今泉中の修学旅行で使われている施設で、なんと食事処は40人ほど入れる食堂になっており、寝室は20人ほどが寝れる大きさの大広間が二つと、男女に分かれて寝るようになっていたのである。
まずは大広間に荷物を運びこみ、近くの川で川釣りをすることに。
近くを流れる天谷川は県内最大の河川である。釣れる魚も豊富で、川釣りファンはよく訪れる穴場スポットであった。
「お、おぉおおお引いてる!これはデカイ!デカイぞ!?」
「よっしゃ俺も手伝うぞぉおお!…とぉあっ!…ってなんだ、ちっちゃ…」
川釣りに男子たちは大はしゃぎである。女子たちはというと…。
「ちょ、そっちにカニが逃げた!捕まえて!」
「よっ…と。いっちょあがりぃ!」
「キレイな石見つけた~。まる~い」
「ほんとだ!かわいい~」
食べられる小ガニを捕まえたり、川の中のキレイな石などを探して楽しんでいた。
「ふぅ…涼しいな、ここ」
茂はみんなから少し離れた木陰で、持ってきていた小説を読んでいた。まだクラスに馴染めていないので、みんなでワイワイしているところに入っていくのに、少し抵抗があった。
小ガニを捕まえていたかなえが、木陰にぽつんの座っている茂に気づき、木陰に向かう。
「茂く~ん。なに読んでるの?」
茂が持っている本が気になったようだ。
「これはミステリー小説だよ。とある洋館に集まった人たちが一人、また一人と死んでいくんだ。」
「えー、なんか怖そう…」
「ははは、かなえって意外と怖がりだな。そんなこと現実に起こるわけないって。」
「そりゃーそうかもしれないけどさー…」
「少し読み聞かせてやろうか?」
「ちょっ、やめてよー!」
かなえが怖がるのが可愛くて、少し意地悪を言ってみたくなったのだ。もちろん、実際にやるつもりはないが。
その日は川釣りだけで夜になり、三日月荘へ帰ってきた。
食事は川で釣った魚や小ガニを含めたいろいろな料理が並べられ、なかなか豪華な夕食だった。風呂も広く、生徒たちは茂を含め、上機嫌で寝室へ向かった。
『いやー田舎の修学旅行ナメてたな…。まぁまぁ楽しかった。』
茂は寝たまま今日一日のことを思い出す。最初は観光地でもなんでもないただの山に泊まると聞いて、今泉中に転校してきたことを後悔していた。しかし、川で遊ぶみんなを眺めたり、みんなと一緒に夕食を食べたり、一緒に大浴場でくつろいだりして、ほんの少しだけ、今のクラスメイト達が好きになったような気がした。
あと二日、修学旅行は続く。茂はあと二日の修学旅行を楽しみに思いながら、眠りに落ちていくのだった。
寝てから結構経った気がする。なぜか少し背中に当たるものが固く感じる。布団に寝ていたはずなので、寝返りでもうって畳に出てしまったのだろう。茂は布団に戻ろうとした。
…布団が…ない…。
寝ぼけ眼をこすり、よく見てみると赤茶けた地面に座り込んでいた。周りを見ると他の生徒たちもいた。寝ているものもいれば、辺りを見回しているものもいる。というか、寝室は男子のみ14名だったはずなのに、ここには女子も含めた30人全員がいた。
近くにかなえがいたので、声をかけてみることに。
「な、なぁ…ここどこだ?俺、起きたばっかなんだけど…」
「あ、茂くん。…それが私にもわからなくて…」
困惑した表情を浮かべるかなえ。
一人の生徒が声を上げた。
「おい、みんな!何か書いてあるぞ!」
生徒たちは声のしたほうへ目を向ける。この時点で既に全員起きていたようだ。
なにやら石板のようなものがあり、こう書かれていた。
『ゲームノ世界ヘヨウコソ
コノ穴ヨリ先ハゲームノ世界
コノ場ニ留マッタ者ニハ死ヲ与エル
4ツ先に進ミタクバカカゾトヤ』
どうやら石板の下に空いている穴に入ればゲームの世界に行けるらしい。しかし行かずにここに残ったら死ぬ…という。まさに究極の選択だった。4行目の4つ先に進みたければ”カカゾトヤ”ってとこはちょっとよく分からない。ミステリーホラー系ばかり読まずに、もっと推理モノとかを読んでおけばよかったと、茂は軽く後悔した。
しかしこの”ゲームの世界”とやらもなんかヤバそうだ。行かなければ殺すと、進むことを強制されている時点でさすがに俺でもわかる。しかし、どれだけの時間留まり続けたら殺すというところが不明なので、この場に長居するのは死ぬ可能性を高めることになる。
ほかの生徒たちもそれに気づいたのか、おそるおそる穴の中に入っていく。みんなここで死ぬくらいならそのゲームとやらをプレイした方がマシだと判断したのだ。
茂もそんなみんなを眺めながら考えてみたが、やっぱりゲームをプレイする以外に選択肢が思い浮かばない。少しでも不安を紛らわすために、かなえの手をぎゅっと握り
「行ってみよう」
かなえはこくりと頷く、少し心が軽くなった気がした。
そして二人も、石板の下の穴の中へ。ゲームの世界へ入っていった。
次回は第一のゲーム、スタートです!