奇跡/そして、希望
俺は嫌われている。
何をしでかしたわけでもない。
俺がただ気に入らないようだ。
そんな奴らが、俺は気に入らない。
今日は暇だ。
・・・いや・・・いつもだ。
俺は誰にも好かれずに生きている。
親には捨てられ、一人アパートに住んでいる。
養育費としてか月ごとに親から金を渡される。
それ以上、両親と関わることはない。
関わりたくもない。
それでも、必要なものは必要だった。
夜の公園は、静けさと騒がしさが漂っている。
遠くから聞こえる喧騒と、身の回りを包む涼しい空気。
このまま闇に溶けてしまいたい。
全てを忘れ、何も考えずに、ただただ消えて行く。
そんなことができたなら、きっと。
きっと俺は"幸せ"だと思うのだろう。
いつのまにか、朝は来ていた。
木によって所々遮られた光が目を刺激する。
ここにいては暑い。
家に帰るのも得策とは言えない。
することもない。
結局俺は、ここに居座ることにした。
案外、風が吹けば涼しいものだ。
木々を通り抜け、冷たくなった気の流れ。
そんなことを考えながら、俺はまた深い意識の底へ落ちる。
「・・い・・・・・・おーい、大丈夫かー?」
少し間の抜けた、でも張りのある五月蠅い声に目を覚ました。
「どうしたんだ。ガキが一人でホームレスごっこか?」
はは・・確かにそう見えるだろうな。
まぁ、それでいい。
帰るべき家なんて、もう無いのだから。
「・・・んな悲しいこと言うなよ。」
・・・?言葉が漏れてしまったか。
何でもない と、言葉を作った。
「あぁ、すまんすまん。眼だよ。お前今、[こんな世界に生まれて来るんじゃなかった]って眼してたぞ。」
要らん観察をするな、と言おうとするも、指で遮られる。
「お前、一人だろ?興味があれば、ウチに来い。」
「少しは、生きる幸せってのを教えてやれる。死にたければ、それを知った上で検討するんだな。」
・・・
「無言は肯定と取るぞ。・・よっと、捕まってろよ。」
・・はっ!?コイツ・・・少しおかしいんじゃないか?
いきなり肩車とか、心臓に悪い。
少しお仕置きが必要なようだ。
こめかみを指で押してやった。
「ははっ止めてくれって、悪かった悪かった。」
そう言いながらも、この体勢を崩す気はないらしい。
困ったものだ。
だが、何故だろうか。
ここは暖かい・・・。
そうか・・・ここに・・・。
暫く俺は寝ていたようだ。
暖かいソファーの上で目を覚ました。
さっきの奴が胡坐をかいて、その上に頭を乗っけていた。
いわば膝枕と言う奴だ。
とても心地がいい。
「お、目覚ましたか。にしても良く寝るなぁ。」
仕方無いだろう。こんなにも満たされた気分は初めてなんだ。
「へー。親には何もされなかったってこと。」
・・・あぁ、その通りだ。
「んじゃ、まずは飯だな。披露する相手が居なくて困ってたんだ。あ、不味かったら言えよ?その時は謝る。」
いやそこは味の安定するものを出せよ!
と、思わず突っ込んでしまった。
考えてみれば、ここまで笑ったのは初めてかもしれない。
「なぁ、ティッシュ渡そうか?」
言われて気づいた。どうやら、俺は泣いているらしい。
幸せとは、ここにあったのか。
飯を食った。それは、最高に美味と言えたものではなかった。
だが、隣で一緒に食べている人が居るのは、悪い気はしない。
だめだ・・これではまた泣いてしまうじゃないか。
普通に美味い。でも、その普通が何より幸せだ。
だいたいの家事その他を終わらせ、布団を敷くといった所まで来た時、ソイツはこう言った。
「ここで寝てしまったが最後、お前はウチの家族になる。まぁまだ一人しかいないんだがな!・・それでもいいのか?」
何を馬鹿なことを。厨二くさい。
だが、これはコイツなりの配慮なのだろう。
答えはもう決まっている・・・。
俺は今まで、ロクな人生を送ってこなかったからなのか、傍から見たらただの誘拐犯のようなコイツが、俺にとっての出会い、 -奇跡- でありこれからの -希望- となる。
「じゃあ、これからよろしく頼むぞ、我が子よ!」
「あぁ・・・よろしくな・・・。おやすみ。」
そう言って、俺は寝てしまった。
これから何があるのか。
これからどんなことが起きるのか。
それは分からないが、ここには生きる幸せがある。
やっと掴めたチャンスだ。モノにするさ。
だから、友よ、大分長くなるだろうが待っていてくれ。
君の分まで俺は生きる。
途中で諦め挫折した君の分まで、俺は幸せを手に入れる。
もしまた、そっちで会うことができたら、全てを伝えよう。
自分を助けられなかった俺を憎んでも良い。
それでも。
君が諦めた世界には。俺が諦めかけた世界には。
まだ、生きる価値はあったよ。
終
声劇の練習などにも使っていただいて構わないです。自作発言は、したけりゃどーぞ。
一応親と子どちらも両性でいけます
俺っ娘&姉御肌(むしろそうなると嬉しいというか私の趣味というか)って感じです。