なぞの老人たち現る
打ちひしがれた司が、ふと、1階の廊下を見ると一人の老紳士が立っている。
「ご見学ですか?」
声をかけたが、老紳士は気付かない様子で1号室の扉をノックして中に消えた。
「ちょっと、勝手に入らないでください。」
司は追いかけようとしたが、部屋の扉は閉まっていた。次に老紳士は2号室をノックして中に入った。司が追いかける。やはり扉は閉まっている。2階へ続く階段で、ようやくその奇妙な老人に追いつくことができた。
「何なんですか?」
司の声に、その老人は
「おや、お客さんか?あいにく今は満室じゃ。集金が終わるまでちょっと待っていてくれんかの。」
と答えた。ぼけているのか?頭が混乱している司を置いて、老人は2階に消えた。
「2階はまだ戻って無いようじゃな。」
ほどなく老人は戻ってきた。
その老人は事故で死んだ元オーナーの一人だった。三人の中では代表の役割をしていたらしい。
「ありゃ、わしらは死んじちまったのかい。どうりで、腹も空かんと思った。」
他の二人の腰の曲がった老婆も、1、2号屋から出てきた。
「こいつら、霊なのか。」
司はアメリカでは宗教の違いなのか霊を見ることがなかった。すっかり自分が見える人間だという自覚をなくしていた。