類は友を呼ぶ
長髪を後ろで縛り、無精ひげの中肉中背、Tシャツにジャージ姿、パワーストーンの腕輪に、謎の石のネックレス。普段の格好は見るからに怪しい零児。司は、体育教師の父親がいつもジャージを着ていたし、レゲイっぽいやつも留学先にはいたので、まったく気にならなかったが、近所では益々幽霊アパートとの噂が広まっていった。
「痛い!」
1号室に移った司は、ちょくちょく台所とリビングの境目にある鴨居に頭をぶつけた。1号室だけは、そこで仕切りができるように、鴨居が下がっているのだ。
「2号室にすればよかった。」
後悔したが、また引っ越すのは御免だ。
「おケガですか?」
不動産屋に状況を聞くために玄関を出ようとした司は、にこにこしながら話しかけてきた零児にムッとした。
「そんなにおかしいですか?」
きょとんとする零児を残して立ち去った。
「『おでかけですか?』の何が気にさわっったのかな?」
零児は首をかしげながら0号室へと向かった。マツは昼間は出かけてしまうが、それ以外は部屋にいることが多い。零児は、時給の良い夜のコンビニでバイトをし、午前中は寝て午後はマツのところにいる。なんとか話ができないかと試みるも、波長があわないのかマツから零児があまりよく見えていないらしい。
「今日も希望者0だった。」
霊の噂を聞きつけて、たまにひやかしにくる人間はいるのだが、住むとなると話は別だ。司が家に帰ると、マツが出迎えてくれた。
「お客さんじゃぞ。」
といって、0号室を指差した。マツなりに気を使って部屋を出たのだろうか?急いで、0号室へ行くと零児が客の相手をしていた。
「お待たせしました。」
司が部屋の入り口から声をかける。
「キャア、出たー!」
まただ。司は気を取り直し
「オーナーの西屋司です。」
と、おびえるメガネをかけた若い女性にいった。
「すみません。噂のお化けかと思って。」
素直だが失礼な人だ。しかし、司は平静を装い営業スマイルを絶やさない。
「入居希望だそうです。」
零児が女性に代わって答える。
「わたし、とっても怖がりで。でも、ここにいたら克服できるかなって。」
また、わけのわからない人が来たと、司はガッカリした。
「マツさん見ました。本当に幽霊がいるってわかったら、安心したんです。」
零児の解説によると、女性はいつも霊にとりつかれてるんじゃないかと怯えて、夜もろくに眠れないそうだ。霊がいるかいないかはっきりさせたいと、ここへ来た様だ。零児の案内でマツを見て、このメガネがあれば安心できると考えたのだろう。
「それでしたら、わざわざ住まなくても。」
司は、せっかくの入居希望者なのにと思いながらも、断ることにした。
「いえ、幽霊に慣れるためです。」
妙な理由だが、彼女の熱意に司はしぶしぶ契約内容を説明した。小南優子。OL一人暮らしなので1階は物騒だからと、2階の5号室を見に行くことにした。司は部屋へ案内しながら
「私も一人ですが1階でも大丈夫ですよ。」
と2号室を勧めた。が、150センチほどの小柄で華奢な彼女は、司の全身を眺めて
「確かに、大家さんなら大丈夫でしょうけど、私は無理。」
と怯えたような口調で答えた。どういう意味だ!
「わたしのことは司と呼んでください。」
アメリカで育った司は、名前で呼ばれるほうが慣れていた。それに別れた父親の姓より、祖父が自分のためにつけてくれた名前が好きだった。
「わたしは、職場ではミナミちゃんと呼ばれています。」
この、かわいこぶりっこが。しかし、相手は大事なお客。ここで腹を立てるわけにはいかない。
「では、ミナミさんとお呼びしますね。」
「ぼくは、レイジでいいよ。」
一緒にくっついてきた零児が割って入る。




