住人第1号
その男は霊に近い部屋が希望ということで、1号室を勧めたが、安いほうにしたいというので、しかたなく0号室の真上の3号室に住むことになった。バイトをしながら心霊スポット巡りをしているため、すぐにでも越してきたいという。内装は自分で行うということで、家賃4万円を前払いしてもらった。司は玄関正面の1号室へと移った。
「せっかく掃除したのに、こんどはここを掃除するの?」
ついてない。掃除した部屋から埋まっていく。祐二の霊視メガネは、持ち出さないことを条件に0号室に置いた。
住人第1号は、北零児と名乗った。零児は何とかマツと意思疎通しようと試みたが、いずれも失敗した。霊は波長の合う人間としか、話ができないらしい。文字も忘れてしまったそうだ。手話ならいけるかと思ったがマツができない。
夜中になり、司は思い出したように祐二にSNSでメッセージを送った。
「アパート経営中。入居者1号、オカルトオタク。彼がメガネ、使ってる。」
しばらくして祐二から
「じいさんの霊は?」
というメッセージが届いた。
「まだいる。」
マツが成仏すれば、せっかくの入居者が出て行ってしまうだろう。でも、霊に居座られていては、入居者が増えるとも思えない。痛し痒しである。




