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朝露に濡れて輝くバラの花  作者: 白石 瞳
もう一度聴かせて・・・
13/15

打ち上げ花火のような人生

 花火は夜に咲くお花

 次から次へと打ちあがり

 夜空という大きなキャンバスに

 赤、青、黄、紫、ピンクと開いてく

 美しい花のようでもある


 パッーんと弾けて、スッーとたれてくるように消えていく。花びらがゆっくりとしたたり落ちてくるように。何度も花開いては落ちてくる。

 なんて豪快でエロティックな夜空のお絵かきなのかしら。


 *


 彼と何度か愛し合った後で、その日落ちあう前の可愛らしい10代か20代前半の女性を何人か見たことを思い出した。花火大会に行くのだ。

 女友達なのか、恋人で行くのかはわからないけれど。


「ねぇ、花火の夜は満月よりも下弦の月の方が好きだわ。」

「花火の夜?」

「ええ。今日はどこかで花火があるようよ。恋人同士の密かなラブシーンを兎に見られてしまうよりは、下弦の月よ。」

「どういうことです?」

「想像して。花火の夜なのよ。恋人同士で行くわけでしょ。

 貴方は、昔、いい方と花火を見に行かなかった?

 私は、学生時代に浴衣を着て行ったわよ。鼻緒が痛くて歩きにくくてね。そんなことおかまいなしにたもとから手がのびてきた。

「いい思い出? 悪い思い出?」

「わからないわ。

 貴方には可愛らしい思い出はあるのかしら?」

「想像してみて。」

「意地悪ね。」


 *


 私は彼の上になり、唇をふさいだ。

 2人の密室での逢瀬には、花火はあるけれど、そして、それは彼によって開かれたままだ。

 でも、観客はいない。



 出家は本気ですので、私の浮世暮らしも長くはありません。限られた交際期間をどのようにするかは貴女にお任せしたいと思います。

 以前、彼はそう言っていた。


 彼の恋は、垣根に咲けるバラなんかではなかったんじゃないかしら。痛い恋しか知らないというか、きゃあきゃあ騒ぐような可愛らしい人との恋愛って、もしかしたらしたことがなかったんじゃないのかしら。

 これからは独りで生きて生きたいって、「そういうこと」も関係してるんじゃないかしら。

 退職後に山に入る、それは、家族をも捨てて。言葉には出来ない位の絶望とか諦めの気持ちを感じてしまうわ。


 *


 あの花火の話しの続きが聞きたい?


 帰宅して、そんなメールをしたら数日後に返事がきた。



 私の中での恋というものは、決してロマンティックなものではなくて「命がけ」だった気がします。その女性のためなら命を捧げてもいいという位の。私の全てを捨てても、尚、残る何かがその女性に向けられるような。


 ある恋をしたことがありましたよ。

 彼女の過去の異性関係を聞いて、私は、その場では何とも思いませんでした。むしろ、彼女に同情したり、自分が何か役に立てるのではないかと考えてました。

 だんだん、もう終わった異性関係なのに私は気が狂わんばかりに苦しみました。

 もう、ああいった思いはしたくはありません。


 人は誰しも、悲しい恋の物語を持っていることでしょう。その人にとっては真剣で無私の尊い物語に違いないと思ってますよ。

 それとも、そんなこと、と、笑い話にされるのかもしれませんね。


 いずれにしても、それを聞く人がどう感じるのかは、聞き手と語りてとの関係によっても様々なんでしょうね。


 語り手の心境に共感して、一緒に涙する物語。ある場合には、聞き手には落胆と嫉妬による憎悪の物語ともなるでしょう。


 もう、告白してしまいましょう。

 私には今まで命がけの恋は・・・2つあります。


 1つは、会えなくなった今も30年以上想い続けてる物語。

 もう1つは、先の彼女の過去が私に地獄のような苦しみを与えた物語です。

 どちらも、今まだ私の魂を焼き焦がすような時があります。


 私が誰かの聞き手となった場合、偏屈でネガティブな感受性が優位に立ってしまう傾向があります。

 それが、偏見なのか嫉妬なのかは私にはわかりません。

 貴女の場合も同じなのです。


 月夜の下でのありきたりな恋愛談義として受け止められるかもしれませんが・・・。

 私は、どういった恋の話しでも聞き手にはなりたくありません。


 *


 セックスと愛と快楽の取引という契約のようなものは、私を優しくさせてきたわ。そう、それが仮に契約であっても。

 だけど、なんだか、それだけじゃない気がしてきた。


 彼の心の中に2人、大切な女性が存在する。


 私は、一体何なのかわからない。彼にとって。

 都合の良い女、というように扱ってもいないし、それに私の場合の恋の聞き手にはなりたくないってことは・・・少しは好意を持たれてるって思いたいわ。

 だって、私の昔の恋といえ、ただ聞いていられるんじゃなくて、もしかしたら嫉妬してしまうかもしれないんでしょ。


 2人の女性のうちの1人は、前に深夜メールがあって聞いてきた女性のことなのね、きっと。



 男女の交際は、若くても年を重ねても不安がつきまとってしまう。

 自分が若い頃には、成熟するにつれて達観できるかと思っていたけれど、そう簡単なものなんかじゃないのね。


 人の心も花火のように開いて散り、何も残らなければ、どんなに良いものなのか。


 しかけたのは私。

 嫉妬をするとか聞き手になりたくないと言われても、その逆だわ。半分からかうつもりの花火の逢瀬の話しが、私は今、後悔してる。

 2人の女性に嫉妬してるのよ。貴方にそのことわかるかしら?


 その女性は、昔、アダルトの女優をしていたんでしょ。

 理由はまだ聞いてないけれど、何か事情があって出会って、真面目できた貴方が魅かれてしまったんでしょ。

 その人って、もしかして今も親しくしてるんじゃないのかしら、女の勘だけれど。

 今度、聞かせてもらいたいわ。その位の権利は私にもあるでしょう。



 だけど、私と会う時には優しく接してくれるし恋以外の昔話も、会社での派閥のくだらなさも、色々聞かせてくれている。貴方のちょっとだけ暗い微笑みは私を優しくさせてきたのよ。

 メールだと、顔が見られない分、正直に本音っていうのが出るものなのかもしれない。


 *


 彼との待ち合わせの場所は決まっていた。

 その日は、改札を出て違和感を感じた。

 駅前の小さな本屋さんにシャッターがおりていた。

 紙に「~月~日をもって閉店とさせて頂きます」と書いてある。


 私は急いで彼にメールした。

「本屋さんが、なくなってるの。」

「少し風があるようだし隣りのコンビニの中で待っていて下さい。5分位で行きますよ。」

「嫌よ! 本屋さんの前にいるわ。」


 彼が微笑みながら走ってきた。


「ねぇ、本屋さんがなくなったのよ・・・。」

読んで下さった方、ありがとうございます。もう2話続きます。


この作品は既に始まりの段階で原稿が完成してありました。

ただ、R15ではなく、それ以上の描写が多くあり随分と削りました。

削ると前後が変わっていきますので、大きな加筆・訂正をする必要が出てきました。


そうしてるうちに、ほかの作品に重きを置いてしまってだらだら掲載させて頂いております。



(まだわかりませんが、いつかリメイクして別の作品『通常ページ』ではないものを載せる可能性があります)

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