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朝露に濡れて輝くバラの花  作者: 白石 瞳
もう一度聴かせて・・・
12/15

伝説のストリッパーの孤独と彼の孤独

 写真家の間で伝説になっている新宿の女性がいた。

 何十年も前、まだ写真がフィルムだった頃、写真家達がこぞって彼女を撮りたがっていたと聞いている。


 本業は踊り子、でも、写真家達はショーの写真ではなくて素のままの彼女に興味があったとか。

 私は、たまたま彼女の写真を2枚観たことがあるわ。

 1枚はスタジオ撮りで煙草を持ち、カメラ目線で可愛らしいキュートな笑顔のもの。

 もう1枚はモノクロームで、ショーの後なのか外でトレンチコートを着て椅子に腰かけてるもの。疲れた様子ではあるのに背筋を伸ばしてだらりとしてなくて。目は遠くを見ていた。混沌としてさびれてはいないのに虚しそうな街、彼女はいったい何を見つめていたんだろう。孤独な雰囲気だった。


 愛らしい子供のような笑顔は彼女のサーヴィスだったのだろうか?

 いえ、一瞬の表情にサーヴィスはない。それが写真家の言葉のマジックがひき出したものであったら、それは彼女の1面。演技で出せるようなものじゃない気がしたわ。


 外での写真は、踊り子になってからの経験が彼女の行き場のないやるせなさ、孤独で冷たい「女」の雰囲気を醸し出していたのだろうか。何が彼女を踊り子にさせたんだろう。もともと孤独な人だったんだろうか。

 もう「戻れない何か」が彼女をそうさせたのかもしれないし、なんとなく見えない自分の未来。見たくない未来と、変えることが出来ない過去。楽しくて充実した過去ではなかったんだろう。そんなことが写真からは連想された。

 トレンチコートの彼女は「人を寄せつけない」ことで、観る者の心に何か惹きつけるものがあった気がするわ。


 彼女は仕事の時は、不特定多数の人に自分の体を晒す。どんな技術かはわからないけれど、魅了させたんだと思う。それが仕事だから。

 1人の男性の前で体を晒す時にはどうだったんだろう。仕事とも写真撮影とも違う彼女だったとは思うけれど。甘える顔が出来ていたかもしれないし、甘えさせるタイプだったかもしれない。それは、わからないわね。


 女優を含む多くの人物写真を観てきたけれど、どうしてだか、今までで1番印象に残ってるのは彼女の写真なのよね。


 *


 私は先日の彼からのメールを読み直してみた。

 けがれ、歪んでしまった・・・そういえば、会った最初の頃も聞かれたことがあった。彼の顔について。美形だとか好みの男性かそんなことじゃなくて、「どう思うか?」って。

 メールの内容では、昔の自分は好きだったけれど今の自分は嫌いだ、そういう意味よね。そう、彼は出家をするんだったけれど、何が彼をそう決意させたのかしら。


 世を捨てるということでしょ。

 誰かのために、世の中のために祈りをするために社会とはある意味遮断されてる修道女会のようなものとは違って、出家って、祈りや願いのために遮断するものではないんじゃないかしら。

 自分がこの世の中を捨てる、そんなイメージを彼からは受けたんだけど。


 メールの返事をどうしようか迷っていた時に彼から、またメールがきた。



 女性が女性の武器を使わなくてはならない理由が知りたい。それは、お金のためなのか、もともと男性が好きだから出来るものじゃないのか? 特殊な女性ということなのか? 貴女ならどうする、ということではなくて一般的にどうなのか貴女から見える女性の本質を知りたい、教えてくれ。



 深夜の時間が記録されていたし、「教えてくれ」だなんて今までにない言葉使いだったから、相当彼は悩んでいたとわかるのだけれど、どうして急に。何度か読んで、彼が出勤する前位にメールを送信した。



 一般的かどうかはわからないけれど、色々理由があるんじゃないかしら。夫がリストラされて家のローンの支払いが大変になったからだとか、親の借金のためにやむを得ないとか。

 DVD出演であれば、「将来は女優になれるから」と夢をみたか騙されてしまったとか。もともと男性が好きだからって理由だけなら仕事なんかにしなくても、いくらでも男性と関わるというか知り合う機会はあると思う。

 多くの場合は、何か追い込まれてしまうような事情があって、セックスが好きかどうかっていうのとは別だと思う。そういう仕事してる人は体は許してもキスは嫌だとか読んだことがあるし、体と心は別のものっていうのかしら。スマホに出てくる記事なんかを読んでも、借金とか貧困が原因なのが多いみたい。

 私から見ると決して特殊な女性なんかではなくて、ごくごく普通の女性なんだけれど、自分の意思でその世界に入ったというんじゃなくて何かに追い込まれてしまったんだと思うわ。他にも働く方法はあるかもしれないけれど、時間を費やすよりも短い時間で多くの収入があるのは、そんな仕事だから。



 追い込まれてやむを得なく、であったとしても、快感を感じていたとしたら? それは、男性が欲望から店を使うように女性を利用するように、その女性達も快感に溺れていくのではないのか?



 体は反応するかもしれない。ホルモンの関係もあるし、仕事になれれば体もなれるということだから。でも、DVDなんかは演技だし、お店なんかで男性相手をするのは・・・これも演技もあるだろうし、例え、感じたとしても心は感じてないと思うわ。

 前にも書いたように、体と心は別物だと思う。男性もそうでしょ。刹那的な快感が欲しくて女性を利用するけれどそれで女性のことを好きになるかというと違うものでしょ。



 真摯なメール、どうもありがとう。


 *


 私は、聞きたかったけれどメールではどうかとやめておいた。

 彼は苦労してる人、頭もいい、それなのにどうしてあんなことを私に聞いたのか。考えれば彼ならわかることなのに。

 もしかしたら彼の関係した女性が男性を相手にしたりDVDに出演して、それで混乱してるんだと思ったのだけれど。


出家のことや、「美しく生きたいと思っていた」2年前・・・それは、何かこのメールのことが原因なのかしら。誰か彼の知る女性が2年前に?

だとしたら、その女性というのは特別な存在なのではないかしら。どうでもいい人のことだったら、深夜に悩んでるようなメールをしてくるはずがないもの。


どうしても話せないことなら仕方がないけれど、もしも可能なら話して欲しい。ちょっとのことで驚いたり嫌いになるような性格じゃないってこと知ってるでしょ。

深夜に深刻そうに聞いたんだから教えてくれたら、嬉しいのだけど。貴方も楽になれるかもしれないし。だけど、人には誰にも話せずに墓場まで持っていきたい秘密があるともいうから。



写真家が撮りたがった踊り子は、孤独な目をしていた。

今、いいえずっと前から、彼は「孤独」なのかもしれない。私と会ってる時には微笑んでくれるというのに。


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