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朝露に濡れて輝くバラの花  作者: 白石 瞳
もう一度聴かせて・・・
10/15

いくつかの顔を持つ私

 私は写真家の被写体を月に1~2度している。


 夫は私が仕事をするのは反対だった。

 昔からある男性の考え方で、「妻に働かせるのは甲斐性がないから。」と思っている人だ。習い事やボランティア活動なら構わない、と。

 昔で言う、「男が食べさせてやってる」「男が一家を養っている」というプライドね。プライドというか沽券っていうか。確かに感謝してるわ、彼の頑張りで食べることが出来るし子供も学校に行くことが出来るんですもの。


 定期的な仕事ではないけれど写真関係の仕事を手伝うことを夫に伝えた時には、嫌な顔はしたものの強くは反対しなかったわ。プロとしてや定期的な雇用じゃないから。それに、きっと、その頃に外での女性が出来たから私が気がついてると思ったんだわ。やましい気持ちがあるから許してくれたってことだと思う。



 今の時代ならどうなのかしら。夫婦で働かないと子供を育てていけないとか余裕のある生活が出来ない家庭が多いみたいね。

 都心部だと幼稚園か小学校から私立のお受験する人達はいるし、そのためにはプレスクールに子供を通わせて。地方だと、もう少しのんびりだと聞いてるけれど。私立が少なくて公立の学校が多いしレベルが高いだとか。

 母親が働いてないのに子供がお受験して私立に行くんだと、その過程は代々、経済的に恵まれてる家庭だと思う。豊かな生活をしてると塾に行かせたり家庭教師をつけたりして大学に行ける。奨学金も借りることなしにね。

親の就いてる会社名でコネが出来たりして大学卒業後もそれなりの企業に就職することが出来て。結婚も同じ生活や生まれ育ちの環境の相手とすれば、その子供もまた経済的に恵まれた家庭で育って・・・。「ピケティの法則」なんだわね。



 友人で地方で生まれ育った人がいるけれど、長男夫婦が夫側の親と住むのが当たり前だとか。完全に同居だと問題が出てくるから二世帯住宅にして暮らしていく。でも、それでも彼女が言うには「大変だった。」らしい。

 玄関が同じで台所やお風呂は別々でも、同じ家に居ながら孫の顔を見せに来ないって言われたり。だから気を遣って連れて行けば、好きなテレビ番組を観てる時に連れてくるなって言われたりしたとか。それだと、いつ連れて行けばいいのかわからないわよね。

 それに地方特有の町内活動の婦人部や子供会、子供会の祭り、班長、色々とあるし「嫁」は負担がかかるみたいね。

 私なんかは恵まれている方なのかしら。一緒に住んでいないし、ご近所の強制的な活動も殆どないわ。


 女性は、色々な顔を持たなくてはいけない。妻、嫁、娘、親、PTA、町内会、趣味の場所、ママ友達。男性が持つ顔の数よりも多いんじゃないかしら。


 *


「そろそろ3ラウンド目ですよ。」

 彼は私の上に乗ると優しく愛し始めてくれた。

 こうしてる時は、私は「女の顔」なんだわ。


「大丈夫ですか、お嬢さん?」

「へ、平気よ。」

「貴女の『もう駄目』が聞きたいんですよ。」

「だったら・・・早く続けて。」


 私は彼の足に自分の足を絡ませると、優しくしてくれ、そして1つになった。体を密着させると、男と女ということもあるけれど、それ以上の何かを感じるわ。そういうのは、何て言うのかしらね。

 目を閉じて彼に身を委ねる。そして、心も委ねている。きっと彼もそうでしょう。そんな安心感なのかしら。一緒にいるとホッと出来る関係なのよ。


「ねえ、困ったわ。」

「『もう駄目』かな?」

「ん。そう・・・ね。」

「いいタイミングですよ。私も・・・疲れてね。」


 彼は優しい。本当には疲れてなんかないってこと、知ってるの。私をからかいながらも私を「負けさせない」ってことを言ってくれてるのは、今回だけじゃなくて。私、だから、こんな彼に惹かれてるの。



 彼が深夜私にメールをしてきたことを思い出した。電源は切ってあるけれど、着信記録が深夜2時頃だったわ。朝読んだけれど、内容は過去の女性についての彼の苦しみ、悪夢だった。返事をしたんだったわ。

 ・・・今は、それは思い出したくないわね。

 目を閉じて、彼の腕の中に潜り込んだ。このまま時間が止まればいいのにって、子供みたいな私。


 *


 数日後、私は予定の仕事場に行った。今回もスタジオ撮りだ。この写真家の先生は少なくも多くもない3時間で650~750枚の絵を撮る。

 今回は打ち合わせ通りに、最初は上半身のセピアのポートレート。昨夜ついたかもしれないキスマークが気になったから、残ってないか鏡で確認した。


 私は素人被写体をするようになった。仕事と言えば仕事だし、写真家とのお遊びと言えばお遊びかもしれない。プロのモデル事務所に所属してるわけでもなくて、写真家のHPや個展に使うための被写体だ。


 写真家は仕事となると、自分の好きなことが仕事になったにも関わらず依頼されたことに忠実じゃないといけない。HPなどは宣伝効果もあるのだけど、自分が思うように撮りたいとか冒険的なことが出来る。そのためにはプロのモデルとだと、結局「ビジネス」になってしまって冒険することが出来ないようだ。素人であれば、被写体側もアイデアを出したり、野外での撮影だと思いつきで場所を決めることもある。


 報酬はなく頂いても数千円程度だが、撮影されたものをDVDに焼いて貰えるから記念に残るのが嬉しい。

 仕事というよりも趣味の領域になるのかしら。だけど、私は手を抜かないというか真剣に取り組んでる。この場所でも私は、楽な呼吸が出来るから。100%以上の私っていうのも変だけど、解放されてるの。だから、手を抜かないというよりも、私が私であるための努力っていう感じかしら。



 この日、スタジオに行く前に駅で花屋さんがあり、時間をつぶしていて思いついたの。そして、かすみ草と赤いバラを買った。



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