序章 守宮の談
見切りをつけたかったのだ──社会に。
もはや人間の世界には何の感慨も抱けなくなっていた。
衣食住を確保するためあくせく働き、仕事をすれば誰かに気を遣い、頼んでもいないのに国家の一員され、持っているものを税だと取り上げられ、世間体とやらを気にして、自分らしく生きることも許されない。
もう──疲れた。
社会という縛られた世界で生きることに……。
わたしは自由に生きたい──なのに、制約が多すぎる。
まとわりつく人の世のしがらみが鎖のように重く、その鎖の先には求めていない重荷がいくつも繋げられ、わたしを自由に動かせてくれない。
自由闊達、自由奔放、自由自在──もっとわたしに自由をくれ!
しかし、人間の世界では許されない。
生まれ落ちたその日より両親からの血に縛られ、家族という枷にはめられ、村落という枠に囲まれ、国家という檻に閉じ込められてしまう。
わたしはそこから逃げたかった──いいや、逸脱したかったのだ。
何者にも縛られず、何事にも阻まれない、そんな世界を夢見るようになった。
あらゆる軛から解放された世界、すべてが己の自由となる世界。
それこそ楽園ではないか──自由を本領とするわたしのための楽園。
人間の世界から遠く離れた理想郷。人間が適当に決めた約束事など通じず、誰からも束縛されない、自分らしく生きていける世界。
ありのままにわがままに生きていける──わたしの楽園。
そんなものが何処にある?
などと問われれば、わたしは満面の笑みで答えよう。
「なければ創ればいいじゃないか──わたしの求める楽園を」




