序章 応声蟲の談
──腹の底が熱い。
重く長い物が焼けるような熱を帯びて、腹の底を這い回る。
内臓の奥で蠢く得体の知れない異物感。苦痛は感じない。それどころか得体の知れない昂揚感に満ち満ちていた。
それを鎮めるのに神経を磨り減らす。
腹の底で蠢く異物が、はち切れそうな激情を呼び起こすからだ。
しかし、それに従ってはならない。
それは──今の自分を壊しかねないからだ。
苦労の末に得たものを失いたくはない。
体面を考え、体裁を取り繕い、上っ面を整えて……今日まで積み上げてきた自分の評価が無駄になってしまう。やっとここまでのし上がったのだ。
こんなところで終わるつもりはない。
オレはまだ、もっと高みを目指すのだから──。
『だから……俺が手伝ってやるって言ってんだろうが』
腹の底の異物は聞き覚えのある声を発した。
『おまえが目指す最高は、俺が昇り詰める最高……だから、手伝ってやる』
声は腹の底からゆっくり這い上がってくる。
『賢いおまえのことだ、もう気付いてるんだろう? こんなところで燻ってたって浮かばれねぇぜ。高みを目指すのなら、手っ取り早い手段なんざいくらでもあるじゃねえか。たとえば、ほら……』
すると──頭の中にその手段とやらが垣間見えた。
だが、それは人にあるまじき外道の所業。
最速で高みに望めるが、一歩間違えれば奈落の底だ。
『そう縮こまるなよ。厄介事は全部、俺が受け持ってやるから……』
理性の堰を切って溢れる熱気が、意識を麻痺させていく。
夢見心地か微睡みか、それとも陶酔か?
その境地へ堕ちる寸前、腹の底で異物が笑っていた。
『安心しろ相棒、おまえは腹を据えればいいのさ──俺の居場所をな』