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道参人夜話  作者: 曽我部浩人
第二章 ~ 応声蟲
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序章 応声蟲の談




 ──腹の底が熱い。


 重く長い物が焼けるような熱を帯びて、腹の底を這い回る。


 内臓の奥で(うごめ)く得体の知れない異物感。苦痛は感じない。それどころか得体の知れない昂揚感(こうようかん)に満ち満ちていた。


 それを鎮めるのに神経を磨り減らす。


 腹の底で蠢く異物が、はち切れそうな激情を呼び起こすからだ。


 しかし、それに従ってはならない。


 それは──今の自分を壊しかねないからだ。


 苦労の末に得たものを失いたくはない。


 体面を考え、体裁を取り繕い、上っ面を整えて……今日まで積み上げてきた自分の評価が無駄になってしまう。やっとここまでのし上がったのだ。


 こんなところで終わるつもりはない。


 オレはまだ、もっと高みを目指すのだから──。


『だから……俺が手伝ってやるって言ってんだろうが』


 腹の底の異物は聞き覚えのある声を発した。


『おまえが目指す最高は、俺が昇り詰める最高……だから、手伝ってやる』


 声は腹の底からゆっくり這い上がってくる。


『賢いおまえのことだ、もう気付いてるんだろう? こんなところで燻ってたって浮かばれねぇぜ。高みを目指すのなら、手っ取り早い手段なんざいくらでもあるじゃねえか。たとえば、ほら……』


 すると──頭の中にその手段とやらが垣間見えた。


 だが、それは人にあるまじき外道(げどう)所業(しょぎょう)


 最速で高みに望めるが、一歩間違えれば奈落の底だ。


『そう縮こまるなよ。厄介事は全部、俺が受け持ってやるから……』


 理性の(せき)を切って溢れる熱気が、意識を麻痺させていく。


 夢見心地か微睡みか、それとも陶酔(とうすい)か? 


 その境地へ堕ちる寸前、腹の底で異物が笑っていた。




『安心しろ相棒、おまえは腹を据えればいいのさ──俺の居場所をな』




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