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道参人夜話  作者: 曽我部浩人
第六章 ~ 疱瘡婆
37/62

第4話 マッチポンプな女はよく燃える




貴方(あなた)は──何者?」


 西桜女学院の第一校舎と第二校舎を結ぶ、渡り廊下。


暮れなずむ夕日が差すそこに、ひとつの異形が佇んでいた。


 全身を覆い隠す黒髪は足下に届くほど長く、髪質(かみしつ)は病的に痩せ細りながら(ちぢ)れていた。その病んだ髪から出ている両手には、ボコボコの(こぶ)だらけ。


 僅かに見える口元や頬にも、まるで例の奇病に(かか)ったかのような吹き出物だらけだった。痛々しいというか、禍々しいレベルである。


 その異形と対峙した大須宮子は、毅然とした口調で問い掛ける。


「もう一度聞きます──貴方は何者ですか?」

 瘤だらけの異形は顔をのけ反らせるような仕草で一言だけ呟いた。


「──アバター女(・・・・・)


 そう言い捨てた異形はそのまま(きびす)を返して逃げ出した。

 当然のように大須は追いかける。


 アバター女と名乗った異形は階段を駆け上り、袋小路の屋上へ逃げ込んだ。

 屋上に辿り着いた大須を、アバター女とは異なる者が待ち受けていた。


「道から堕ちる果てには魔道……」

 錫杖(しゃくじょう)が出迎えを知らせるように高く澄んだ音色を響かせた。


「道から外れる果てには外道……」

 数珠(じゅず)は獲物が罠に掛かったのを訴えるように擦り鳴った。


「望み求めて欲せども、いずれ道も尽き果てる……残るは虚しい足跡ばかり」

 幽谷響は手にした鈴を打ち鳴らし、屋上にやってきた大須を迎えた。


「お待ちしておりやしたぜ──大須宮子教諭(きょうゆ)


 怪僧は網代笠を目深に被り、錫杖を胸に抱き、屋上の欄干(らんかん)に腰掛けている。


「貴方は……幽谷響(やまびこ)さん? どうしてここに? いや、それよりも今……」

「アバター女ならたった今来やしたぜ」


 幽谷響が抑揚のない声で伝えると、大須は眼鏡をずり落として叫んだ。

「そ、そうです!? 私、不本意ながら目撃してしまって……」


「そのアバター女というのは……もしかすると私のことかも知れませんね」


 昇降口の陰から信一郎が現れる。

 その姿は大須が目撃したアバター女そのものだったが、歩いている途中で本来の信一郎へと戻っていった。


 魔道師『木魂(こだま)』の能力で外見を変えていたのだ。


 信一郎は幽谷響の横に並び、2人は大須をきつく睨んだ。

「え? ええええっ!? あ、貴方たちは一体……いえ、そもそも部外者が校内で何をして……っ!?」


 理解不能な大須は、幽谷響たちを糾弾することでやり過ごそうとした。

 だが、幽谷響の(なた)のように重い一言がそれを断ち切った。


「何故──田中律子嬢がアバター女と揶揄(やゆ)されたことを黙っておりやしたか?」

 それを幽谷響が問い質すと、大須の顔色がくすんだ。

「何故──田中律子嬢が屋上から転落した事実を明かそうとしやせんでしたか?」

 くすんだ色をした大須の表情から、残されていた顔色も失せた。


 これらは(あかね)が調べ上げた成果と──美里(みさと)が話してくれた事実。


 官憲や報道には一切の情報をシャットアウトしようとも、人の口に戸は立てられない。ましてお喋り好きな女子高生の情報伝達能力は過小評価できない。


「そ、それはですね……」

 言い淀みながらも、大須は理路整然とした弁解を並べ立てた。


「あ、あれは事故か自殺かもはっきりしておりませんし、イジメを苦に自殺したと風聞が広まりでもしたらありもしない風評被害に我が校とそこに通う生徒たちにも被害が及ぶものと……それで校長や理事長が各方面に口添えをして、なるべく穏便に……そ、それに例の奇病とは関係が……っ!!」


「──全く無関係ってわけじゃなさそうですぜ?」

 幽谷響は懐からICレコーダーを取り出した。


 再生ボタンを押して流れてくるのは、この学園の女生徒の声だった。


『最初に誰からアバター女の噂を聞いたか? えーっとね……先生じゃなかったかな? ほら、二年で生徒指導やってる大須先生。先生が“そんな悪い噂が流れてるんだけど、誰が流しているのか知らないか?”って訊いてきたんだよ。それで根性悪い奴がいるんだなぁ、って思ったんだ』


 ICレコーダーから流れてくるのは、どれも『アバター女』の噂の出所を探るものだった。聞いている大須の顔色がめまぐるしく変わる。


 先程までは追い詰められたように汗塗れだったのが、やや落ち着きを取り戻し、今では彫刻家が丹念に彫り込んだ仏像のような能面と化している。


 なにもかも悟りきったような表情だ。


 幽谷響はICレコーダーを止め、自らの見解を述べた。


「噂ってのはタチの悪い伝言ゲームでさ。最初の話と最後の話を比べれば、針小棒大(しんしょうぼうだい)尾鰭(おひれ)が付いててまるで別物になっちまいやがる……それでも(さかのぼ)っていきゃあ、こうして根っこに辿り着ける次第でございやす」


 幽谷響は錫杖を手持ち無沙汰に揺らした。

「先刻、拙僧(せっそう)は言いやしたよね? 『アバター女ならたった今来やしたぜ』と」


 錫杖の先端がビタリと大須を指し示した。


「そりゃあアンタのことですぜ──大須宮子」


 大須からの返答はなかった。

 口も開かず、身体も動かさず、何も反応しない。


「しらばっくれても無駄ですぜ。アンタのことは洗いざらい調べさせていただきやしたからね──この学園に来るまでの経歴もね」

 追い打ちの揺さぶりをかけるように、幽谷響が真実を(あば)き立てていく。


 ──大須宮子は一部では名の知れた教師だった。


「驚きやしたぜ、アンタはその若さで、名教師という肩書きを欲しいままにしてなさった。渡り歩いた学校じゃあ伝説になってやがる」


 まるで3年B組の金八先生みたいな活躍振りなのだ。


「あちこちの学校で名声を轟かせてきやしたねぇ……曰く、どこそこの学校でイジメ問題を解決したとか、どこそこの学校で問題児だらけの学級を更正させたとか、それこそ武勇伝しか耳に入ってこねえときてる」


 しかし、丹念に調べてみるとどうにも様子がおかしい。

 どこの学校も大須は赴任するまで、目立った問題(・・・・・・)など起きていなかった。


 大須が赴任してきてから──問題が引き起こされていたのだ。


「早い話、アンタはマッチポンプで(えつ)に入ってたわけだ」


 自分でマッチに火を着けて火事を起こし、その火事を自分からポンプで消して偽善を演じる。典型的な自作自演、それも悪質極まりない。


「去年の春、この学校に赴任してきたアンタは律子嬢に目を付けて、またマッチポンプに興じようとアバター女なんてふざけた怪談を作り、それが律子嬢を指し示すように暗躍しやがった」


 信一郎がアバター女に感じた違和感。


 その名前──名付けた方が作為的すぎるのだ。


 都市伝説で語られる妖怪というのは人面犬や口裂け女のように名が体を表したり、比較的ネーミングセンスもシンプルなものが多い。なのに、アバター女の名付け方はやたらと凝っている。


 そこに信一郎は不自然さを感じ、捏造(ねつぞう)ではないかと疑ったのだ。


「だが、律子嬢は思った以上に手強く、またこの女子校のお嬢さんたちも必要以上に良い子ちゃんばっかりだったもんだから、いつまで経ってもイジメ問題に発展しなかった」


 業を煮やした大須はある日──目撃してしまう。


「文化祭の準備をしていた夜、美里嬢と律子嬢の言い争う現場を目撃でもしたんじゃありやせんか? そして、これは使えると踏んだアンタは密かに律子嬢をこの屋上に呼び出して……そんな筋書きじゃあございやせんか?」


「それを……私が行ったという証拠がどこかにあるのでしょうか?」

 棒読みのような大須の返事に、幽谷響は(かぶり)を振った。


「……ありやせんな。最後の部分は拙僧(せっそう)の思い込みでございやす」

 だが、それ以前に並べた情報は全て事実である。


「だけどね、大須先生……これだけははっきりしてるんですよ」

 堪りかねた信一郎はつい口を出してしまった。


「私の力を見たでしょう? 私はああいったことができるおかげで、病原菌やウィルスを感知することができるんです。先日は気に止めなかったが今ならわかる……大須先生、貴方も例の奇病に感染している」


 信一郎が『木魂』で大須を調べると、彼女にもウィルスが付着している。


 ──なのに、発症していない。


 それは抗体を持っているか、ウィルスを制御しているということ。

 どちらにせよ尋常ではない。


「これらが示しているのは……貴方がこの奇病の感染源ということだ」

「プッ……ハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


 その真実を突きつけた瞬間、大須は空気が抜けるように噴き出した。 


「あなたたち、本当に本物の霊能力者だったのね! アハハハハッ! こんなに見抜かれるなんて! ここまで暴かれるなんて! 私の三文芝居を見破ったのはあなたたちが初めてよっ!!」

 高笑いを続ける大須に禍々しい変化が現れる。


 広げた両腕、スーツの袖がボコボコと隆起し、巨大な瘤で覆われていく。


「そうよそう! 全ては私が一身に賞賛を浴びるため! 私が一身に栄光を受けるため! そのためにガキ共を焚きつけてきたんだから! 奴らに低俗かつ卑俗な問題を起こさせて、私が賢明かつ懸命に解決する! その度に私は賞賛と栄光を受けることができるわけ!」


 眼鏡を落とすほど頭を振り乱し、乱れ髪を振り回す。

 両腕はスーツの袖が破れ、巨大な(こぶ)だらけ腕を露出させていた。


「幽谷響さんだっけ? あなた名探偵でもやっていけるわよ! そうそう、律子ちゃんを突き落としたのも私! ガキ共を奇病に感染させて路頭に迷わせたのも私! 後はあなたたちに御祓(おはら)いをさせた後に奇病を治めてやれば、あなたたちも賞賛されるでしょうけど、あなたたちを招き入れるという英断を下した私はもっと栄光を浴びることができる! なのに……プッハハハハハ! 傑作だわ!」


 大須は瘤で太くなった人差し指を突きつけてくる。


「よりにもよって本物を招き入れてしまうなんてね! アッハハハハ……」

 狂ったように笑い続ける大須は、まさにアバター女だった。


「だからね、駄目なのよッ! あんたたちみたいな社会不適合者に知られちゃ! だからね、無駄なのよ! あんたたちみたいに気付いた連中をぶっ殺すために、私はこういう力だって持ってるんだから!」


 本性を現した大須宮子は、もはや一匹の外道に過ぎない。

 大きな瘤で覆われた両腕は、力自慢の怪物のような剛腕と化していた。


 身体は元のままなので酷くアンバランスだが、それがより一層彼女の歪んだ内面を表現しているかのようだった。


「そのためにっ!! 私はこの力に目覚めたのよっ!!」

 鬼女が叫んだ──栄光と賞賛を貪るためだけに生まれた外道の産声。


「そんなことのためにっ!! 外道になりやがったのかっ!!」

 幽谷響が吠えた──愚者を叱責(しっせき)するために上げた怒号。


 その怒号が数万倍に増幅され、音の衝撃波となって大須を襲う。


 だが、会心の一撃となるはずだった衝撃波は、彼女の剛腕による盾で塞がれてしまった。大須自身にはまったくダメージが通っていない。


「その吹き出物、滅法(めっぽう)硬いんでやしたっけ……防御力満点ときてやがる」


 大須は高笑いしながら両腕を掲げて突っ込んできた。

 寸でで避けた幽谷響と信一郎だが、二人のいた欄干辺りはパワーシャベルを叩きつけた後のように無惨(むざん)に崩されていた。


 これは幽谷響と信一郎だけでは手こずる相手かもしれない。


 だが、慎重な幽谷響が増援を怠るわけがなかった。


「──ムカツク」


 爆音が辺りを震わせたと思いきや、灼熱の業炎が大須を見舞った。

 大須は悲鳴を上げているようだが燃え上がる炎の音が激しくて聞こえてこない。それぐらい燃焼の度合いが凄まじいのだ。


 ガソリンを浴びせたとしても、これほど燃え上がらない。


「ウザい! 超ムカツク──そのオバハン、燃やしちゃってもいいよね?」

 昇降口の屋根の上、いつもの格好をした茜が佇んでいた。


 構えているのは一挺の銃──。

 女の子が持つには不釣り合いな大きさと武骨さを兼ね備えた拳銃だ。信一郎は詳しくないが、44マグナムと呼ばれる大型拳銃ではないか?


 但し、そのカラーリングは赤。

 一分の隙もないくらい紅蓮の色彩に染まっている。


「合図なかったけどもういいよねー? そのオバハン、アタシが焼き殺しちゃってもいいよねー?」

 少女の左手に業火が灯る。炎は瞬く間に形を変えて硬質化していく。


 それは一挺の機関銃へと姿を変えていた。

 右手の拳銃同様にどこもかしこも真紅に染まっている。


「フレイム・マグナム! バーン・マシンガン!」


 茜は外道と化した大須に向けて、拳銃と機関銃を乱射する。


 その弾丸は極限にまで圧縮された魔道の炎──。

 着弾と共に常識外れな発火を巻き起こす。


「アッ!? ブッハアアッアアアアアアアッ!?」


 ようやく大須の悲鳴らしきものが聞こえてきた。

 だが、すぐに爆音と業炎に遮られていく。


 炎と共に在る魔道師──『火車(かしゃ)


 全てを業炎にくべて、劫火で焼き尽くす──火を知り尽くした魔道師。


 父親である煉次郎(れんじろう)はアーティスティックな炎の使い方をするが、娘である茜は炎を銃器に変えて、爆炎の弾雨(だんう)を降らせるとんでもない爆弾娘だった。


「ったく、とんだじゃじゃ馬娘だ……でもまあ、今日のところは褒めときやしょう。自分の出る幕をよく弁えてらっしゃる」


「おい、まさか……茜ちゃんにこの場を任せるつもりか?」

 仕方ありやせんな、と幽谷響は傍観(ぼうかん)を決め込んでいるようだった。


「あの剛腕には下手(へた)に近寄れねえし、ウィルスの件もありやすからねえ。それらを諸共焼き尽くせる茜嬢の能力がこの場には最適でございやす。それにあの茜嬢の目……もう火が着いちまってやがる」


 確かに瞳が燃えていた──本当に燃えているわけじゃないが。


「こ、このガキィッ!!」

 大須は瘤を破って(うみ)を流れ出させ、それで炎を鎮火させた。新たに瘤を隆起させて剛腕を形作ると、猿のような跳躍力で昇降口の上にいる茜へ飛びかかった。


「──ヒート・バルカン!」

 しかし、茜が炎から創った4門のバルカン砲によって撃墜させられる。


「ムカツクんだよね、アンタ……アタシらガキのことなんだと思ってんの?」

 両手の拳銃と機関銃を撃ち続けながら茜は言う。


 降りしきる炎の弾雨により、もう大須はろくに身動きもできない。


「アンタたち大人からしてみたら、そりゃあバカなことやってんだろうなって思われてんだろうけどさ……でもさ! トモダチを大切にしたいって気持ちまでバカにすることないじゃんよ!?」


 茜はお気楽で能天気だが──性根はしっかり座っている。

 それについては煉次郎も承知しているので、何も言わないようだ。


「アンタみたいにイジワルな大人……アタシ大っ嫌いッ!」

 怒れる茜の背後には、今までとは桁違いの炎の塊が渦巻いていた。


「──プロミネンス・キャノン!」

 炎の塊は2つに分かれて茜の両脇に着き、一対の巨大な大砲へと変化する。

 照準は勿論、大須の一対の剛腕に定められていた。


 あの巨砲ならば剛腕を貫き、大須を骨まで焼き尽くすだろう。


 それは大須を殺すということ──。

 裏を返せば、まだ年若き魔道師に殺人を犯させるということ。


 そう思い至った瞬間、信一郎は咄嗟(とっさ)に動いていた。


「ちょ、センセー!? ちょっとそこ退いて! そいつ焼き殺せないじゃん!?」


 信一郎は大須を庇うように、巨砲を構える茜の前へと立ちはだかった。


「殺さなくていい──君がそれに手を染めるのはまだ早い」

 魔道師という人外のルールに則って生きていれば、いずれ殺人などの罪を犯す日も来るだろう。だが、茜はまだ殺人は犯していない。

 

 ならば今──殺人を()いることもない。


 大人のエゴ、偽善者の自己満足、魔道師らしからぬ意見。

 何と言われようとも構うものか。


 茜にはまだ、天真爛漫(てんしんらんまん)な少女でいてほしい。


「ここから先は大人の仕事だ……茜ちゃんはよくやった、ご苦労さま」

「そ、そう? そうかな……うん、そうだよね。そんじゃあ後はセンセーに任せるよ。アハハハハ……」


 引きつった笑顔を浮かべ、茜はおとなしく炎の大砲を収めてくれた。

 その手は微かに震えている──やはり人殺しは未経験なのだ。


「……幽谷響、彼女の始末は私が引き受けても構わないな?」

「先生がそうしてくださるんなら、願ったり叶ったりでございやすが……」

 どうするつもりでございやすか? と怪訝(けげん)な顔で首を傾げている。


 どうするもこうするもない。

 癒して治して奪って──とっておきの罰をくれてやるのだ。


「ちょ……ちょっとちょっとヤマビコ、センセーのアレ何? なんか女神様みたいに光ってるよ!?」

「ありゃあ先生の修羅ヴァージョンですぜ。近寄っちゃいけやせんよ」


 髪がエメラルド色になるこの姿を、幽谷響はそう呼んでいる。

 勝手に呼ばせておこう。


 まだ燃えている大須に信一郎が手を翳すと、炎は瞬時に消え去った。

 黒こげの大須の頭を掴み、力任せに持ち上げると『木魂』の力を注ぎ込む。


 ホイミもケアルも及ばない窮極の治癒力により、大須はすぐ回復した。

 焦げた皮は剥がれ落ち、焼けて縮れた髪もまっすぐに直り、火傷(やけど)まみれの肉体も元通りに治っていく。


「大須先生、もう意識は戻っているでしょう? 貴方の身体は以前よりも健康に治してあげましたよ」


 そう、以前とは異なる身体に治してやったのだ。


「つまり、外道になる前の身体に戻しておきました。貴方はもう得体の知れないウィルスも操れず、あの瘤を使った怪力も振るえない。外道になる前の至って普通な一般人に戻っています」


「な、なんですって……?」

 掌に当たる大須の顔の形が歪んでいく。驚愕しているのだろう。


「ついでと言ってはなんですがひとつだけ、私からのプレゼントがあります」


 ──子供たちから賞賛や栄光を浴びたいと妄想してみろ。


 そう言うと早速実行したのだろう、その結果が大須の身体に現れていた。


 露わになった全裸の身体のあらゆる箇所に不気味な蕁麻疹(じんましん)が出現した。例のウィルスによる奇病ほど目立つものではないが、全身に隈無(くまな)く広がっている。

 しかもそれだけではない。


「ひっ、なにこれ……痛いっ!? 痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいっ!?」

 信一郎はプレゼントに関する説明をしてやる。


「これから先、今までのように子供たちを利用して不埒(ふらち)な賞賛を受けようとすれば、全身に激痛の走る蕁麻疹が現れるようになります……真摯(しんち)な気持ちで向き合えば蕁麻疹は出ませんのであしからず」


 爽やかな笑顔でそう告げると、信一郎は大須の顔から手を離した。

 彼女は精根尽き果てた様子でその場にへたり込んだ。


「そ、そんな……もう……ガキ共をイジめて賞賛を受けることも、ガキ共を虐げて栄光を浴びることもできないなんて……そんなのイヤァッ!! やめてっ、元に! あの力を! 元に戻してよぉぉっ!!」


 縋りついてくる大須を信一郎はそげなく振り解いた。


 ──これは罰だ。

 人を教え導く者が道を怠り、あまつさえ教え子たちを虐げたことへの報い。


 信一郎は項垂れる大須の顎をつまみ上げ、強制的に自分と向き合わせる。

 そして、加虐を楽しむ魔女のような微笑みを贈った。


「誰が戻してやるかよ──死ぬまで後悔しろ、果てるまで苦しめ」


 君の道は──ここでお終いだ。


 締め括りを告げるように、愚か者に鈴の音色も贈られた。




「因果応報──でございやす」




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