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PLANT-プラント-  作者: 千羽稲穂
序章
4/67

プロローグ:し

 藤村は立ち上がった。向かう先はPLANT退治だと、口を引き締める。目には強い光と楽し気な色が混ざっていた。赤いマフラーが揺らぐ。


 さながらヒーロー。

 みんなのあれこれをしょって立ち上がって、立ち向かう。


 ただ、俺は藤村の実力は分からない。


「あたし、行く」


 彼女にひときわ羨望の眼差しを向けているものがいた。白い獣の耳をすっかり引っ込めて、黒髪のセミロングに黒い瞳をした女の子、俺の幼馴染だ。だが一方で並々ならない雰囲気を悟ってか、恐怖に顔を染めている。


「魔法使いの到着よりあたしの方が何倍も速いからね」


 俺たちは分かっていた。藤村の鼻が嘘ではなく本物であることを。だから、彼女がどこへ行くのかもPLANTがいることもほのかに本物だと感じていた。


「俺も行く」


 本当は生きたくない気持ちもあった。だが矛月の恐怖を見て、行かないといけないと思った。だから、決心した。そうじゃないと、藤村に全て取られた気がして気分も悪くなる。


「一応、俺も魔法使いの……」

「バイトの分際でしゃしゃりでるんだ」


 藤村の嫌味が刺さる。


「危険なのわかってるよね」

「当然」

「絶対分かってない」


 視線がぶつかる。

 女の分からないところを全て内包しているかのような切り替えしに苛立つ。


 わかっていて言っているのだ。なぜわかっていることをわかってくれないのだろうか。俺の言っていることを、感情を理解しようとしていない気がしてならない。

 それとも、黒木支部長のような力を持っているものはみなこんな感じなのだろうか。


「俺も行くよ。矛月もそうしなよ」


 間に入ったのは祐だった。

 いつもそうだ。祐は何事も間に入って、事を収めてくれる。


「どうせ此処にいても、いたずらに恐怖をあおるだけだからね。なら、藤村さんと一緒にいた方が安全そうだ」


 矛月がおもむろに藤村の様子を伺った。藤村はどうしようもないものを見ているような感じだった。がんじがらめになった選択肢に苦笑いしている。正解はあるのにそれを口にするのが嫌そうだった。


 嫌々と言った風に藤村は口を開く。


「うん。確かに私は三人とも守ることできる。けど、危ないのには変わりない」


 まだ含みがある口調だった。


「誉。これ以上詮索したり口喧嘩するのはよせよ。多分、此処に植物が来るまでに喧嘩のけりをつけるには、そんなに時間ないと思うよ?」


 ね、藤村さん、と祐の鋭い指摘する。祐の言った通り藤村はどこかしら焦っているようだった。

 藤村は時間がないのを知っていた。そのため俺を遠ざけるよう反論した。逆に時間を延ばす結果になってしまったが、もしかしたらそれが時間のない藤村の必死の抵抗だったのかもしれない。


 祐は、それを感じ取って言っただけだ。いつもながらお見事としか思えない。


「ああ、分かったよ」そっぽを向くと、矛月が「子供みたい」とちゃかした。


 幼馴染のこういった軽口はもう慣れたものだ。



 ◆◇◆◇



 神社をでて、神社仏閣のエリアを練り歩く。歩くたびに見かけるツタが絡まる鳥居。その大半の鳥居は傾いている。

 

 足元に石畳と土の地面が交互にやってくる。たいていの石畳は畳が整然としていない。どこか割れていたり、藻が間から顔を見せていたりする。黒い地面は湿っていて森の冷たい空気を吸っているのが分かった。


 黒と灰色を踏みしめて、崩れた緑が混じる社が隣に来る。一方の隣は朱色がはげた鳥居。地面がぴりりと振動する。小さく蔦が揺れ。


 しかして、周囲を見れば奇妙だ。どれもこれも崩れてはいるが、神社の社や寺らしき建物がある。全て同じ場所に同じところに密集している。


 俺達のいた社はこの崩れた仏閣、神社の先頭に立っていてあまり奥に入ったことはないが、奥に行けば行くほど仏閣、神社は崩れていき、廃れていく。


「こっち」


 藤村が犬さながらに俺たちを案内する。俺たちをかばうようにしっかりと先頭を歩き、突然出てきたPLANTに対応できるようにしている。


 神秘的な場所の奥の奥。普段誰も立ち入らない場所に俺たちを案内すると、足をぴたりと止めた。


 赤いマフラーが一瞬通り過ぎた風にあおられる。茶色のボブショートヘアが揺れる。キャラメル色のように輝きだし、鮮やかに俺たちの視界を彩る。

 街の端にいるせいか暗いが、彼女はよく見える。まるで彼女だけがスポットライトを浴びているように鮮やかな赤がそこにはあった。


 止まった周囲を見渡してみる。

 右には俺たちの頭上を覆う仏閣。これは俺達のほうへ崩れてかかっているのだ。左は広々とした石畳の広場がある。前には、エリアの端に来たからか街を囲っている太い木々が茂っていた。


「来る……」


 静かに藤村がゆっくりと動き、先にある何かを見つめているのが見受けられた。


 俺の視界にはまだ暗い森林しか映っていない。

 だがわかる。大きなものがこちらに近づいているのが、振動で伝わってきている。ずしん、ずしん、と一歩一歩踏みしめて、周囲の木々を蹴散らしている。


 俺はそれでも藤村の隣に立った。目の前にあるものを同じように見据える。


「あ、そうだ。万が一ってこともあるからね」


 その時藤村はくると後ろにいる矛月の方を向いた。同時に握りこぶしを差し出した。矛月は何が何かわからずこてんと頭を傾げる。


 藤村は先を促して、

「手、出して」少し強い言い方になる。

「え……っと、こう?」


 矛月はしどろもどろしながら両手をおわん型にして藤村に差し出した。何かを請うているようで、こんな時なのに滑稽に見えて俺は陰で少し笑ってしまった。


 うん、と藤村は満足そうに頷き、握りこぶしをおわんの上で開けた。ころんと矛月の中でそれは落ちた。


 遠目から見てみると、それは小さな丸い石だった。ビー玉のような透き通っている石。石の中では黒い闇がはらみ、うごめいている。その闇の中でキラキラと粒が輝いている。それはまるで粒が石の中で天の川を作っているようだ。


「これ、上げる」

「え、でも……これっ」


 俺は見ないようにした。どうみてもこの魔法石は高価なものだった。しかも、この石は一般市民は決して手に入らないもの、ある職種の者しか支給されない魔法石だった。

 その石を持っているということは、やはりそういうことなのだろう。


 見なければよかった。


「あたし、これ、何十個も家にあるから気にしないで」


 すぐに藤村は前を向き、よしと喝を入れた。

 無理やり押し付けられた矛月は、どうすることもできず苦笑してそれを大切そうにスカートのポケットに入れた。


 臨戦態勢に入ったらしい藤村は目が鋭くなる。その目の向こう側にほんのり見える、大木の存在。


 幹はうねり悲鳴を上げた。

 木から葉が落ちすれる音が響く。


 次第に明らかになっていくPLANTの姿。かの動く植物、PLANTは周囲の木々をなぎ倒しつつこちらに向かっている。


 周囲の木は左になぎ倒され、右に倒され、木が折れていく。おそらく周囲の木が倒せるほどの巨体。押しつぶされればひとたまりもない。


「矛月、祐離れてろ」と俺は注意。

「むーちゃん、ユウ離れないでね」と藤村。


 同時に反対のことを言ってまた、俺と藤村はにらみ合う。


「離れないで」


 時間がないのか藤村は強く強く念を押すように言ったため、今は引き下がった。

 喧嘩している場合ではないのは目の前の景色を見ればさすがに理解ができた。その理解に先ほどの魔法石が関与していることは否めない。


「誉、今日はあんたに花を持たせてあげる」


 PLANTは生物に、特に人間めがけて襲い掛かる。なぜか生物より人間を優先する。ここまで来たのは、きっと俺たちの後ろにある、仏閣や神社エリアの先にある街の人間を襲いかかるため。


「あたしが、合図したら武器を作って。で、ちょっとの間だけ形を維持して」


 ここで俺たちが食い止めたら神社等のこの空間が保たれる。最小限の被害で抑えられる。春祭りで使われる俺達がいた靖神社を壊されずに済む。なら、やらない手はない。


 俺達が止めるのだ。

 魔法使いの到着を待たず。


「なんで、俺に頼るんだ」

「あたしじゃ、きっと作るのが間に合わない」



 まるでヒーローだ。



「わかった」


 藤村が俺が応じる傍ら、これぐらいバイトしてたんなら楽勝でしょ、と嫌味を飛ばす。会話の端々に俺達二人はそういったものを入れなければ気が済まないらしい。


 大きな木が倒れていく。

 距離が詰まる。

 心臓が高鳴る。


 これほどまでの大きなPLANTを相手するのは初めてだった。しかも、今日あった何者なのか分からない女の子と一緒に討伐するのだから、気が狂ったとしか言いようがない。だが、今まさにそうしているのだ。向かっている。俺は敵を前に立ちはだかっている。


 ポケットからそこらへんで売っている魔法石を取り出し、力強く握りしめた。そしてもう一度確認する。


 PLANTが動く原因はPLANT内にある核にあるとされている。その核は丸いビー玉のような石。つまりは魔法石だ。それさえ砕く、またはPLANTを動けないようにして核を取り出し壊せばいい。


 もうPLANTが明確に見えていた。

 映るのは巨体なPLANT。足の大きなうねる根っこを蛇さながらにもぞもぞと動かして器用に歩く巨大な木。根っこを絡ませ、しかし規則的に。幹は太く俺達四人が並んでも幹の幅に長さにはならないほど太い。


 緑の藻が黒に近い茶色の根っこや幹にところどころ生えている。藻でコーティングされていて、木は荘厳に見える。動くたびに頭上の緑の葉が通った道にしるしをつける。でこぼことつながった道の先をたどると、俺達がいた。


 藤村が深呼吸する。そして、深く、それでいて浅く、自然に身構えた。


 俺も応じて高鳴る心臓をBGMに相手と藤村をしっかりと見据える。そして心の中でいつ来てもいいように同じ言葉を口にした。


 くる、くる、くる、と何回も逡巡。


「楽勝」軽口をたたく藤村が今だけは頼もしく見えた。


 目の前にあるPLANTがリアルに見えるほど近くに来る。距離にして二十メートル。


 しかし彼女は動かない。

 何かを待っている。



 来る!



「三」


 俺のカウントダウンと同時に彼女の口から洩れる。


「二」


 藤村の髪先に大木がーー


「一」


 ーー擦れる。


 次の瞬間、藤村のポケットの中からまばゆい紅の光が世界を染め上げた。視界は紅で染まり、時間が止まったように目の前の大木が動かなくなった。紅の世界はしばし続き、その中で、藤村だけ動く。ゆっくりと、しかし早く。


 刹那、どういったわけか痛々しい打撃音が周囲に鳴り響く。

 

 紅色の世界は夢が覚めたように音とともに消し去っていた。


 気づいたら、どういったわけか目の前には左足で回し蹴りをした後の藤村の姿と、左の石畳の広場に倒れこむ大木の姿があった。


 大木の幹がへっこんでいた。細い糸でへこませたような跡。


 どういう魔法を使ったか分からないが、おそらく藤村が幹に回し蹴りをしたのだ。そしてあの巨大きい木を倒しこんだ。

 

 あまりにも速くて移動しているのも、蹴り上げたのも、俺の視界には見えなかった。


 大木は倒れまい、とうねる何本もの根っこで這いつくばっているが、幹のへこんだ衝撃で立ち上がれない。

 そのさまは既に敗北を喫したようだった。だが動いているのなら、油断してはならない。



「誉ぇ、鎌!!」



 藤村は態勢を整えつつ、身軽に倒れた大木の上に飛び乗る。核の適切な場所が分かっているようだった。



 彼女の期待に俺は応じなければならない。



 俺は身を引く。


「どけ。矛月、祐」


 二人が察して二三歩さがるのを確認すると、投げる態勢に入る。


 頭の中で鎌のイメージを作る。一語一句、つま先一つ間違わぬように、それでいて精確に大きな木をぶった切れるような武器を。


 想像できると、魔法石を輝かせる。

 魔法を使えば必ず光る発光現象。俺の色は黄色と青色。同時に石から漏れ出る。


 輝くと同時に投げる手に重みを感じる。ぽんっと俺の創造物が落ちてくる。俺の魔法。これを届けなければならない。


 素早く、藤村のもとへ手に持っていた鎌を遠心力で重みを付加しぶん投げる。


 身の丈ほどのそれが藤村の手元に無事渡った。だが、どこか藤村は不満そうだ。


「って、これ……」


 藤村が俺の創造物を振り上げる。大きなそれは月夜と緑に照らされ、銀色の光を刃に走らせる。

 下に構えるPLANTは根っこを大量に上にあげた。ぐねぐねと曲がりながら藤村に向かっている。最後の抵抗だ。だが藤村はその根っこごと全てを切り下ろした。



「斧じゃん」



 藤村の足元の大木は真っ二つに切れ、根っこは力なく萎れていく。どの根っこも落ちぶれていき、力なく地面に先を付けた。一つ一つ花が散るように、音をたてて石畳の上にその身を落としていく。大木は先ほどまでの血気盛んな生気をなくし、緑の青はかすんだ。あるのは死人のそれと同じ動かない物のみだ。


 どうやら、真っ二つにぶった切った時に核にあたり大木を刈り取ってしまったようだった。


 藤村が持っていた俺の自称鎌は切ったときに全て崩壊し、崩れていった。藤村の手に残ったのは、俺の魔法の後始末。創造物が崩れていき、光の粒に変わっていき、それが薄れていく様子だけだ。


 魔法で想像したものは消耗品だ。こうしていずれ壊れていく。ぽろぽろと鉄がさびて端から崩れていくように、消えていくのだ。


 その崩壊に藤村の手は握りつぶすのではなく、待った。優しく光の粒を見送る。


 そんな彼女の顔はこれ以上ないほどの快楽を深く味わった後のように満面の笑みを浮かべていた。



 ◆◇◆◇



 だから、何度言ったらわかんだよ、あんたの魔法ははダメダメ。

 なんだよ。一秒持つだけでも、立派だろ。


 と、何回したか分からない喧嘩をこれでもかとまた繰り返す。


 相手は藤村絢香。

 これもまたお約束だ。こいつとはいつまでも馬が合わない。最初から最後まで、いつまでも俺はこいつとまともに会話しないのではないかというほどにできない。俺はこいつを少し理解しているが、こいつは俺のことをほんのちょっとでも理解しようとはしない。


「そんなんでよく魔法使いのバイトしてるねぇ」


 はっ、と煽りともとれる藤村の猛攻撃が炸裂する。


 相手は、痛いところをいつもついてくる。俺の魔法がそんなに気に食わなかったのか、いつまでも俺と藤村が打ち取った大木から降りずに上からずけずけ言ってくる。

 さっきの、魔法が短いだの、なんだの。


 そのたびに藤村は踏ん張って、大木が動く。残りかすとなった木はさっきよりも軽く動きやすくなっている。そこに藤村は器用に立っている。


「『ちょっとの時間』ってお前言ったろ」


 俺だって対抗策ぐらいあるさ。


「『ちょっと』って言ったって普通の魔法使いは十秒ぐらい創造物持たせるもんだ」

「俺はバイトだって」


 後ろにいた矛月と祐は、周囲に魔法使いが現れるだすとそそくさと退散した。俺はまだまだ言い足りないから、とどまって藤村の相手をする。

 こいつを言い負かせないと気が済まない。俺の中の何かが沸き立ち、一斉に噴火していた。


「そんなことどうでもいいし。というか……」

「話すげ替えんな」

「『鎌』って言ったのに『斧』出す馬鹿がいる? もしかして()()わからない?」


 周囲の視線が俺たちに集まるのがわかる。知らないうちに人が集まっているのを感じとっている。この人たちの正体も知っている。


 しかし気にしない。この人たちが、PLANTの後処理に来た魔法使いでも、俺は今負けられない戦いがある。


「あの時は一瞬だった。瞬時に鎌を作ることなんて出来ない状況下で、創造物をミスするのは仕方のないことだろ」

「でも、鎌と斧とを間違えるなんて」


 ぷっと藤村がふきだした。

 どっちかと言えば、言葉の端から察するに藤村の方が天然で、馬鹿で、物を知らないやつだ。そんなやつがちょっと魔法が使えるからってバカにするのはいかがなものか。


「おい、藤村そのへんにしておけよ」


 拳を握りしめる。屈辱的だった。どこをとっても、こいつに引けを取っている俺は屈辱以外何も感じなかった。


「はい? 何? 暴力で喧嘩しようってわけ? 言っとくけど、あたし強いよ」

「望むところだ」



「ストップお二人さん」



 ある女性の声が俺たちを遮る。その人は俺の見知った人でいつも俺の間に入り、いろいろな点において俺のしたいようにできなくさせる口うるさい人だった。


 藤村と俺は二人して、その女に振り向く。同時、同タイミングにまた苛立ちにらみ合う。やわらかい笑みも、何もないただ敵意丸出しの藤村の視線がぶつかる。稲妻を上げて視線が戦う。


「喧嘩はほどほどにして、そこからどいてくれないかしら。現場検証ができないのだけれど」


「黙れ、黒木支部長」と、俺。

「うるさい、黒木さん」と、藤村。


 これまた同タイミングだ。またいがみ合う。


「やめなさいって言ってるのに」


 大きなため息とともに、茶色いコートを着た支部長は隣にいるであろうある魔法使いと話した。


 隣にいるのも俺の見知った魔法使いで、俺の魔法使いの先輩にあたる人だ。顔はそこそこイケメンで、だがいろんなところに大雑把。魔法や人間関係などこの人に聞けば、それはそれは適当に説明される。

 

 そんな先輩の名を陰田(かげた)という。


 その陰田先輩と黒木支部長は仲良くこそこそ話していた。喧嘩している横でもよく聞こえるように。


「どうしよう、陰田くん」と黒木さんが相談しているのに、

「どうしようもないっすよ」とやはり適当に陰田先輩は返した。


「あ」


 そこで黒木さんが何か思いついたように目を輝かせる。藤村も気になるようで少しの間、俺たち二人はその人の言葉に耳を澄ませた。


「この景色視たことがあるわ」


 息をのむ。その一言に何人もの魔法使いが耳を傾けた。どういったタイミングであっても未来の予測は大切なのだ。



「ボーイミーツガール」



 楽し気に黒木支部長は、俺たちを順々に指をさした。


 俺に向けて「少年と……」

 何をしているのかいぶかしむ。


 続いて藤村に向けて「少女が……」

 藤村は少し照れくさそうに頬を染めた。


 黒木支部長は俺らを見て柔らかく笑い、手をコートのポケットに隠した。


「出合う、そんな素晴らしい景色」


 ひとまず二人で見合って、そんなことあっていいのかと目で会話する。俺も、藤村もそれを聞いた途端不満を感じていた。


 目線を互いに逸らして、


「「冗談じゃない、どうしてこんなやつと」」


「ほら、息ピッタリじゃない」


 黒木支部長は俺たち二人をからかっているようだった。

 俺はまったく黒木支部長の意見には賛同できなかった。全くと言っていいほど。その端一つも、理解したくないかった。

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