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PLANT-プラント-  作者: 千羽稲穂
第一章『青春と葛藤と恋愛と…』
32/67

第四話「狂気と葛藤して(認めてもらえた。)」

 あ、拳銃落とした。


 翔が呟いた。


 えっと、本当にやめて、そういうこと。今隠れているとこなんだからさ。


 やって来た人影は二人。

 一人は、それなりの体付き、あたしより少しだけ背が高い皐月ちゃんこと、陰田皐月。それなりにイケメン。それなりに魔法が出来て、それなりにしか印象が残らない優男。

 もう一人は、ガタイがいい男。背はあたしぐらい。腰には刀を携えている。多分田沼って魔法使い。

 どちらの男も瞳は真黒。でも、髪色は田沼の方は黒い色をしているのに、皐月ちゃんはこげ茶色の髪色をしている。


 皐月ちゃんは昔と変わらない姿をしているのに、今はこんなにも遠い。あたしも昔はあっち側だったのにね。


 息を潜めて、魔法使い二人の動向を探る。


「取ってきていいか?」


 隣で場所も、時も弁えず、声を普通にだす翔が居た。


「バレんじゃん」と小声で言った。

「バレない」


 どこにそんな根拠があるんだろうか。まるで皐月ちゃん相手にしてるみたい。勘が良いからか、皐月ちゃんも勘に縋って偶に意固地になるんだよね。「バレないバレない」そんな言葉が皐月ちゃんは「俺の勘は当たるから大丈夫大丈夫」なんていうんだ。


「これは、すげぇな」


 田沼が感嘆してる。


 見ると、倒れた幹に駆け寄っていた。あたし達はその幹背後の一本の木の後ろに隠れてる。だから、ばれないかドキドキする。


「絢っぽいなあ」遅れて皐月ちゃんが到着する。



「既にバレてんじゃん」

 今日の勘は冴え過ぎだ。


 どうか皐月ちゃんが今のあたしの位置まで見つけないでほしい。絶対に。


 小声で何度も祈りを繰り返す。


「あー、あの人の足元にある」


 またまた翔が、声に出す。てか、大きいって。何でこんな大声出して、あの二人にバレてないのか、そっちの方が意味わかんないけど。


「取りに行く」


 えっちょっと待って。


 翔があたしのことなんか気にせず、出ていく。何で隠れてたのか分からなくなるぐらいあっさり。


 もう、どうなっても知らない。



「藤村絢香、か。えげつないな」田沼と皐月ちゃんの会話が続いてる。これは田沼の声。「一回だけ殺してみたいなあ」


 同意するなぁ。て、本当はしちゃダメなんだろうけど。


「やめろ、やめろ。田沼、お前じゃ無理だ」

 皐月ちゃんが手を振る。


「なんだ、えらくあいつの肩を持つな。俺が弱いって?」

 刀を抜かんばかりに田沼がけしかける。


 なんだか懐かしい雰囲気だ。こうやって魔法使いどうしはいつもバチバチしていることが多い。穏便な人や、身や心を投げうって、魔法使いになる人はいるにはいるけど、大半が狂っている人が多いから、自分の強さを信じて疑わない人ばかりだ。あたしもそう。皐月ちゃんはきっと前者の穏便に済ませるタイプだ。


「そうは言ってねぇ。けどな、あいつは凄いんだ。俺でも格が違うって分かるほどに」

 皐月ちゃんが突っかかった。いつもはひらりとかわすのに。


「お前が?」田沼の声が弾む。


「ああ、認めてる」


 へぇと田沼が舌鼓する。


 分かるよ。あの田沼って人、あたしと戦いたいんでしょ。あたしだってそうだから。こんなに皐月ちゃんが良いよって言う人なら尚更気になるよね。いつもの皐月ちゃんは誰も褒めないから。


「でも、さ。」皐月ちゃんは上を見て、何かを思い出す素振りをする。



「それ以前に、絢は普通の女の子だ」



 『普通』そんな皐月ちゃんの言葉がやけに脳裏に残る。


 普通って、言った? あたしがこんなでも、皐月ちゃんは普通なんだ。


 なんだか嬉しくて、嬉しくて、心が躍った。


「魔法使いなら、普通もないだろ」と田沼が続けていったのに、それなのに皐月ちゃんが言った言葉で、胸が温かくなる。


「まあ、お前は、魔法が使えないからな!」と遠くなっていく皐月ちゃんの声。もうこの場から去ろうとしている。


「俺はこの刀一本で、充分」

「流石イレギュラー。魔法が使えないなんて嘘じゃねぇの?」

「それは、本当。一戦やるか?」

「戦闘狂」

 ひらりと皐月ちゃんは躱していく。いつもの皐月ちゃんだ。



「取って来た」


 突然あたしに話しかけて来たのは、翔。


「って、ばれてない!?」田沼の足元にあったのに、バレていないのは流石におかしい。


「俺はバレないって言っただろ」翔は得意げに笑った。



 □□□



 ESSの部室に勢いよく入る。ドアを引くと軋んだ。

 そこには優雅に英語の教科書を眺める翔の姿があった。


 やっと見つけた。


 先日からどうも翔に避けられている。総合の魔法の時間には姿を消してるし、聞けば保健室でサボってるようだし、いつもの集合場所にはいない。そして、こうしてやっと対面。


「翔、説明して」


 翔はこっちを見ずにずっと英語の教科書を見て、予習している。確かに偉いよ。偉いけど、翔はいつも現文と英語は寝てるよ。


「何で気づかれなかったの。と、いうか、あたしの魔法に引っかかってからの行動もおかしくない? 拳銃とか、魔法使いと警察しか持ってないでしょ」


 いつもはこういう踏み込んだこと聞くなんてしたくなかったけど、今回は別。魔法はあたしの中で一番大事な問題だ。あたしはそう言うのに関しては気になって仕方ないんだ。


 むむむと睨むと、翔は英語の教科書を机の上に落とした。目を閉じてる。これは何というか、下手だね。


「寝たふりしたって分かるから」


 部室に置かれている中央の机を力強く叩いた。

 ちらっと眼を開けて、翔がよわよわしく「言わないといけないのか?」と答える。


「言って、あたしを納得させて」


鳥羽()に聞けたか?」


「翔が言ったら聞くから!」


 もう一度叩く。それから、翔は暫く思案。手を顎に乗せ、考えている。はっと気づき、顎から手を放す。謎は全て解けた、とでも言うように黒い瞳をあたしに傾けた。


「魔法の“副作用”って知ってるか?」


「副作用?」


「副作用があるんだ、魔法には。例えば年を十年に一歳しかとらない、とか。未来が視えるとか。魔法石に敏感だとか。」


「何で副作用?」


「知らない。でも、そう言うものは魔法の“副作用”って呼ばれてる。世界でも希少な事だ。俺のはそのひとつ。影を薄くできる」


 魔法の副作用なんて聞いたことないけど、実際あるのかもしれない。あたしの鼻とか、黒木支部長の瞳とかあたし達以外で聞いたことがない。強い魔法使いであればあるほど、こういう特別はあるみたいだし、魔法がそうさせているって考えるのはあながち間違ってないかも。


 田沼に気付かず、銃を取って来たのは、それでか、と納得したはいいけど、他はよく分からない。


「じゃあ、あたしの光を当てられて吐いたのは?」


 きらきら嘔吐物を吐いた時は焦ったなあ。


「あれもその一種。俺はああいう強い魔法を当てられるのが弱いんだ。当てられると、周囲の敵味方を判断できなくなる。あの時は運よく木の方に向かっただけだ。でも、まぁ、いい気はしない」


 翔は机に放ってあった英語の教科書を畳んだ。そして、ゆっくりと立ち上がり、あたしを見据えた。


「俺はアヤカみたくあれを刈るのは好きじゃないから」


「翔?」


 あたしは翔に薄気味悪さを感じた。怒っているのかもしれない。あたしが聞いたことに対して、どこか鬱陶しくしている。表情には出さないのにね。


「逃げようとしてるでしょ」


 と、そんなことはどうでもいいから、とにかくどこか行こうとしてる翔に笑いかけた。翔ぷいっとそっぽを向く。サボり癖も、この癖もどこか苛つくのに許せる。


 ツンツンしてるのに、デレてる?からかな?


「獣交じりと同じで、気を当てられたら弱いんだ」と翔は小声で呟く。


「分かった、これからはあれを翔の近くでしないから、今は逃げんなっ」っとびしっと指さす。


 まだ聞けてないこと沢山ある。言わないでいる気だ。じっと翔があたしを見つめる。結構苦しそう。でも、逃さない。にっこりとあたしは微笑む。それから、ワンテンポおいて、「ふ」っと翔が一息つき俯く。


「実は俺……」



 ガラッ



「じゃ」

 翔の背後の窓が開け放たれた。

 あっ、あたしがじっと見てる間に、後ろ手に開けたんだ。


 カーテンが揺れて、一斉に風が入る。


 次の瞬間、翔は窓に向けて体を翻し、飛び出した。


「あ、待ってよ」

 飛び出したと同時にあたしは窓に駆け寄って窓から顔を出して見た。そこには翔の姿はどこにもなく、登下校中の生徒が楽しそうに談笑している姿が見受けられた。


「ここ三階なのに、どういう神経してんだろ」


 はあって呆れて溜息しかつけない。普通の人なら事故だ。飛び降り自殺になるのに、翔のあの再生能力もまた副作用なのだろうか。あの饐えた腐った匂いも、また副作用なら、あたしや、副作用を持っている人にも匂いがするんだろうけど、そんな匂い魔法使いに香ったことがない。


 ま、そんな疑問も、ただの杞憂だろうけど。


「って、あいつは怪盗か」


 それより退場の仕方が、おかしい。おかしいって。翔。なんだか翻弄されているみたいで、悔しい。探ろうとすればするほど、下手に隠すし、逸らすし、逃げるし、なら…

「受けて立ってやる」


 入って来た時みたいに、勢いよく部室を飛びだそうとした。飛び出そうとしたんだけど、そこで運悪く入って来た人とぶつかった。この部室にはほとんど人が来ないから、きっと部屋を間違えたんだろう。なんて運が悪いんだろって、ぶつかった人を伺う。


「あれ?」


 そこには、誉が居て、あたしを睨んでいた。

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