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PLANT-プラント-  作者: 千羽稲穂
第一章『青春と葛藤と恋愛と…』
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第四話「狂気と葛藤して(枯れた梅の木)」

 職員室によって、入部届を翔と一緒に顧問に渡す。まるで彼氏彼女?とか冗談を飛ばすと、翔はそっぽを向いていた。冗談は通じないらしい。ここで、あっモテなさそうだなと人並みに女子高生っぽいことを想像してみた。これから、行くところは、することはきっと人より外れていることだけど、なんだか学生生活の寄り道みたいで新鮮だった。


 変なの。


「どこだ?」


 学校を出た時に翔が聞いて来た。その真剣な表情に、野次馬に行くんじゃないんだってことを理解した。どっちにしても、あたしが楽勝にプラントを殺すところをみたら引くんでしょうけど。


「どこに、出る?」


 短い言葉の方が詰まらずに尋ねられるようで、するすると翔の口から生まれる。


「多分あっちらへん」


 支部がある手前の方角を指さした。そこは確かこの街の小学校があるところだ。正しくは小学校の裏手にあるずっと奥の森だ。その森から、中くらいの木が移動している。街に来る前にとどめを刺したいところ。


「寄生型の中型だよ」


「キセイガタ?」


 あ、つい魔法使いの癖で専門用語を。


「えっと、植物に魔法石が入ってるただ人間を襲う奴が寄生型」


「他にもあるのか」


 翔が急ぎ足で、歩き出す。あたしも負けじと歩く。追い越そうと必死になるが、翔が一段と早足になる。むっとなって、あたしもつられて早足に。


「他には、魔法型とか? 魔法を使ってくる奴」


 閑静な住宅に寄り添っている歩道を二人していく。建物が並んでいるところのそのまた上を見上げると、エリアを隔てている木々が目に入った。わざわざ道なりに沿う必要はない。斜めに突っ切った方が早い。


 あたしの説明に悶々と考え始めた翔をちらりと目をやる。気づいたら、走っている。さっきまで歩いてたのに、翔もあたしも負けず嫌いらしい。でも、今度ばかしは、置いていくしかない。


 ペンダントとしていつも持っている魔法石に意識を集中する。今、きっとペンダントの中で石が光っているはずだ。体に光を宿らせるイメージをする。すると自然に力が湧いて来る。今度は体全体に光を宿らせるイメージをしながら、足の光を集め輝かせるイメージをする。



 今だ。



 足を思いっきり蹴り上げると、建物の屋根の高さまで飛ぶ。近くの平らな屋根に着地した。反動も体を強化しているからゼロに等しかった。一瞬の出来事に翔は足を止め、屋根に飛び乗ったあたしを見上げた。


「翔、あたし先行くね。こっちの方が早い」


 そっか、最初からこうやって追っ払えば良かったんだ。



「待ってろ」



 翔の短い言葉の後、あたしの隣に翔が飛び乗って来た。




 んんんん?


 普通の人なら、魔法とか使って、創造してから屋根に乗るよね。一瞬目が眩んだ気がしたから、今のは幻だよね。そっと隣を見る。そこにはやはり翔の姿があった。細い足も折れていない。ちゃんと立っている。


「は?」と息が漏れていた。


 発光も見えなかった。男子は魔法の発光を見せるの大好きだから、あたしとは違う能力ってことも……って、あたしだけ特別って考えてるの癖になってる。別に他の人が同じ力持っててもおかしくない。


「急いでんだろ、俺は正確な場所は分からない。早く行こう」


 次の屋根に向かう。そんな逞しい体つきじゃないのに、最初とは違って勇ましく見える。あたしと、同じ。それとも、また違う何か。得体のしれない匂いは獣交じりの可能性を否定してる。人じゃないのは確かなのに、それが何か分からない。


「待って、はっきりさせとこう。翔、今どうやって、飛び乗ったの?」


 面倒くさそうに目を細めた。


「分かった。後にしよう」


 ずんずんと翔の前を行った。次の屋根は今いる屋根みたく平じゃない。とんがっている屋根だ。あたしはそこへ飛び移って、着地し、森への方向にある次の屋根に向かった。また平らな屋根だったのでそこで一旦落ち着く。後ろに翔がついてきているか確認すると、あたしがいる屋根に降りているところだった。あたしよりも、着地の音が大きい。足がじんじんする痛い音がするのに翔は平然としていた。ちゃんと来てる。安心してるのに、はっきりとしない存在ってだけで少しだけ恐ろしくなる。


 このあたしが怖がるなんて、あるんだなあ。なんだか感慨深いっていうか、こんな感情も久しぶりすぎて、おかしくておかしくて。楽しい。同じ力か分からないけど、皐月ちゃんと同じぐらい実力があって、一緒についてきてくれている人がいて嬉しい。


「いや、これってもう友達だよね」


 呟くと、翔がそっぽを向いた。


 あれ?もしかして聞こえてた?


「てか、もしかして照れてる?」


 意地悪く翔を見ると、目を合わせてくれなかった。でも、耳が赤くなっていて、はいそうですよと答えていた。無口で、反応も遅いのに、返してきてくれて、察しが良いが可愛かった。シロが、翔をからかうの分かるかも。


 よしっと気合を入れて次の屋根に飛び移る。



 □□□



 森を超えると、翔がふらっと着地に失敗した。手を掴む。握り返してはくれなかったけど、倒れるのは防げた。一安心する。と、翔が心底嫌そうに睨み返してきた。


「触るな」


 きつい一言が刺さる。


 手を放してあげて、翔の瞳を覗き込んだ。彼の瞳はむぅちゃんや妖し者のように金色になっている。でも喋れてることだし、妖し者ではないのは確か。この症状は一種のゼンソクみたいなものかもしれない。ゼンソクもうっすらと金色に変わることがある。


「何?」とあたしも棘のある言葉で返してしまった。


「いや」翔は怯み、俯く。「何でもない」


 それから、あたし達の間には会話はほとんど起きなかった。翔も翔で、何にも返してこない。誉ならやりやすいんだけどな。翔も翔なりに何かに悩んでるのかもしれない。一見何にも悩んでなさそうな奴だって嫌なことや、悲しいことに俯いている。それが普通。あたしの悩みだって、だとしたら普通なんだ。


「うん」


 何か込みあがって来たけど、今は飲み込んだ。


 そうしているうちに、辿り着く。小学校のグラウンドにはサッカーのユニフォームを着たスポーツ少年達がサッカーをしていた。その奥に構える小学校は黒ずんでいて古めかしい。流石に小学校は子供がいるからか、グラウンドには草の一つない。校舎もコンクリート製で、白い壁には一切の蔦は絡まっていなかった。奥には森の大木が見える。


 あそこだ。瞬時に判断できた。匂いがその奥の奥に続いている。此処まで近くまで来たら、姿形が頭に浮かぶ。大きな木だ。ほんのちょっと甘酸っぱい香りだから、梅の木。春初めに倒したあの大杉ぐらい大きくはない。


「翔」


 顔を向けると、翔はこくんとした。


 覚悟は決まっている。あたしがいる限り、傷つけさせないから、一応の確認のつもり。


 学校近くの家の屋根に乗っているあたし達は、すぐに傍の道路に飛び降りた。と、同時に駆け出す。小学校を回り込み学校の裏手にある森に足を踏み入れる。そこまで来るとむっとした匂いが押し寄せる。森にうずもれている向かってくる木はもしかしたら……



「腐ってる?」


 あたしの足が止まり、翔も行く先が分からず、足を止めた。ちょっと困ってる。表情には出てないけど翔が困惑してるのが分かる。なんだか可愛いな。


「どっちだ」と翔が急かす。

「こっち」あたしは森の木が濃い場所に指をさす。


 そして、また走り出した。

 草や大木の突き出した木の根に足を取られずに器用に駆け出す。


「腐ってるね」また嗅いでみても同じ匂いがしたので、口にぽろりと確認のつぶやきが出てしまった。「うん、腐ってる」


 まただ。ついやってしまった。


「どういう意味だ?」


 やっぱり気になるよね。


「これから会うプラント、きっと枯れてるよ。そういう匂いがする」


「だから?」


 疑問の多い人だなあ、ちょっとだけ面倒くさくなってきた。


「だから、今あたし達が倒さなくても、そのうち腐って動かなくなるんだよ。多分もうもたない。小学校につけるか、つけないかぐらいで止まるんじゃないかな。元の植物が腐ってたりすると、プラントになりきらないし。なっても、すぐに活動停止する」


 暫く翔が思案して、あたし達の地面を蹴る音が小さな音が響いくだけになった。柔らかい地面が踏みしめることで固まる。


「だったら…」


 翔の足が止まりそうになる。


「でも、あたしは行くよ」


 このわくわくは止まらせたくない。翔の行動一つであたしの心は止まらない。どんな気なのかシルエット状態の敵の影を見るだけじゃ気になって仕方ない。

「そうか」翔の小さな同意が聞き取れた。彼の足も止まらない。




 ギィッ







 ザザァァァ


 その時前進して、頭を揺らし、枝の葉を落とす音がした。それは何度も繰り返していた。




 ギィィィッギィィィィ






 ザザアッ



 木を押しのけながら小さな梅の木が来るのが視界の先で捉えられる。その姿は滑稽で、短い生をなんとかして生きもがく醜い化け物そのものだった。弱い生き物。幹は黒くただれて、焼け跡が見られる。枝葉は少ない。今は夏前なのに冬みたいにむき出しの幹がさらされている。雷にでもあてられたのかもしれない。ああ、こんな小さなものを相手にするなんて、あたしも見くびられたもんだね。


 なんて可哀そうな生。

 

 だから、みんな彼らに同情して魔法使いになれないんだ。弱いから。プラントに心なんてないのに。あると勘違いしてる。

 あたしは同情なんて感じたことないけど。


 これならすぐ終わる。

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