表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PLANT-プラント-  作者: 千羽稲穂
第一章『青春と葛藤と恋愛と…』
27/67

第四話「狂気と葛藤して(少女は故意的転落を決意する。)」

 この間久しぶりに皐月ちゃんと会った。


 まあ、皐月ちゃんからあたしに言われる内容なんてある程度察しはついていた。あたしは他の人よりも魔法が使えるから、普通の人より痛みに鈍感だから、魔法使いに向いているって、皐月ちゃんは言うのだろうとは思ってた。


 それは見事に当たって、久しぶりに会った皐月ちゃんは将来のことを聞き出してきた。

 そして、言い放った。


「お前は自分を知らないんじゃねぇか? どう見たって魔法使いに向いてんだろ。それとも、なんだ、子供みたいにごねてんの。馬鹿言ってんじゃねぇよ。絢、お前甘いんだよ。世界を知らな過ぎんだ」


 こう思い出してみたら、誉の口調にそっくりだ。もしかしたら、誉は皐月ちゃんに魔法やプラントの対処について学んだのかもしれない。それは、あたしと同じ。あたしも皐月ちゃんから魔法を教わった。で、すぐに皐月ちゃんを追い越してしまった。そんなんだから、皐月ちゃんはあたしに魔法以外の他の才能がない事を骨の髄まで分かっていたのだろうな。思って、心配して言ったんだ。


 陰田皐月。だから、皐月ちゃん。


 あんなきつい言い方をしていた皐月ちゃんでも、あたしにとっては初恋の人だった。昔は近所に住んでいるお兄ちゃんみたいで、優しかったし、皐月ちゃんのお姉ちゃんの水無月みなづきちゃんと一緒に魔法使いのパトロールに出かけたことだってある。水無みなちゃんはいつからか姿を見なくなったけれど、皐月ちゃんとは七、八年前までずっと遊んでもらってた。それから、皐月ちゃんは引っ越して、あんまり遊ばなくなった。皐月ちゃんと別れたその時期からあたしは魔法使いとして働きだした。遊びで皐月ちゃんから学んだ魔法はプロでも活躍できるものだったから、すぐ起用された。多分、小学四か五ぐらい。


 黒木香奈さんはそこらへんであたしに関わってきた。まだ支部長なりたてほやほやの新人支部長が初めてスカウトしたのがあたし。


 魔法使いの正規雇用はバイトから抜き取るのが常なんだけど、あたしみたいにスカウトして魔法使いになることがある。黒木香奈さんの支部はスカウトの方が多い。プラント対策本部中最も異質な支部。少数精鋭で、一人で大型プラントを倒せる精鋭揃い。あたしは支部中で一番の魔法使いだ。


 それが何を意味するのか、それがどんなに大きなことなのか分かってる。あたし自身、これが天性の職業くらい知ってる。


 歴代の魔法使いであたしの年齢で起用された人は少なかった。せいぜい黒木香奈さんの支部で一人だけ。名前は忘れちゃったけど、もしかしたらもう仕事で会ってるかもしれない。まだ現役だと聞くし。でも、そんな興味よりも堪えるのが、自分がどれだけ化け物なのかってこと。


 一番初めに魔法石に触れたのは皐月ちゃんが珍しい色の魔法石を持って来た時だった。まぁるい石の中に星が川のように流れている石だった。後で“星雲石”って知るんだけど、あたしはそれに魅せられた。その星雲石で皐月ちゃんが魔法を見せるんだけど、その星雲石から流れ出るように美しい魔法が、石が、目を焦がした。あたしもしたかった。やりたかった。軌跡を作り、放物線を描く魔法の際に出る発光色に夢を馳せた。


 それからずっと魔法石にぞっこんだった。寝ても覚めても、魔法の色を忘れることはなかった。自分自身の魔法石の発光色を調べて、紅色と見つけると赤がそれまで以上に好きになった。皐月ちゃんが時折見せるかっこいい魔法を真似て、アレンジを加えた。パトロールで見せる皐月ちゃんのプラント退治姿に思い焦がれた。


 今にして思えば、当時のあたしは皐月ちゃんが大好きだった。とても好きで好きで、将来は皐月ちゃんと結婚したいな、なんてことも頭で思い描いていた。魔法石から皐月ちゃんを好きになるなんて、馬鹿らしいけど、それほど子供だったんだ。


 憧れだった皐月ちゃんが態度をコロッと変えたのはそんな子供のあたしが皐月ちゃんを好きでいた頃だった。


 魔法の種類は四つ。創造、破壊、修復。創造で作った物を、壊すことが出来るのが破壊。同じく作った物を直すことが出来るのが修復。そして、この中のどこにも属さない魔法、それが“特殊”だ。この特殊が、あたしには使える。この特殊魔法は人体に効果を与える魔法のことを示しているって、聞いた。あたしの特殊魔法は肉体強化で、つまりあたしの人体に影響を与える魔法なんだ。普通は使えないし、使ったところで拒絶反応が起きて妖し者になっちゃう。


 で、それだけなら皐月ちゃんにバレても「すげぇな」で収まるんだけど、あたしにはあともう一つ半ば特殊魔法であるものを使える。それが、上で上げた三つの種類の中の“破壊”に分類されるもので、どんな魔法使いにも負けないあたしの武器だった。


 バレた時は一瞬だった。


 いつも通り皐月ちゃんにこんな魔法を使えたよ、と自慢して見せようとして使ったんだ。


 創造したものを投げて、と皐月ちゃんにお願いして、皐月ちゃんに手のひらぐらいの木の板を創造してもらってあたしに向け投げてもらった。あたしは魔法石を握って魔法を使った。次の瞬間板は粉みじんになって、元の空気となった。まるで元からそこになかったようにそよそよと風が笑っていた。


 そう、これがあたしの破壊魔法。創造したもの全て、いや、していなくても認識したもの全て息をするがごとく破壊できる。これが創造したものだけに適応するのなら、他の魔法使いにもちょっと時間はかかるけど出来る。あたしのこの魔法は魔法石を多く使えば創造していなものでも壊せたし、なによりプラントにも効いた。プラントの行動まで破壊できたのだ。


 魔法使いじゃなかったら破壊魔法でさえ苦労する。普通、破壊魔法は時間をかける。あたしのように周囲に認知範囲と言う結界を越したら破壊、と易々出来ない。普通はこんな特殊魔法を顔色一つ変えず使うなんて出来ない。一般的な魔法石なら、石一つで何十回も魔法は使えない。大きな魔法なら、大きな魔法になるだけ石は必要となってくる。


 皐月ちゃんは、その時のあたしの魔法で火が付いたのかそれまで以上にパトロールに誘った。それはもう、魔法使いのバイトみたいに。それからパトロールに一緒になった黒木香奈さんにスカウトされて、小学校の間仕事して、家族からは褒められたりもした。魔法使いはやっぱり世間的には憧れの的である職業だったから、将来は魔法使いのアイドルだな、なんてお父さんには冗談を言われたりもした。


 そんな順風満帆な日々で終わってたら良かった。まだあたし自身、どんな奴なのか知らなかったから。




 中学始め、四月だった。

 それまでプラントばかり退治する任務に就いていたあたしに中学から本格的なプロになるための任務が下りた。それは妖し者討伐の任務。妖し者の名前、どんな人だったのか、どんな家族がいたのか、どんな暴れ方をしたのか覚えていない。


 ただ血と肉と、殺した時に一緒に居た同期の魔法使いが怯えた目をしていたことがはっきりと脳裏に刻まれてる。同期の魔法使いのあの目は今だから何が伝えたかったのか見える。



「化け物」



 この一言に尽きる。


 だって、妖し者殺したのは一瞬だったから。何の躊躇いもなく、そこに命があるなんて考えもしなかった。なんだこんなものかって値踏みして、達成感に酔いしれて、ちょっといい気になって、笑ってたのかもしれない。


 初めての妖し者討伐後、皐月ちゃんが心配してあたしの様子を見に来たけど、あたしは嬉々として「ねぇ、妖し者殺した時ってどんな気持ちだった?」なんて尋ねた。


「お前は?」


 皐月ちゃんの一言、今でも心の奥底に残ってる。


「普通だったよ」あたしはからっからに言い切った。


「……狂ってんなあ」皐月ちゃんの引きつった笑みが目に浮かぶ。


「魔法使いってのはさ、本質的には妖し者と変わらない。それが故意か故意じゃないかってだけの話だ。命を刈り取るのを仕事としている分魔法使いの方が質が悪い。だから、命なんて知らねぇ狂った奴が自然に集まる。世間の奴らは勘違いしてやがるが、俺達魔法使いは英雄でも、ヒーローでも何でもねぇ、人殺しだ。ただの命を軽んじる狂人だ」


 あたしの足元は泥沼に浸かっていた。でも、それは心地よかった。あの達成感や高揚感に手を伸ばしたくなるぐらい、快感だった。辛くもなかったし、むしろもっと歯ごたえがある敵が欲しかったぐらいだった。


「魔法使いには三種類の人種がいる。一方では性に合わないと知りながらも、金を稼ぐために仕事と割り切って他人の命を潰す者。世界やPLANTに苦しむものを救うために、自身の手を躊躇いなく汚す者。そして、命を潰すことを生きがいにする者。絢、お前は、明らかに三番目だ」


 いつのまにかあたしは勘違いしてた。あたしは普通の魔法使いで、普通の心を持っていて、良い子で、優しくて、みんなから愛される性格だって、思っていた。あたしは、あたしと言う存在を、あたしの中の狂気を、認められなかった。



「おめでとう、絢香。お前は魔法使いに向いてるよ」







「―――――――――違う」


 呻くように出た言葉も、うねるように押し寄せる狂気と自己否定も、カオスとなって記憶してる。気持ち悪い、ぐにゃぐにゃした心持ちはそれまで経験したことないものだった。とっくに初恋も薄れていたけど、それでも大好きだった陰田皐月と言う人物が心底嫌悪した。


「違う。あたしは、向いてない」


 あたしは狂ってない。人を殺して歓喜なんてしてない。命だって大事だって思ってる。だから、あたしは魔法使いが嫌いで、嫌いで、仕方なくて、それでも才能はあって、それが悲しくて、悲しくて……


 それから一か月後に魔法使いの支部で商人さんと出会った。それまで、気にも留めなかった人だった。しかし、気になった。それは魔法使いには好まれない(・・・・・)魔法道具に、興味を持ったからだった。商人さんは初め出会った時、あたしのことを知っているようで、それも商人の性質とか職業上そうなんだろうけど、気軽に接して来た。この地域特有である絶滅寸前の方言を話す商人さんに好感を持てたし、沢山の魔法石を見て、この人は尊敬できる職業に就いている人なんだと尊敬すら覚えた。


 あたしとは大違い。


 血にまみれた道を嬉々として行くこんな将来に自分自身迷っていた。


 商人さんはあたしの迷った姿を見ると、頭を優しくなでた。同じ女性としてあたしを慰めてくれた。魔法使いは辛いよねって。女性の魔法使いは少ないから、商人さんもどこか同情するところがあったのかもしれない。慰みついでに魔法道具をいくつか見せた。


 宙に光の文字を書けるペンやスタンプ。開発、研究中の常に光る魔法石。魔法に応用されてる、魔法弾。おかしな味のキャンディーは食べると口から光が発せられて、まだ研究中だから本当は食べちゃいけないんだって秘密を共有した。


 その全ては誰かを生かすためにある道具だった。将来日の目を見るような輝かしい未来があるような道具の数々に、そして全国各地を放浪している商人さんの旅話にあたしの心は染めあげられた。これならば、誰かの命を絶たずに自分の魔法を生かせるかもしれない。ちょっと道は逸れるかもしれないけれど、あたしの気持ちは納得してくれる。


 思ったら、すぐに行動していた。



「あたし、魔法使い辞めます」



 黒木香奈さんは、大きなため息をつき、それでも魔法使いの大事な戦力であるあたしのことを嫌々手放してくれた。きっと気持ちが整理できるまでの間だけ魔法使いの職から離れるのだけだと思ってくれたんだろうと思う。黒木さんは視える目を持ってるけど、それがなくても人の気持ちなんて手に取るように分かってる。特に魔法使いなんて狂った性格の人のは。そんな中のあたしの気持ちなんてすけすけだろう。魔法から、命を奪うことから絶対あたしは離れられないことなんてことも。


 あれから、黒木さんからの誘いは幾度となく会った。その度、何度となくあたしはあの快楽を味わいたい衝動に襲われたが、「魔法使いとは、あたしは違う」と開き直り留まった。


 まだ、迷い続けている。

 快楽と、夢の間で、あたしは何度も行き来する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ