第一話「登下校(丁)」
「むぅちゃんごめん」
藤村が両手を合わせて、矛月に頭を下げた。俺に、は向けられていない。
「絢ちゃん、私は気にしてないから」ね?とふてくされた俺に甘い矛月が俺に掛けてくるから、俺は押し黙るしかない。事実、矛月が一番傷ついているので、矛月がいいと言うならいいのだろう。
「矛月がそういうなら、俺も」祐も便乗する。毎度のことながら矛月中心すぎる。
「嘘だ」と丸く収まろうとしていたのに、遮ってくるのは石田だ。「気にしてる」
「てめぇは黙れ」と俺。
「君は黙ってて」と藤村が同時に注意する。
その光景に冷たい表情が張り付いていた翠の顔がくしゃっと笑顔になった。
翠の笑顔が間近にある。俺はこの笑顔を目に焼き付けながら、笑いながら述べる翠の言葉に耳を傾けた。
「まるで、この六人が集まったのは運命みたいですね」
この笑顔だけで、俺の心は満足だった。
「敬語却下」俺の幸せをよそに藤村が翠に告げる。「同い年なのに、敬語ダメ」
「堅苦しいしな」変なタイミングで石田が同意してくる。
「でしょ」
石田と藤村が頷きあっているのを見ると、この二人意外と相性よさそうにだ。
「矛月が、許すならいいとして、藤村さん、今日は何故あんなに機嫌が悪かったんだ?」
祐の言い分に俺も頷く。
「それは…」と木々の間から見える赤色が浸された空を仰いだ。「皐月ちゃんがお前は何も知らないとか、魔法使いに向いているみたいなことをしつこく言うから」
独り言のように言ってはいるが、全て俺達に聞こえていた。前は親、今回は“皐月ちゃん”?
周りが濃いな。
「皐月ちゃん?」矛月が訝気に尋ねると、翔が「それは魔法使いの…」と言いかけたところで、藤村がああーーーーーーーと叫んだ。
「何で知ってんの、翔」
「俺、知り合い…」
「それ以上喋んな」
その方が賢明だ。
「てか、石田お前」これは、誰も聞こえていない時の俺の独り言だ。呟かずにはいられなかった。「お前一体何者なんだ」
***
駄菓子屋の前に出ると、藤村とは此処で別れることになった。
「また一緒に帰ろうね」
切り出したのは矛月だった。よっぽど一緒に帰れたのが嬉しかったのか、それとも今日のような日を繰り返したいからなのか、矛月にしては思い切った行動だった。
「うん」藤村は身を翻し、恥ずかしそうに答えた。
その光景を横目に、俺は待っている男子陣の方を振り返った。
帰ろうとしたのだが、祐しかそこには見当たらない。石田が居ない。あいつはすぐに見失う。影が薄いのか、よくは分からないが、気づいたら居ないことがある。
ここは森林でPLANTが出る可能性も高い。
「石田は?」
「そう言えば、さっきから姿見てないな」
祐が気楽に答えた。
知らないうちに死んでいました、とか洒落になんねぇからな。
不安になって、駄菓子屋周辺を見回す。と、駄菓子屋の前でじっと俺らの様子を見ていたのをすぐに見つけた。
一先ず安心して、石田に歩み寄る。
「帰らねぇの」
俺が問いかけるも、石田は俺が何を言っているのか分からないように頭を捻る。
「俺、ココに居候?してる」
と、指さしたのは駄菓子屋だった。
駄菓子屋は前までかなり年齢のおばあちゃんの一人暮らしだったはずだ。
けれど、こいつは此処に住んでいると言い放った。
今回は、俺の独り言でもなく、真正面から堂々と告げた。
「お前一体何者だ」
石田は困ったように眉を曲げた。