勃発、稲生の戦い
このような事態になるまでに色々あった。
まず、我ら弾正忠家の主家筋に当たる清洲織田氏の織田大和守家の織田信友が信長の暗殺を画策するも露見し、逆に信長に殺されてしまう。こいつ俺を弾正忠家の跡継ぎに推して来やがった。鬱陶しい。
次いで、信長の正室の実家である美濃国で政変が起こる。国主である斎藤道三が息子である斎藤義龍との戦いで敗死する。この事により信長は大きな後ろ楯を失う。
その他にも三河国との要所を任せていた武将が敵に寝返ったり、信長の教育係が信長を諫めるために腹を切ったりすることがあった。さらに尾張上半国も敵対。
これらを好機と見た俺たち信勝派は信長の所領を押領し、砦を築いて反抗の構えをとった。
えっ、信長の邪魔をしないんじゃなかったんじゃないかって? いやいやこの戦いは信長の力を家臣たちに見せ付けるための重要な戦いだから仕方ない。ただ、失敗すると俺が死ぬ。信長が負けたら歴史が変わる。こればかりは歴史通りに終了することを祈るしかない。
そんなこんなで発生してしまった稲生の戦い。こちらが千七百なのに対して相手は七百。普通ならこちらの勝ちなんだがそこは織田信長、普通じゃない。柴田軍の活躍で信長の本陣まで押し込むが、信長が大喝すると身内同士の争いということもあってか兵が逃げ出したらしい。次いで林軍に攻めかかった信長軍は、信長自らが林通具を討ち取ったのをはじめ多数討ち取られ敗走した。ちなみに俺と秀貞は出陣していない。
で、先ほど敗将である我々は信長に謝ってきた。母親の取りなしによって場を整えて貰ったのだ。まあ、ごめんなさいして終了だ。
この一件により周りの信長を見る目も変わっただろう。自ら先頭に立ち、劣勢を覆したのだ。数の不利を補うには兵の士気をあげるのが常策だ。そして軍の最前線で指揮をするのが最も簡単だ。だが一歩でも間違えれば討ち死にしてしまう危険な賭けだ。しかし信長は勝った。何事も結果が全て、過程が評価されるのは学生だけだ。そしてここは戦国時代、常に実践負ければ終わりだ。ここはゲームの中ではない、一つの誤った判断で文字通り首が飛ぶ。
さて、ここからは上手く立ち回らなくては歴史通りに死んでしまう。だがまあ大丈夫だろう、原因は分かってる。俺一人でどうにでもなる簡単なお仕事だ。