涙の別れ……。
目の前にいたのはパン一の変態。
俺は思考が追い付かず、頭を抱えた。
一体こいつに何があったのだろうか……。
《ほら、メシを持ってきたぞ。食えよ》
変態は手にバケットと瓶を持ち、俺に差し出してきた。
ほのかに漂う匂いに俺の腹がぐうとなった。
変態からそれらを受け取って食べ始める。
バケットの中には固い黒パンとそのまま焼いただけの肉、芋を蒸かして塩を振っただけの物、瓶には何か分からないが甘酸っぱい果実のジュースが入っていた。
正直言ってあまり美味くは無い。
しかし、空腹は最高の調味料という言葉がよくわかった。
食事をある程度腹におさめてジュースを飲みながら情報を整理していく事にした。
「とりあえず、あの後何があった?」
話しに集中するためにパンイチだったかっちんに服を着させて座らせた。
《宴会が思いのほか盛り上がって、ドンチャン騒ぎになった……。なんか知らんが身ぐるみ剥がされた。でも収穫はあったぞ、ここから西に十数キロ先に街があるそうだ。》
ドンチャン騒ぎ……、コイツはどんだけ盗賊に溶け込んでるんだ。
しかし街か……。とりあえずこの世界の情報、常識がほしいな。
盗賊からの話しだけでは情報が偏りすぎる。
「それじゃ日が出始めたらその街に向かうか」
そう言って手に持ったジュースをぐいっと飲み干した。
《了解。じゃ、それまでに俺はもう少し情報集めと……、別れの挨拶でもしてくるかな》
かっちんはそういうと立ち上がり宴会場に戻っていった。
……別れの挨拶って、何だよ。
そしてしばらくして朝日が出て周りが明かりが差し込み始めた頃、かっちんから連絡がきた。
《そろそろ出発するか?》
「ああ、行こうぜ。 そっちも準備できたか?」
《おう、んじゃ最後に挨拶してからそっちに向かうわ》
俺は挨拶してくるという言葉が気になった。
かっちんは盗賊とどんな感じに仲良くなったのか、そんな簡単に出てこれるのか。
「なら通話は繋いだままにしといてくれないか?」
《……? まぁ、かまわんよ》
そう言ってかっちんは盗賊のお頭のもとへ向かっていった。
《親父! ちょっといいか? 話しがあるんだが……》
かっちんは盗賊のお頭を見つけると呼び止めて話しかけた。
ちょっと待て! 親父!? 呼び方変わってるじゃん!?
おいおい、大丈夫なのか……?
「んあ? おぉ、カジどうした?」
「「あ、カジさん。おはようございますッス!」」
えぇ~?何それ……。
お頭は話しかけられて何か嬉しそうだし、お頭の取り巻き二人は揃ってかっちんに挨拶してる。
ホントこの一晩で何があった!?
《親父、実を言うと昨日襲った馬車からさっき書類が見つかったんだ……。そこに俺の探している物の情報が書かれていたんだ。》
「何だと!? それって昨夜お前が言っていた親の形見についてのか?」
ちょっと待て何の話だ?
書類? 親の形見?
初めて聞く言葉に俺は混乱してきた。
「そうか……。手掛かりが見つかったか。じゃあお前は……」
お頭は少し声のトーンが下がり、真面目な声色に変わった。
《ああ、手掛かりが見つかったからには探しに行くよ。ここの皆には……、本当に、っく。よくして貰って、うぅ。感謝してる……よぅ》
かっちんの声も徐々に震えていく。
「「……グスッ……」」
たまらず取り巻きの二人も鼻をすする。
お頭に関しては静かに黙っている。
《……書類を確認したところ、そんなに時間が残って無さそうなんだ。だからもう行かなきゃならない》
かっちんがそう言うとお頭は固く閉ざした口を開き、
「……そうか」
一言だけ呟いた。
そしてお頭は何かをかっちんに差し出した。
「餞別だ、持って行け。それと、忘れるな! 俺達はどんなに離れていても家族だ、何時でもいい困ったら戻って来い。俺達を頼れ! 分かったな! うくっ、行け!必ず親の形見を取り戻して来い!」
お頭は涙をこらえられず、誤魔化そうとしたのか声を荒げてかっちんを送り出した。
《有難う親父、皆にもよろしく伝えておいてくれ。……家族か、ははっ。俺はこんなにも愛されてたんだな。じゃあ行くよ。さよならは言わない。……行って来ます!》
かっちんはそう声を高らかに上げて歩き出した。
後ろから漢達の泣く声が響き渡った……。
「何だったんだ……? あの茶番は」
戻ってきたかっちんに対しての第一声がこれだった。