宴会
《こちらス〇ーク。潜入に成功した》
頭の中にかっちんの声が聞こえてきた。
(スネー〇って言っても今のかっちん猫だけどな……。っていうか何で気付かれないんだ!? 今盗賊達のど真ん中にいるんだろ!?)
そう、いまかっちんは宴会中の盗賊達の中に紛れ込んでいる。
猫の着ぐるみで……。
本来なら目立ちすぎる筈なのだが、一向に騒ぎにならない。
《ふっふっふっ、忘れてはいないかい? 俺は詐欺師だぜ? 人を騙す天職を持っているのだよ》
そうだった……。
こいつ詐欺師だった。
「そういえば詐欺師の能力って何だったんだ? 聞くの忘れていたけど」
そう、隠しステータスの天職に付いている能力について聞いていなかった。
詐欺師って言うくらいだから癖のある能力なんだろうけど……。
《えっと、詐欺師は……、説得力上昇・演技力上昇・偽装能力上昇が付くんだわ。ついでに今俺はギフトで貰った『モブ』の能力使ってるからほぼ気付かれねえよ。ステ〇ス迷彩だな》
うわぁ、だからこいつあんなに自信満々だったのか。
《お? 何か雰囲気が違う奴らがいるな。もしかして幹部か? ちょっと近づいてみるわ》
ここからは分かりやすく詳細を事細かく説明してもらいながら進めて貰う事にした。
「お頭! 上手くいきましたね。あの商人共なかなかの物持っていましたよ」
「ガハハハハ。おう、そうだな宝石、武具類、食い物、酒。女が居なかったのは残念だったがしばらくは保ちそうだな。宴会が終わったら戦利品の配分をするぞ、ネコババする奴がいないように見張っとけ」
お頭と呼ばれた男は周りの奴らに比べて一回りデカく毛皮のコートを羽織っている。
顔には左目から頬にかけて大きな切り傷がついていた。
お頭に話しかけた取り巻きの一人は見張りを言い付けられて、宴会を抜けなければならないことに一瞬不満げな顔をするが、渋々立ち上がりそそくさと出て行った。
かっちんは何事もなく、出て行った取り巻きが座っていた所に腰を下ろした。
右隣にはお頭が!
(おいおいおいおい、近づき過ぎじゃないか!?)
俺の言葉を聞き流して、かっちんは目の前に置いてある酒瓶を手に取ると、
《さすがお頭ですね。ささ、もう一杯》
お頭に話しかけると御酌をし始めた。
(ぎゃあああああああっ、何話しかけてんだ!? さすがにバレるだろ!)
「おう、……お? お前見ない顔だな、誰だ?」
お頭は御酌をされながらかっちんに対してそう言ってきた。
あぁ、バレた……。
俺はそう思うと、眩暈がして両手を地面についた。
《あぁ、自分は先日入りました新入りです。お頭と話しをするのは初めてなので当然ですよ。いやぁ、それにしても憧れているお頭と話しが出来て感動だなぁ》
まさかの返答。
よくもまぁ、そんなにスラスラとでまかせを言えるものだ。
お頭も憧れていると言われて満更でもない顔をして、
「おう、そうかそうか! よし新入り、俺自ら酌をしてやる。呑め!」
そう言いながら笑ってかっちんに木製のコップを渡し、酒を注いだ。
《じゃあ、有り難く頂きます》
まさかのかっちん宴会参加になった……。
あれからどの位たったのだろうか……。
辺りはもう日が沈み、月の光で周りがほのか見えるくらいだった。
気がついたら俺は木の根を枕にして寝ていたらしい。
かっちんはあの後周りの人達にも気に入られて、色々情報を仕入れていた。
どうでもいいことから、なかなか良い情報まで幅広く。
周りの人達も酒に酔っていて饒舌に話していた。
俺はこれなら大丈夫だと思い、魔法の練習がてら自分の周辺に光魔法で結界を張り外から見えないようにして横になっていた。
おそらくそのまま寝てしまったようだ。
いつの間にかかっちんとの通話も切れていて、状況も分からない。
木の蔭から野営の様子を覗いてみると、奥の方がほのかに明るい。
火を焚いているのだろう。
声も先程のように騒がしくは無いが、聞こえる。
大半が酔いつぶれたのか……?
とりあえずかっちんに連絡をとってみるか。
先程はかっちんから着信があったから通話ができたが、こちらから掛けるにはどうやるのだろうか……。
魔法と同じ要領てイメージしてみるか。
(通話、かっちんに対して、発信……)
すると頭の中で、プルルルという音が響いた。
発信するとこうなるのか……、電話かよ。
しばらく鳴らしてみると、カチャという音とともに、
《もしもし亀よ亀さんよ~》
と気の抜けた声が聞こえてきた。
「悪い、途中で寝ちまった。通話も切れてたし、あの後どうなった?」
正直に言って状況を確認した。
《ああ、それなら一度戻って説明するわ。ヒロトは飯食ってないだろ? 何か持って行ってやるよ》
ありがたい。
寝起きとはいえこっちに着てから何も食べてない。
さすがに腹が減っている。
「了解。よろしく頼む」
そう言って通話を切る。
しばらく待っていると、木の反対側から人の気配がした。
かっちんが戻って来たのだろう。
一応別人の可能性があるので、気づかれないようにそっと顔を結界の外に出して確認した。
「!?」
此方に向かって歩いてきたのは確かにかっちんなのだが首から上はさっき通り、しかし首から下が何故かパンツ一枚だけの状態だった。
「何でやねん!」
何故か関西弁で突っ込んでしまった。