異世界へ……。
光が薄まっていき、徐々に視界が晴れていく。
完全に光が無くなった時には目の前に広大な草原が広がっていた。
「さて、確かかっちんは先に来てるはずなんだよな」
そう呟いた時、後ろから何やら気配を感じた。
おそらくかっちんだろうと思い何気なく振り向いた。
振り向いた先には虚ろな目をしたとぼけた顔の、猫の着ぐるみがこちらを観ていた。
「…………」
《にゃー》
「…………」
《……にゃー》
「…………」
《…………》
「…………」
《あ、そう言えば神のじいさ「何もなかったかのように素に戻んなよ!」
やっぱりかっちんだった。
「で? 何でそんな格好してんの?」
俺の目の前に正座している目の虚ろなとぼけた顔の猫の着ぐるみ。
はっきり言って傍目から見たら物凄くシュールな光景だろう。
ここが剣と魔法の世界ということを考えたら、この場だけ何かおかしい。
小説のカテゴリーで言うと確実にコメディに入ってしまうだろう……。
《……この格好見ればわかるだろ?》
着ぐるみを着てるせいか声がくぐもってきこえる。
「わかんねえよ、何で着ぐるみなんだよ……」
《わかれよ! どう見ても可愛い可愛い獣人さんだろうが!? 剣と魔法の世界ではまったく違和感がないだろ!?》
「違和感しかないわ! 何で虚ろな目してんだよ!? 何でとぼけた顔を選んだ!? しかも何で妙に布地がくたびれててヨレヨレなんだよ!?」
突っ込みどころ満載で息を切らせながら声を張り上げた。
毎回思う、コイツは何でこうも俺の想像の斜め上をいくんだろう……。
《まぁ、一番の理由は何か笑いがとれるかなって思って……》
ダメだ。
コイツはもうダメだ……。
二回言ってしまうほどコイツは本当にダメだ……。
「……それ以外の服は?」
《…………………………無い》
「何だよ、その間は!? あるんだろ! 着替えろ!」
《……無い! 無い!!!》
かっちんは頑なに着替える事を拒否する。
コイツは本当に何なんだ……。
結局着替えさせることを諦めた俺はかっちんの正面に座って状況の確認をする事にした。
「とりあえず服の事は置いといて、お互いの天職とギフトを確認しよう」
《お前は見たまんま魔術師ってとこか……。ギフトも魔法関連だろ? 俺の想像通りだな》
「俺はかっちんが何なのか一切わからん。想像すらできないよ……」
腕を組んでデカい頭を傾けている着ぐるみを見て俺はイライラする。
ひっぱたいていいよな?
「鍛冶師か? かっちん前に生産職やりたいって言ってただろ?」
《確かに鍛冶師やりたかったけど、でも生産職って基本的に拠点をもたなきゃダメじゃん。旅するんだからキツいかなって……。》
「なるほどね、じゃあ戦闘職か?」
《いや違う。戦闘はお前に任せるから……》
っ! コイツ!!
本当にひっぱたくぞ!!
「で? 結局は何にした?」
俺はイライラして胡座をかいた膝をトントンとゆびで叩きながら聞いた。
《………………師……》
「あぁ!? 何!?」
《…………詐欺師》
「………………は?」
《詐欺師にした。……いや、だって異世界って何か小説とかじゃ腹の探り合いとか結構あるじゃん!? だからこういう職業とかいいかなって》
「…………」
《…………》
「まぁ、理由はわかった。じゃあ次。ギフトは?俺はご想像の通り魔法関連を3つ、全属性魔法適性・詠唱破棄・複数同時魔法可を貰った。かっちんは?」
俺は溜め息をついて着ぐるみをみた。
やっぱりそのとぼけた顔を見ると腹立たしくなってくる。
《…………》
「…………まさかネタには走ってないよな?」
《…………》
「…………」
《……言霊。……モブ。……変装術。》
……何かよくわからない。
変装術は何となくわかる、詐欺師の職業的にまぁ合ってるかな。
残りの2つはイメージ出来ない。
「言霊とモブって、何?」
《……言霊は瞬間的にだけど相手を操る事ができたり、俺の言葉を信じ込ませたりできる。モブは周囲に溶け込んで違和感を無くす事ができる。》
なにそれこわい!
それって相当鬼畜なギフトじゃないか!?
使い勝手は悪いけどハマる時はとんでもない効果を発揮するぞ!
「……オーケー、わかった。じゃあ次に、今後はどうするかだな」
《まぁ、小説風にいくとすると街を探して情報収集。ギルドがあれば登録して冒険者になるって感じかな……》
「だな、だとするとテンプレ通りこれまでの経歴の言い訳も考えるか。定番は記憶喪失、もしくは辺境の田舎から冒険者を目指してきたってところか……」
そん話しをしてると、
「グルルルルッ……」
近くの茂みから獣の唸り声が聞こえてきた。
「…………」
《…………》
「……なぁ、だいたい予想がつくんだが、これってアレだよな」
《……ああ、アレだな》
「定番中の定番、モンスター登場からの初戦闘っていう流れかな……」
神様からチートを貰ったとしてもこちとら平和な日本から来てんだ、流石に不安は無いとは言えない。
《さっきも言ったが……、戦闘は任せた。よろしく!》
そう言うとかっちんは俊敏な動きで立ち上がると、シュタッと片手を上げて、唸り声が聞こえたところとは反対側に走り出した。
「なっ!? ちょ、まっ……!」
一瞬にして戦線離脱したかっちんに、俺は時間が止まったように固まった。
そんな俺の後ろから、唸り声を上げながら三匹の狼が姿を現した。