神の使徒討伐依頼 その2
距離を取った俺はある魔法を自分自身にかけた。
これでかっちんの言霊に対抗できるはずだ。
かっちんもようやく痛みが引いてきたのかこちらに向き直った。
俺はすかさず周りに空気の弾丸を展開する。
《…………》
そして射出。
《!?》
思ったとおりだ。
魔法は消えずかっちん目掛けて飛んでいった。
着弾し周りに砂埃が立ちこめた。
なぜ魔法が消されずに使用できたのかというと、簡単な事だ。
ただ単純に耳の周りに空気の膜を張って音を遮断しただけ。
かっちんの声が聞こえないようにすればいいだけだ。
流石にかっちんも空気の弾丸をまともにくらえばチートの身体だとしてもある程度のダメージはあるだろう。
砂埃が徐々に薄れていき、様子が窺えるようになってきた。
「!?」
俺は目を見開いて呆然としてしまった。
砂埃が無くなり、そこに倒れていたのはさっきかっちんに眠らされた筈のリグルだった。
何故だ!?
リグルは寝ていて動ける状態じゃない!
まさか、かっちん!
リグルを盾にしやがったのか!!!
俺やかっちんとは違いリグルの身体はチートでは無い。
俺の魔法をまともにくらえばひとたまりも無いんだぞ!
リグルの安否を確認するため急いで駆け寄った。
見た感じでは外傷はそれ程でも無いが、顔色が良くない。
衝撃で内臓がやられているかもしれない。
俺は躊躇う事も無く光魔法の回復魔法をかけた。
光がリグルを包み込んでいき、みるみるうちに顔色が良くなっていき、外傷も完全に治った。
耳にかけた魔法を解き、リグルに声をかけた。
「おい! リグル大丈夫か? 返事をしろ!」
意識が戻るように肩を揺する。
「うぅ、ヒ、ヒロトか?」
意識が戻ったのかリグルは俺の名前を呼んだ。
「ああ、大丈夫か?」
安心して気が抜けた……。
その瞬間。
ドゴッ
俺の腹にリグルの拳がめり込んだ。
あまりの衝撃で膝をついた。
「ああ、サンキュー。完全に治ったよ。さっきはマジで痛かった」
「!? まさか、かっちん……」
リグルは立ち上がって伸びをした。
すると黒い霧が身体を包み込む。
姿を現したのは猫の着ぐるみ。
《戦闘に向かないギフトも使いようによってはこんな事も出来るんだぜ》
そういつものようにおどけて言った。
「うくっ……」
俺は腹へのダメージが思ったより深刻なようで、なかなか立てないでいる。
そして、かっちんかは俺の目の前に立ち聞いてきた。
《で、誰からの依頼だ? まぁ、だいたい予想はつくんだけどな……》
そう言って溜め息をついた。
心当たりがあるって事は今回の依頼の発端に自覚があるって事か。
「くっ、何であんな事したんだ!」
かっちんの考えが解らない。
常識的に考えればやってはいけないことだとわかる事なのに。
《何でって……、依頼だよ。とある組に所属している人からのご指名だ》
とある組?
明らかにヤバい組織が関わっているのか!
まてよ、そもそもそんなところからの依頼をギルドが受理するのか?
まさかギルドもグルか?
「だったら、かっちんを倒した後その依頼主に会いに行かなきゃな……」
そう言って震える膝を押さえつけて立ち上がる。
まだダメージは抜けきっていないが、かっちんをこのままほうっておくわけにもいかない。
《おいおい、無理すんなって。俺は本気でヒロトを倒したい訳じゃない。諦めてくれればそれでいいんだって。確かにお前の受けた依頼の事を考えると俺の依頼主の所に行くのは当然だと思うけど……》
コイツ! 自覚があるにも関わらずまだ依頼主の味方をするのか!!
だったら仕方がない、これだけは使いたくなかったが……。
俺は膝をつき地面に手をおいた。
その様子を見て、かっちんはまだ俺がダメージが抜けきれず崩れ落ちたと思ったようだ。
《ほら、まだ無理だって。結構キツい一発が入ったもんっ!?》
その瞬間俺の前からかっちんが消えた。
目の前にあるのは直径2メートル程の穴。
異世界物の小説テンプレ魔法、『落とし穴』
まさか本当に使うとは思わなかった。
かっちんが登ってくる間に、自分に回復魔法をかけておく。
本調子では無いがある程度は回復した。
そしてしばらくしてから、穴の縁にかっちんの手が見えた。
《ビックリした! 小説とかでよくあるけどまさか自分が引っ掛かるなんっ!?》
登りきろうとした瞬間にまた落とす。
ついでに穴に薄く土の蓋をする。
そしてまたしばらく待つ。
土の蓋がモコモコと動き始めた。
そしてボコッと腕がはえてきた。
ぐいっ!
俺は自らの手で、はえてきた手を地面に押し戻した。
何やら《ぬあ~~!?》という声が聞こえ、徐々に小さくなっていった。
そして穴の直径と同じ大きさの水球を作り出し穴の上に停滞させる。
しばらくしてまた蓋から手が出た時、停滞させていた水球を落とす。
ガボンッドチャという音が聞こえた。
この際かっちんの声は一切聞こえなかった。
こうして俺はかっちんの心が折れるまでそのような行為を何度も繰り返した。
最終的には蓋の真下からすすり泣く声と、《ごめんなさい、もう腕が限界です、息が苦しいです、底の泥水が着ぐるみに染み込んで重いです、べとべとで気持ち悪いです、許してください》という言葉。
俺は抵抗しない事を条件に引き上げてやった。
かっちんは正座をしながらグスグスとさめざめ泣いている。
さて、どういう事か説明してもらわないとな……。