神の使徒討伐依頼 その1
「まさか、こんな事になるなんてな……」
今俺達は何もない平原で対峙している。
俺の後ろにはリグルとバートンが控えている。
《ああ、ホントにな。退いては……くれないのか?》
かっちんは少し寂しそうに問いかけてくる。
「依頼だからな……」
俺もそう言って返す。
手に持つ依頼書をポケットに無造作に押し込んだ。
《そっか》
そう一言、何か覚悟を決めたような声でかっちんは呟いた。
《だったら邪魔者無しで一対一で戦おう……そこの二人、『眠れ』》
その瞬間俺の後ろにいたリグルとバートンはドサッと崩れ落ちた。
「!? かっちん、何をした!?」
俺は二人を確認した。
息はしている、ただ眠っているようだ。
だけど、かっちんが二人に何をしたのか解らなかった。
かっちんは魔法が使えない。
以前かっちんは言っていた《俺さ、運悪く魔法属性が付かなかったんだよな……》と。
嘘だったのか?
いや、あの時はこんな事になるなんて思ってもいなかったし、俺に嘘をつくメリットも無い。
《今から戦う相手に情報を与えるかよ……》
そう言うと同時にかっちんは駆け出した。
どんな戦い方をするか見当もつかないが、やるしかない。
とりあえず正攻法で様子を見る!
俺は周りに空気の弾丸を準備。
リグルとバートンは今眠っているから詠唱する必要もない。
かっちんが射程距離に入った瞬間、撃つ……
《『消せ!』》
弾丸を撃とうとしたその時、かっちんの声が聞こえた。
「な!?」
その瞬間、準備していた弾丸全てが消滅した。
魔法がかき消された事に一瞬驚いた所為で目の前にまできたかっちんへの対応が遅くなってしまった。
新たに魔法を使う暇もなくかっちんの肩からのタックルを胸にくらって吹っ飛んだ。
「ぐあっ!」
この世界に来てから初めてまともなダメージを受けた。
そうだ、俺と同じようにかっちんもチートを持っているんだ!
今更ながら俺は気付いた。
神様からチートを貰って、無意識のうちに己の力に驕っていたということに……。
地面に叩きつけられたが、瞬時に体制を整える。
お互いチートを持っているから身体能力は五分五分、となると魔法が使える俺にアドバンテージがある。
しかし、先程の魔法をかき消した能力が解らない。
魔法が使えないとなると、ギフトか?
そんなことを考えながらかっちんを見据えるとゆっくりと此方に歩いてくる。
《ヒロト、魔法が使えるからと言って有利だと思うなよ。実は俺も魔法が使えるようになったんだよ。》
かっちんの言葉に耳を疑った。
魔法属性がないかっちんが魔法?
属性が無ければ魔法は使えないのはこの世界の覆せない事実だ。
《行くぞ!》
掛け声とともに駆け出すかっちん。
《くらえ、魔法パンチ!》
そう言ってかっちんは拳を突き出す……ってただのパンチじゃん!?
俺は向かってくる拳を寸でのところで避け……。
《『当たれ!』》
避けようとした瞬間身体が引っ張られる感覚がした。
すると俺は何故かかっちんの拳に向かって身体を動かした。
ドゴッ!
俺の左頬に衝撃が走った。
「うぐっ!?」
訳が分からない。
避けたはずの拳が当たった。
どういう事だ?
これがかっちんが言っていた魔法か?
だけど、原理が全く理解出来ない。
《魔法パンチ!》
再度かっちんは拳を振り上げた。
《『当たれ!』》
そしてまた引っ張られる感覚。
先程と同じ様に向かってくる拳に身体が動く。
「くっ!」
とっさに腕を顔の前で交差させて顔面への直撃を免れた。
一旦距離を取るために後ろに飛び退こうとするが、
《『止まれ!』》
足が動かない!?
《魔法パンチ! 『当たれ!』》
ドカッ
《魔法パンチ! 『当たれ!』》
ガスッ
何とか拳の一発一発を腕でガードする。
《魔法パンチ! 『当たげ!』 ぐえぇ!》
は? 噛んだ!?
その時今まであった引っ張られる感覚がなく、容易に避けることが出来た。
見るとかっちんは口元を押さえてうずくまっている。
おそらく相当強く舌を噛んだらしい。
もしかしてかっちんは言葉を発しなければあの技を使えないんじゃないか?
その時俺は思った。
言葉……確かかっちんの貰ったギフトにそんなような能力があったような……。
『モブ』『変装術』後は……。
…………!!
『言霊』だ!
そうだ、確か効果は相手を信じさせる事が出来るのと、『一瞬相手を操る事が出来る』能力だ!
確か最初に魔法が消えたときにかっちんはなんて言った?
『消えろ』では無く『消せ』と言った。
あれは術者に向かって言ったんだ。
かっちんが魔法を打ち消したんじゃなくて、俺が操られて自分で消したんだ。
パンチの時も『当たれ』だから俺自身が当たりに行っていたんだ。
なるほど、そうだったのか。
ネタが解ったら対処のしようがある。
俺は考えを纏めると、今だに悶えているかっちんから距離をとる。
さて、俺の考えが正しければ……。
体勢を整えて改めて構えた。