新たなる出会い
「な、なあ君。ちょっといいかな?」
後ろから声を掛けられて振り向くとそこには長身の青男が立っていた。
フルプレートの鎧を身に着け、自身の背丈より1.5倍程の槍を背負っている。
キリッとした眉、少し目は細いが意思の強そうな瞳、頬には顔を守るように鱗。
そして頭には立派な角。
しかし、かもし出す空気は穏やかな好青年を印象付ける。
「はじめまして、僕の名前はトリー・スゥ・ロキと言います。少し時間を貰っても良いかな?」
青年は申し訳無さそうにそう言い、俺の返答を待つ。
彼が話しかけた事で周りから、
「おい! あの人龍槍のロキじゃないか!?」
「マジかよ。さっきの魔法見て早速勧誘か」
「Bランクのランカーだぞ! くそ、あんな高レベルの人が勧誘したら俺等誘えなくなるじゃねぇか」
そんな声がチラホラ聞こえてきた。
Bランクがどれ程の強さか分からないが、まわりの奴等の反応を見る限りこの青年は相当な実力があるみたいだ。
俺はフウと一息つき考えた。
彼と話しをすれば他の奴等は関わってこないかな?
話しをするだけならいいか……。
ともかくまずは受付けをしてからにしてもらおう。
「話しをするくらいなら別に良いよ。でもその前に受付けだけさせてくれないか?」
そう言うと、ロキという青年はにっこりと笑い、
「よかった。分かりました、待っていますので終わったら教えて下さい」
そう言い、角のテーブルに歩いていった。
邪魔する者がいなくなったので、改めて受付に向かう。
周りも俺がロキに話し掛けられたことに多少落胆したようで、もう絡んでは来なかった。
受付につくと何やら緊張したような顔の女性が迎えた。
「すいません、いいですか?」
そう声をかけると、受付の女性はビクッと身体を跳ねさせて、
「あ、はい! ご用件は何でしょう!?」
と、声をうわずらせながら聞いてきた。
「登録、お願いしたいんですけど……」
俺がそう言うと、受付さんは一瞬呆けた顔をした。
「……え?」
「「「「「「え?」」」」」」
「………………え?」
上から受付さん、周りの冒険者達、俺の順で疑問の声が上がる。
あれ? 俺何かおかしい事言ったか?
「おい! あんなに実力があるのにまだ未登録らしいぜ!」
「マジかよ、あんなのが新人だと先輩として心が折れるぜ」
「いや、ああいう奴はすぐに上のランクに行っちまうから気にしないのが正解だぜ……」
俺はそんな言葉を聞こえない振りをして続ける。
「どうしました?」
「い、いえ。何でもありません。で、では此方の書類にご記入ください」
そう言うと受付さんは机から一枚の紙を出した。
紙を受け取ると目を通す。
紙には見たことのない文字が並んでいる。
しかし見たことがないにも関わらず、理解が出来た。
きっと異世界物の小説お馴染みの言語理解が神様のサービスでついているんだろう。
そういえば、異世界にもかかわらず言葉が通じるしな。
項目に自身の情報を書き込んでいく。
名前、年齢、属性、技能など。
名前は偽装する必要も無いし「ヒロト・サイトウ」っと。
年齢は25歳。
属性はさっきも使ったし風と……、この世界では二属性持っていてもおかしくなかったよな。
風と水と記入する。
技能はもちろん魔法、ついでに詠唱短縮と追記しておく。
一通り書いたら受付の女性に渡す。
「はい。確認させてもらいま……。え? 二属性持ち!?」
受付さんがとっさに言葉を漏らした。
彼女は周りに聞かれないようにすぐに口を覆ったが、時は既に遅し。
彼女の配慮も空しく、聞き耳を立てていた周りの冒険者達はざわついていた。
「おい! 二属性持ちだってよ!」
「マジかよ、ギフト持ちの上に二属性持ちってどんだけだよ」
「クソ! マジで有望株じゃねぇか。ロキが勧誘しなければ俺等が誘ってたのによ」
「いや、ロキだからこそ誘っても引き下がれるんだ。他の奴が勧誘したら確実に周りに妨害されるぜ……」
そんな声が周りから聞こえてくる。
……二属性持ちってそんなに希少なのか。
目立ちたくなかったのに二属性って書かなきゃよかったのか?
「す、すいません! 情報を漏らしてしまって……」
受付さんは申し訳なさそうに頭を下げて謝罪する。
「え? ああ、別にいいですよ。遅かれ早かれ知られるはずでしたし」
その言葉に受付さんはホッとして、書類の確認を続けた。
「え? 25歳!?」
受付さんが驚く。
……いや歳は別にいいだろ。
「おい! 25歳だってよ!」
「マジかよ、25歳かよ」
「いや、25「それはもういいわ!!!」」
思わずさけんでしまった。
そんなこんなありながらも何とか登録を終えてテンプレである身分証代わりのギルドカードを貰ってロキの所へ向かった。
ロキのいるテーブルには他に二人座っている。
たぶんロキの仲間だろう。
「おまたせ。話しを聞くよ」
「いえ、此方こそわざわざすいません。あ、紹介します。この二人は僕とパーティを組んでいる仲間です」
ロキの向かって右に座っている男が立ちあがる。
体格が良く、毛深い。
鉄製の胸当てに大きなガントレットという装備。
異常に腕が太い、見た感じ腕が筋肉の塊なのだろう。
「俺はホタ・ホット。熊人族だよ。格闘家でこのパーティの接近戦の担当兼壁役。よろしくな」
そう言ってニカッと笑った。
ロキとは違うベクトルだけど人の良さそうな笑顔だ。愛嬌がある。
次に左隣の青年が立つ。
二人に比べて少し若くスリムだが、皮製の軽装ということは後衛職かな。
ロキと同じく頬に鱗。
ロキほど大きくは無いがそれでも立派な角が生えている。
「僕はトリー・スゥ・シユン。ロキ兄さんの弟で、弓術士です。よろしくお願いします」
「あともう一人居るんですが、今は居なくて。もうそろそろ来るはずなんですが……」
ロキが申し訳無さそうに言う。
「いえ、大丈夫です。それと実は俺も相方が居るんだけど、今ちょっと野暮用でまだ来てないんですよ」
「あ、そうなんですか。」
と、ロキは少し残念そうな顔をした。
すると俺の後ろから、
「おまたせにゃ、遅くなってゴメンにゃ。 にゃ? 誰か知らない人が居るにゃ」
そんな声が聞こえてきた。