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第5話 サイクロプス討伐

実はサイクロプスはお気に入り


 シャムさんと知り合って数日。その日、マーロットさんは依頼を持って来た。依頼内容は中級魔物、9mはある巨大な単眼。人型の魔物。サイクロプスの討伐。依頼主は湖畔の旅館の主人。どうも、サイクロプスに旅館が荒らされたらしい、しかも、そのサイクロプスは旅館近くに寝床を構えているらしい。


 別に、受けるつもり無かったのだけれど、マーロットさんは勝手に受注。仕方なく向かう事になった。


 取り敢えず、私とカノンは荷支度を済ませ、首都を出て湖畔の旅館を目指す。

 現在は首都から出てすぐの街道。向こうに見える山を越えれば湖畔に着く。




「ねぇ、向かう旅館ってどういう所なのかな?」

「あ、アキハさんは知りませんよね。あの旅館はローゼンバーグの休日旅ガイドランキングで一位を取った老舗なんです」


 結構凄いんだ。


「料理は美味しく、宿泊料も格安。各部屋には露天風呂完備、景色は最高で、満天の星空が部屋から見えるんです」


 何だろう。凄く行きたい。お風呂? 露天風呂? 

 思い返せば首都ではシャワー。んなもんじゃない。お風呂。露天風呂。


「ねぇ、仕事終わったら寄ってみない? その旅館」

「あ、良いですね! 私も露天風呂に入りたいですし、美味しい料理に舌鼓を打ちたいですし・・・」


 理解ある相棒で助かった。さぁ、俄然やる気が出て来たぞ。やってやる。と思っていると道は山に入った。ここからは一旦登り。


 案外傾斜がキツイ。嫌になるなぁ・・・でも終わればお風呂。と考えれば


「アキハさん!」


 完全に油断しきった私に掛ったカノンの大声は私をハッとさせた。進行方向から巨大な岩が転がってきている。私とカノンは直ぐに脇にそれ、先を見る。


「サイクロプス!」


 カノンの言った通り、単眼の巨人。ザクじゃないよ。サイクロプスだよ。手にはトゲトゲしい棍棒を持っている。あれで殴られたら酷い事になるだろうなぁ。


「アキハさん、サイクロプスを片付けましょう。依頼では一体だった筈です!」


 私は依頼内容を思い出した。確かに一体だった。なれば、中級程度なら魔法で足止めをし、カノンと一緒に叩けば終わる!


「カノン! 氷結魔法フリージングでサイクロプスの脚を―――!」


 言い終える前に、私は後ろから近づく足音に気付いた。森の中をサイクロプスが走ってきている。

 面倒臭い。

 でも、分れるのはマズイ。先に上の奴を仕留めよう。


「アキハさん! 上の奴を先に!」


 私は頷き、剣を抜き魔法を発動させる。氷結魔法をサイクロプスの脚へ。


 思惑通り、上のサイクロプスは膝までを凍らされこける。それの頭部にカノンが飛び掛かり、頭を切り裂く。

 倒した。次、と私が振り返るとサイクロプスは目の前まで来ており、棍棒が振るわれた。しかし、私は風魔法エアリアルで跳躍し回避。反射神経良くなったなぁ。

 何て、思ってる場合じゃない。今、真下にはサイクロプスにツルツルそうな頭。


 弱点だ。

 

 炎魔法ファイアを発動させ、刀身に熱を帯びさせ、身体を回転させながらその勢いで脳天を切り裂くと、熱で焼ける音と臭い。次の瞬間にはサイクロプスは倒れ込み、私は安堵し、着地。


「アキハさん・・・サイクロプスの数が」

「うん。依頼内容と違うね」


 前にサイクロプスの事を聞いた。基本は近くに同族が居る場合はそこから離れる。つまり、サイクロプスが複数体居る事はあり得ない。

 私が足止めし、カノンが倒したのは大人しかった。でも、私が倒したサイクロプスは何と言うか・・・荒々しかった。


「まずは旅館に向かおう。そこから、依頼主に詳しく聞こう」

「はい」


 そして、私たちは山を登り終え、下りに差し掛かり、旅館を目視。中々いい場所みたいだ。ランキング一位は伊達じゃないみたいだ。





 下り終えるとすぐ旅館に着いた。とりあえず中に案内され、主人に話を聞く事になった。


「どうも、遠路遥々此方の依頼を聞いていただきありがとうございます」


 白髪の厳つい爺さん。が主人の印象だが喋り方は優しい。


「いえ、仕事ですので」

「それよりも、サイクロプスの事でお聞きしたい事が」


 すぐに複数居たサイクロプスの事を聞く事にした。


「サイクロプスが2体? そんな馬鹿な。私の知る限りでは1体な筈です」

 

 本当に主人は驚いているようだ。しかし、私たちは現に2体に遭遇している。


「では、主人は知らなかったんですね?」

「ええ・・・では依頼料は上げさせて頂きます」

「い、いえ。そういうつもりで言ったんじゃ」


 主人のそれに驚きながら慌てて否定する。


「しかし、私の依頼とは違った内容に」

「いえ、サイクロプスは討伐します。依頼料も上げなくていいです」


 私が言うと主人は「ありがとうございます」と頭を下げるのでカノンが「頭を上げて下さい」と身振り手振り。

 取りあえずはサイクロプスの寝床になっている場所へ向かおう。



 


 旅館を出て、サイクロプスの寝床になっている旅館と対岸になっている場所へ向かった。深い森林。高い樹木が並んでおり、日差しがあまり届かず結構暗い。

 しかし、ランプを使うような暗さではない。まだ前が見える。


「・・・カノン。こないだのシャムさんの店に行った時の会話覚えてる?」

「シャムさん?」


 ああ、そういえばカノンは酔っぱらって記憶が飛んでたんだった。


「ほら、ご飯食べた・・・カノンはお酒を飲んだお店」

「あ、思い出しました」

「えっとね。そこのマスターのシャムさんが言ってたの、最近軍の調査で色んな種類の魔物の中に気性が荒くて、攻撃性の高い奴が居るらしいの」

「それって・・・さっきアキハさんが片付けたサイクロプスですか?」


 理解が早いようで私は頷いた。ちなみにそれは別れ際にシャムさんが言って来た。

 

「それでね、今の段階では魔物をそうさせる何かがあるんじゃないかってのが軍の調査後の見解だって」

「つまり、この依頼を達成するにはそれを見つけなければならない。と?」

「多分ね」

「厄介ですね」


 カノンに同意見で、私は剣を抜いた。何が起こるか分からないからだ。カノンも袖からブレードを出した。

 さっきの様なサイクロプスが居るかもしれない。


 と、思った矢先、ドスンドスンと足音が聞こえ、そこを見るとサイクロプスが走ってきている。

 ここでは炎魔法が使えない。

 さっきと同じ、氷結魔法で足止め。


 剣の切っ先をサイクロプスに向け、サイクロプスの脚を凍らせ、こかせ、カノンがさっきの様に頭を一閃。こうなれば流れ作業だ。

 しかし、間髪入れずにもう一体。すぐに別方向からもう一体。計二体。


「アキハさん!」

「分かってる!」


 作業は変わらない、まずは狙いを一体に絞り、脚を凍らせる。そして私は別のサイクロプス目がけて氷魔法。空気中の水分を凍らせ、小さな槍に変え、風魔法でそれを飛ばし、サイクロプスへ攻撃。

 小さな氷はサイクロプスの上半身に突き刺さり、倒れる。


 これ、効かないって思ったから使わなかったんだけど・・・効くんだ


 そして振り返り、カノンを見ると終わったようで、サイクロプスの倒れる音だけが聞こえた。


「さ、奥へ向かおう」

「はい・・・流石に驚きました」

「うん。私も」


 しかし、まずは寝床へ行かなければ。




 そこから3回、計4体のサイクロプスの襲撃にあったが、寝床へ着いた。そこにあったのは紫色の瘴気を纏った魔術回路だ。

 回路には傷が入り、そこから瘴気が漏れている様だ。


「カノン、これが原因とか――」

「ダメです!」


 私がそれを触ろうとするとカノンに手を叩かれた。


「ど、どうしたの・・?」

「すいません・・・ですがこれ」


 カノンはそれを知っている様だ。


「闇魔法です。それも高位な闇魔法・・・どういう力があるか分かりませんが、下手に触ると危険でしたので」


 ああ、そういう事ね。納得。


「ですが、そう言った理由があったにせよアキハさんの手を叩いた事は許されません・・・どうぞ仕置きを」


 ・・・あれ? そういう状況なの? じゃない!


「じゃなくて、カノン。一度旅館に戻って通信機を借りよう。王室軍に連絡しないと」

「・・・仕置き」

「ほら・・もう」


 

 


 私たちは一度旅館へ戻った。そこで主人に断って通信機を借り、イェーガーへ連絡。魔物狂暴化の原因かもしれない回路を発見。とだけ言うとマーロットさんが手を回してくれ、戦車を引きつれた王室陸軍所属の銀翼の騎士団が到着。


 私たちは案内する事になり、そこまで案内した。そして、騎士団内の闇魔法に対し、対抗できる光魔法を行使できる人間が回路から闇魔法を取っ払った。

 聞くと、どうやらその魔法が狂暴化の原因で間違いないとの事。


 私とカノンは軍の調査に貢献したとして、恩賞が受け取れるらしい。そして、周辺のサイクロプスは全て倒したらしい。私たち2人が。

 そのままの脚で旅館に向かい、報告をすると主人はかなり喜んだ。


「ありがとうございます。宜しければ報酬とは別にこれを」

 

 そう言って主人が渡して来たのは旅館のタダ券だ。それも、期限の無いフリーパスの様な物で持っていればいつでも使用できるようだ。

 私たちは早速それを使った。


 

 まずは露天風呂。湖畔に面している。ここは大浴場なので風呂、というよりは温泉に近い。そして立札があり『遊泳禁止』と書いてあるのだが、カノンは泳いでいる。

 あの子には遊泳禁止の文字は見えないのだろうか。

 ちなみに私は普通に湯船に浸かり、頭にタオルを乗せている。 


「アキハさん」

「ん?」

「何でマーロットさんは私たちにこの依頼をさせたんでしょうね?」

「ん~・・・露天風呂に浸かってこいって事だったとか?」

「え~。真面目に言って下さいよ~」


 まぁ、実際そうだ。何でマーロットさんは私とカノンにこの依頼をさせたんだろうか。理由が思いつかない。まさか、あの魔術回路と闇魔法は何か関係が?


「考えるの面倒になった」

「私もです~」


 そう言いながらカノンは止まり、顔半分を湯船から出し、私に近づいている。


「アキハさん。ここはお約束ですよ?」


 ごめん。お約束って何?


「分かってるクセに~」


 と言いながらカノンは私に抱き着き、突然私の胸を揉みしだく。何か、変な声が出そうになったのでカノンにもやり返し、十分ほどだろうか。おっぱいの揉み合いが続いた。





「あら? のぼせちゃった?」


 主人の奥さんであろうお婆さんが風呂から上がった私とカノンに言ってきた。返事をする元気も無くただ頷くと、飲み物の入った瓶を渡して来た。何か、白い奴。

 お酒じゃないよね?


「飲んどきなさい。一旦冷やさないとね」


 取りあえず渡された以上飲むしかないので飲んでみると、その味には覚えがあった。


「美味しい」

「でしょう?」


 それは牛乳で、キンキンに冷えているのでかなり美味しかった。


「もう一杯!」

 

 一気に飲み干したであろうカノンが叫ぶと「ふふ。そんなに飲んだらお腹壊すから駄目」お婆さんに言われ「むぅ」と唸っていた。


「さて、お二人とも。料理は出来てますよ。冷めない内に食べなさって」


 楽しみの2つ目。どんな料理がでるのだろうか。



 案内された食事が出来る部屋に行くと、凄く懐かしい料理があった。


「湖で捕れた魚の刺身です」


 お婆さんに言われ、私とカノンは椅子に座る。すると、醤油が出され、他の料理も来る。


「さぁ、食べて下さいな」


 その言葉に私とカノンは互いを見合い、すぐに視線を料理に向けお箸を持つと大きな声で言った。



「いただきます!」






「・・・帰りが遅かったね」


 私たちがイェーガーに戻った時は既に夜。マーロットさんがギルド前であしをダンダン言わせている。


「いやぁねぇ?」

「美味しかったですよね?」


 私たちのそれにマーロットさんはさらに怒りのボルテージを上げた。


「あたしも行きたかったんですけどぉ!!」


 んなメチャクチャな。と思っているとギルドの入り口の扉が開き、短い髪のお姉さんが顔を出した。ああ、受付のお姉さんだよ。


「アキハ、カノン。この占い師はあんた達が帰ってきたら、一緒に旅館に泊まりに行こうって息巻いてたんだから」

「ちょっとぉ! 嘘言うな!」

「早く帰ってこないかな~って退屈そうにしてたクセに?」

「言うなー!」


 とマーロットさんが騒ぐとギルドの入り口は閉まった。それを確認し、私は聞いた。


「マーロットさん。私たちにあの依頼を受けさせたのは? 何か、あの狂暴化について確証があったからですか?」

「それとも、アキハさんの世界に関する事とか?」


 私とカノンのそれにマーロットは首を横に振った。


「本当に偶然だったよ。あたしは、そんな狂暴化に関しては原因なんて考えつかなかったし。あの依頼はね。最後の片付け、というかシメみたいな奴でね。そういった理由から受けさせたわけ」」


 シメ?


「という事はアキハさんと私は」

「そ、一応所属はイェーガーのままだけどね。一か月過ぎても良く頑張ったよ。もう旅位は十分にできるだろうし。資金も溜まってんでしょ?」


 まぁ、溜まってますな。・・・じゃあ、もう旅をして良いの?


「目的を果たす為に頑張んなさいね」


 その言葉に私とカノンは顔を見合わせ頷き、大きく返事をした。


「はい!」


 大きかったから結構近所迷惑だったかも。


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