それは私の仕事じゃありません!
「ローザ様、聞いてくださいませ」
真剣な表情の女性が私の前に座っています。
ここは、お城の中のとある部屋。
普段は人の気配はなく、ほぼ忘れられた場所でした。
……ええ、ほんの数ヶ月前までは。
◇
筋肉質の俺様マッチョに、強引に引き寄せられたい……。
いえ、内気な紳士が、躊躇いながら手を伸ばすシチュエーションも、捨てがたい……。
『ローザ、君は僕だけの物だよ』
「ローザ様、ちょっとよろしいでしょうか?」
午後のティータイムのことです。
いつものように、ダージリンを飲みながら妄想にふけっていると、ふいに話しかけられました。
「あら。ミリー、どうしたの?」
私は、素早く妄想を振り払いました。
メイドのミリーは、キョロキョロと周りを確認すると、私のすぐそばに来ました。
「実は、相談がありまして……」
「なにかしら?私でよければ聞くけれど」
脳内で妄想していた後ろめたさで、精一杯微笑みながら答えると、ミリーは、ほっとしたように言いました。
「紅茶を仕入れるお店に、ちょっと気になる人がいるんです」
「ローザ様は、恋愛の達人だと聞きました。親しくなるのに、よい方法はありませんか?」
恋愛の達人??
誰がそんなことを言ったのでしょう。
私は、いわゆる深窓の令嬢です。
恋愛はおろか、男性とまともに話したこともあまりないのです。
はっ!
もしかして、恋愛の妄想話をメイドたちにしたのがいけなかったのかしら?
きっとミリーは、そこにいたメイドから話を聞いたに違いありません。
「そ、そうね……。親しくなるには、挨拶が基本よね」
頼られると、何とかしてあげたい。
そんな性分の私は、どうにか知恵を絞り出しました。
「挨拶ですか?」
ミリーが、首をかしげました。
「そうよ。気持ちの良い挨拶ができる人は、好印象なのよ」
「それから、意外性よね。あなたは、いつも一つでまとめた髪型をしているけれど、おろした髪型も似合うと思うわ。髪をおろして薄化粧をしてごらんなさい」
「それから、眼鏡。眼鏡を、お店に入ったらさりげなく外すのよ。そうね、『目が痛いわ』みたいな感じで。いつもと違うあなたにドキッとするに違いないわ」
そう。それが妄想の定番よね。
日頃の妄想を心置きなく話せることに楽しさを感じてしまい、慌てて自分にストップをかけました。
こ、こんな感じで大丈夫かしら?
ちらっとミリーを見ると、パッと晴れやかな顔になりました。
「ローザ様、ありがとうございます!私、頑張りますっ!」
ミリーは、元気よく帰っていきました。
良かったです。たぶん、アドバイスとして受け取ってもらえたようです。
私は、ダージリンをおかわりして、また妄想に戻るのでした。
◇
「ローザ様、ありがとうございました!」
数日後。
アールグレイを飲みながら、長髪のイケメンと夢の逃避行していた私は、ビクッとしました。
「えっと……、すみません、どなたでしょうか?」
私の前には、美女が立っていました。
申し訳ないけれど、見覚えがありません。
「ローザ様ったら。ミリーですよ!」
ええっ!!
これは驚きました。
前に会ったときとは別人です。
「ローザ様のアドバイス通りにしたら、紅茶のお店の人と、トントン拍子に上手くいきまして。」
「私、今、幸せいっぱいです!ローザ様、本当にありがとうございました!」
ミリーは深々とお辞儀をしました。
「え、ええ。良かったわね。あんなアドバイスで良かったら、いつでもするわよ」
「本当ですか!?」
ミリーが目をキラキラと輝かせました。
「実は、友達の相談に乗ってもらいたくて。」
「ローザ様の話をしたら、私もお願いしたいって言われたんです。今度、連れてきますね!」
そんなつもりじゃなかったのよ?
でも、今さら断ることもできなくて
「いつでもいらっしゃい」
なんて言ってしまいました。
なんで墓穴を掘っているのよ!?
◇
しばらくすると、ミリーの友達がやってきました。
「はじめまして、ローザ恋愛マスター様。アリアです」
飲んでいた紅茶を吹き出しそうになりました。
な、なんですか、その呼び方は!?
「あ、アリア、よろしくね。で、相談は何かしら?」
令嬢は、細かいことは気にしてはいけません。あくまでも穏やかに聞いてみます。
「はい。幼ななじみが好きなのですが、相手は私を恋愛対象として見てくれないんです」
ああ、これは定番中の定番ね。
「そうね、まずは、他の男と親しい素振りをして、嫉妬させるのよ」
「ちょっと、手の届かない感を出していくのよ。そうしたら追いかけてくれるわ」
「それから、大人の女性を演出していくの。私は子供の頃と違うのよってね」
「あとは、そうね……、あなたは色白だから、ハッキリした色の服のほうが似合うと思うわ」
また、つらつらと話してしまいました。
「ありがとうございます、恋愛マスター様!やってみます!」
だから、恋愛マスターではないって。
こんなのでよかったのかしら?
私は、冷や汗をそっと拭いました。
「きっと大丈夫よ。頑張ってね」
◇
午後の紅茶の時間です。
外のテーブルで、思う存分妄想にふけろうと、扉を開けました。
すると、そこにはたくさんの人が集まっています。
「あら、今日は何かあったのかしら?」
これでは静かに妄想に浸れません。
残念に思いながら引き返そうとすると、皆が一斉に視線を向けました。
「恋愛マスター様がいらっしゃった!」
「私もお願いいたします!」
ちょ、ちょっと待ってください。
私は恋愛マスターではないし、こんなに沢山の人の相談には乗れません。
そこに、ミリーと、美しく変身したアリアがやってきました。
「ローザ恋愛マスター様。あなたのおかげで、私たちは幸せになりました。」
「どうぞ、これからも私たちをお導きください!」
これは困りました。
頼まれると嫌とは言えない私です。
皆さんから期待されているなら、なおさらです。
とはいえ、一度に答えることはできませんね……。
私は、ふと空き部屋の存在を思い出しました。
突発的に妄想に浸りたくなった時に、コッソリ使っていたあの部屋です。
あそこなら、相談に乗るにはもってこいです。
「わかりました。では、予約制にしますので、時間になったら空き部屋に来てくださいね」
皆さんに伝えてから気づきました。
私は、これからはどこで妄想をしたらいいのでしょうか?
私は、心の中で大声で叫びました。
それは、私の仕事じゃありませんっ!!
――終――
初めて短編を書いてみました。気分転換に、楽しく書くことができました(*^^*)
ありきたりすぎるお話ですが、お読みいただけたら嬉しいです(^^)
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