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それは私の仕事じゃありません!

作者: わも
掲載日:2026/10/24


「ローザ様、聞いてくださいませ」


真剣な表情の女性が私の前に座っています。


ここは、お城の中のとある部屋。


普段は人の気配はなく、ほぼ忘れられた場所でした。



……ええ、ほんの数ヶ月前までは。


◇


筋肉質の俺様マッチョに、強引に引き寄せられたい……。

いえ、内気な紳士が、躊躇いながら手を伸ばすシチュエーションも、捨てがたい……。

『ローザ、君は僕だけの物だよ』



「ローザ様、ちょっとよろしいでしょうか?」


午後のティータイムのことです。


いつものように、ダージリンを飲みながら妄想にふけっていると、ふいに話しかけられました。


「あら。ミリー、どうしたの?」


私は、素早く妄想を振り払いました。


メイドのミリーは、キョロキョロと周りを確認すると、私のすぐそばに来ました。


「実は、相談がありまして……」


「なにかしら?私でよければ聞くけれど」


脳内で妄想していた後ろめたさで、精一杯微笑みながら答えると、ミリーは、ほっとしたように言いました。


「紅茶を仕入れるお店に、ちょっと気になる人がいるんです」

「ローザ様は、恋愛の達人だと聞きました。親しくなるのに、よい方法はありませんか?」


恋愛の達人??


誰がそんなことを言ったのでしょう。


私は、いわゆる深窓の令嬢です。


恋愛はおろか、男性とまともに話したこともあまりないのです。


はっ!


もしかして、恋愛の妄想話をメイドたちにしたのがいけなかったのかしら?


きっとミリーは、そこにいたメイドから話を聞いたに違いありません。


「そ、そうね……。親しくなるには、挨拶が基本よね」


頼られると、何とかしてあげたい。

そんな性分の私は、どうにか知恵を絞り出しました。


「挨拶ですか?」


ミリーが、首をかしげました。


「そうよ。気持ちの良い挨拶ができる人は、好印象なのよ」


「それから、意外性よね。あなたは、いつも一つでまとめた髪型をしているけれど、おろした髪型も似合うと思うわ。髪をおろして薄化粧をしてごらんなさい」


「それから、眼鏡。眼鏡を、お店に入ったらさりげなく外すのよ。そうね、『目が痛いわ』みたいな感じで。いつもと違うあなたにドキッとするに違いないわ」


そう。それが妄想の定番よね。


日頃の妄想を心置きなく話せることに楽しさを感じてしまい、慌てて自分にストップをかけました。


こ、こんな感じで大丈夫かしら?


ちらっとミリーを見ると、パッと晴れやかな顔になりました。


「ローザ様、ありがとうございます!私、頑張りますっ!」


ミリーは、元気よく帰っていきました。


良かったです。たぶん、アドバイスとして受け取ってもらえたようです。


私は、ダージリンをおかわりして、また妄想に戻るのでした。


◇


「ローザ様、ありがとうございました!」



数日後。


アールグレイを飲みながら、長髪のイケメンと夢の逃避行していた私は、ビクッとしました。


「えっと……、すみません、どなたでしょうか?」


私の前には、美女が立っていました。

申し訳ないけれど、見覚えがありません。


「ローザ様ったら。ミリーですよ!」


ええっ!!


これは驚きました。

前に会ったときとは別人です。


「ローザ様のアドバイス通りにしたら、紅茶のお店の人と、トントン拍子に上手くいきまして。」

「私、今、幸せいっぱいです!ローザ様、本当にありがとうございました!」


ミリーは深々とお辞儀をしました。


「え、ええ。良かったわね。あんなアドバイスで良かったら、いつでもするわよ」


「本当ですか!?」


ミリーが目をキラキラと輝かせました。


「実は、友達の相談に乗ってもらいたくて。」

「ローザ様の話をしたら、私もお願いしたいって言われたんです。今度、連れてきますね!」


そんなつもりじゃなかったのよ?

でも、今さら断ることもできなくて


「いつでもいらっしゃい」


なんて言ってしまいました。

なんで墓穴を掘っているのよ!?


◇


しばらくすると、ミリーの友達がやってきました。


「はじめまして、ローザ恋愛マスター様。アリアです」


飲んでいた紅茶を吹き出しそうになりました。


な、なんですか、その呼び方は!?


「あ、アリア、よろしくね。で、相談は何かしら?」


令嬢は、細かいことは気にしてはいけません。あくまでも穏やかに聞いてみます。


「はい。幼ななじみが好きなのですが、相手は私を恋愛対象として見てくれないんです」


ああ、これは定番中の定番ね。


「そうね、まずは、他の男と親しい素振りをして、嫉妬させるのよ」


「ちょっと、手の届かない感を出していくのよ。そうしたら追いかけてくれるわ」


「それから、大人の女性を演出していくの。私は子供の頃と違うのよってね」


「あとは、そうね……、あなたは色白だから、ハッキリした色の服のほうが似合うと思うわ」


また、つらつらと話してしまいました。


「ありがとうございます、恋愛マスター様!やってみます!」


だから、恋愛マスターではないって。


こんなのでよかったのかしら?

私は、冷や汗をそっと拭いました。


「きっと大丈夫よ。頑張ってね」


◇


午後の紅茶の時間です。

外のテーブルで、思う存分妄想にふけろうと、扉を開けました。


すると、そこにはたくさんの人が集まっています。


「あら、今日は何かあったのかしら?」


これでは静かに妄想に浸れません。


残念に思いながら引き返そうとすると、皆が一斉に視線を向けました。


「恋愛マスター様がいらっしゃった!」


「私もお願いいたします!」


ちょ、ちょっと待ってください。


私は恋愛マスターではないし、こんなに沢山の人の相談には乗れません。


そこに、ミリーと、美しく変身したアリアがやってきました。


「ローザ恋愛マスター様。あなたのおかげで、私たちは幸せになりました。」


「どうぞ、これからも私たちをお導きください!」


これは困りました。


頼まれると嫌とは言えない私です。


皆さんから期待されているなら、なおさらです。


とはいえ、一度に答えることはできませんね……。



私は、ふと空き部屋の存在を思い出しました。


突発的に妄想に浸りたくなった時に、コッソリ使っていたあの部屋です。


あそこなら、相談に乗るにはもってこいです。


「わかりました。では、予約制にしますので、時間になったら空き部屋に来てくださいね」


皆さんに伝えてから気づきました。


私は、これからはどこで妄想をしたらいいのでしょうか?


私は、心の中で大声で叫びました。


それは、私の仕事じゃありませんっ!!



――終――

初めて短編を書いてみました。気分転換に、楽しく書くことができました(*^^*)

ありきたりすぎるお話ですが、お読みいただけたら嬉しいです(^^)

何か反応をいただけると、これからの励みになります♪


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