運って、よくわからないや。
あの日の俺は、見事に散っていた。
春の陽気に浮かれて、「今年は当たる気がする」なんて根拠のない自信を胸に挑んだ競馬のG1、皐月賞。
新聞を何度も読み返し、パドック映像も見て、「これは来る」と確信して買った馬券たちは、ゴール板を前にしてことごとく俺を裏切った。
テレビの向こうで歓喜する人々とは対照的に、俺は畳の上で静かに崩れ落ちた。
「……終わったな」
財布の中身も、気持ちも、きれいにスカスカだった。
その後はもう、何をしても上の空だった。
コンビニで買った安い弁当も味がしない。
スマホを見ても、的中報告ばかりが目に入ってイラつく。
SNSを閉じて、天井を見つめる。
「今日はもうダメだな…」
そう呟いて、ふて寝を決め込もうとした、そのときだった。
ピポーン。
インターホンが鳴った。
「……誰だよこんな時間に」
重い体を引きずってドアを開けると、そこには見知らぬ配達員が立っていた。
「宅配便でーす」
覚えがない。
だが、差し出された箱には確かに俺の名前が書いてある。
「え、これ何ですか?」
「さあ、こちらでは…」
半信半疑で受け取り、部屋に戻って箱を開ける。
中から出てきたのは……
大量のカップラーメンだった。
しかも、見たこともない高級ラインのやつが山ほど。
「……は?」
一枚の紙が入っていた。
『キャンペーン当選おめでとうございます!』
そういえば、何週間か前に、なんとなく応募した記憶があった。
レシートを撮って送るだけの、あのやつだ。
「いや、マジかよ……」
思わず笑ってしまった。
昼間に競馬でやられた金額と、だいたい同じくらいの価値がありそうな量だったからだ。
「こんな形で回収するとはな…」
さらに笑えたのは、その直後だった。
スマホに通知が来る。
【本日の歩数:9,999歩】
「いや、あと1歩でキリいいやつじゃん!」
思わず立ち上がり、部屋の中で一歩だけ歩く。
【10,000歩達成!】
「しょうもなっ!」
声に出して笑った。
その瞬間、なんだか全部どうでもよくなった。
競馬は外した。金も減った。
けど、なぜかラーメンは増えたし、歩数はキリがいい。
「まあ、こんな日もあるか」
俺はその夜、当たった高級カップラーメンをひとつ開けた。
やけに美味かった。
敗北の味じゃなくて、ちょっとだけ救われた日の味がした。




