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おっさんのごった煮短編集

仕組まれた婚約破棄〜逆転は計画的に〜

掲載日:2026/01/26

よくある婚約破棄モノ。

っぽいお話です。



 「セラティア・アルトワール嬢、貴女との婚約を破棄し、私はカタリナ・フランボワーズとの真実の愛を紡ぐ事とする」


 

 王族、貴族の主立った面子に加えて、その子女たちもまた集った王家主催のパーティーにて、夜会会場のほぼ中央で、わたくしの婚約者たる王太子アルビト・マットラート殿下は高らかに宣言しましたわ。


 結論から言えば、防ぐ事が出来なかった事に対する忸怩たる思いはありますものの、まぁ、それも仕方のない事と割り切る他ありませんわね。

 壇上にいる国王夫妻、両陛下も表情は変えておりませんし、貴族家の錚々たる面々もしたり顔が多数で、わたくしの生家、アルトワール公爵家に連なる者は渋い顔をされておりますが、わたくしの両親は冷ややかな笑顔を貼り付けたまま、特に変わりはないようですわ。


 「セラティア嬢、何か申すところがあれば、この場で聞き届ける」


 アルビト殿下は鷹揚にそう言い放っておりますが、その横に立たされているフランボワーズ子爵家の令嬢は緊張から顔色を失くしておいでですわよ。


 「殿下、一先ずフランボワーズ子爵令嬢を下がらせて、休んで頂いては、お疲れのようですし、控えにて、お召し物を直して頂くのも良いかと」


 男性には分からないかも知れませんが、イブニングドレスにコルセット、特に今日のカタリナ嬢の着ているドレスはデコルテ部分の露出が多いですし、腰周りはかなり締めてますから、寒さや腰周りの圧迫で食事も喉を通りませんし、その上、これだけの人に注目されて緊張していてはね。

 別室で一度、人目を避けて、コルセットを緩めて、白湯でも飲ませて上げたほうがいいわ。


 「ん、確かに緊張しているようだな。誰ぞかカタリナを控えに連れていき休ませてやってくれ」


 物分かりの良い方で助かるわ。良くも悪くも真っ直ぐで、純粋な殿下らしいですわね。こんな方を利用してまで、我が家を陥れようとは、しかもご自身の子息だと言うのに、目線はやらずとも、壇上にいる陛下に対して侮蔑の思いを放り投げつつ、わたくしはアルビト殿下の次の言葉を待つことにしました。


 「大丈夫です。問題ありません」


 ですが、先に口を開いたのは、もう一人の被害者たるカタリナ嬢でした。可哀想に、自身の立場を弁える思慮がある分、立っているのもやっとでしょうに。


 「大丈夫よ、悪いようにはしないわ。すこし休んでいらっしゃい」


 それ程に離れていた訳でもありませんでしたから、一歩だけ、彼女の方へと足を向けて、わたくしは周りの方にも聞こえるように語りかけ。


 『陛下の思う通りにはさせませんわ』


 そう、ぼそりと囁くと、カタリナ嬢はわたくしを真正面に見据えてより、半歩下がって一礼し。


 「ご厚意に甘えさせて頂きます」


 そう仰ったの。


 「レビー、カタリナ嬢を案内してあげて」


 わたくしの侍女、レビィルカに指示を出して、先ずはカタリナ嬢に退場してもらいましょう。


 そもそも、この茶番劇は初めから仕組まれたものでしたわ。端的に目的を示すなら、たった二つ。

 貴族派筆頭で先代から発展目まぐるしく権勢を誇る我がアルトワール公爵家に瑕疵をつけ、泥を塗ること。そして、凡庸で見目を除けば秀でる所が無いと言われる第1王子を慣例に則り王太子に据えたものの、優秀な第2王子にその座を移譲するために廃太子とするため。はっきり言って、くだらないことこの上ありませんわね。


 我が家の台頭を疎ましく思って嫌がらせしようというのも酷い話ですが、立太子する王子に第2王子を据えるくらいは国王陛下の裁可の範囲で決められるでしょうし、王党派の貴族の賛成があれば、貴族派も無理に反対はしないと言うのに。


 そもそも、凡庸だと言われているアルビト殿下ですが、わたくしから見れば十分に才はありますし、王としての資質に不十分とも思いません。

 国王陛下と王妃陛下がアルビト殿下を軽んじるのは先王妃のお子だからですわ。先王妃はアルビト殿下を出産後に肥立ち悪く、幽世(かくりよ)へと旅立たれてしまわれました。そうして迎えられた現王妃陛下の子をお二人は溺愛し、反面、アルビト殿下を下に置いていらっしゃるのですわ。


 ただ、先王妃は隣国より迎えた元王女でしたから、その子供を蔑ろにし、継承順位を無視して第2王子を立太子させることは本来であれば難しく、なればこそ、アルビト殿下の評判を下げ、スキャンダルを持って廃太子とすることを考えたという訳ですが、巫山戯た話ですわね。


 まぁ、その与太話に乗ったのが王党派の貴族だけでなく、貴族派の中にもいたのですから、救いがありませんが。



 わたくしとの婚約を王命で取り付けたのち、わたくしと殿下の交流は最小限とされ、殿下とわたくしには何かと悪評が流されましたわ。

 そんな中で、王党派の有力貴族の寄り子の中で、年頃の見目のいい娘のいる家に鉱山開発に関わる利権を一部譲渡する見返りとして、娘を使った殿下の凋落を仕掛けさせた。


 言ってしまえば、たったこれだけですの。随分と粗の多い調略なのですが、運が良かったのか悪かったのか、欲に目の眩んだ、頭の軽い子爵家当主に相手役を命じられた娘は、殿下の好みに叶うどころか、一目見ただけで恋に落ちる程に正鵠を射てしまっていたのですわ。


 殿下の心を射止めた矢でしたが、その矢を射っているのは、自身を貶めるために策動する実父だとは思いもしませんでしたでしょうね。


 とは言え、陛下たちの策謀の歯車が噛み合っていたのはここ迄でしたの。先ず、躓いたのはカタリナ嬢が、頭の軽い両親とは異なり、実に賢く、弁えた女性だったことですわ。

 いくら王家や寄親の家の意向があるとしても、殿下やわたくしの風評に関わる事で虚偽を述べる事をお避けになり、父の命を守り、殿下の側に侍りこそすれ、一線を越えることは避けたのです。

 殿下もまた、婚前の令嬢に不必要に触れるなど、そのような破廉恥な方ではありませんから、陛下たちの思惑に沿うことは無かったのですわ。


 

 カタリナ嬢が退出したのを見て、陛下や関わった貴族家の当主は困惑しているようですわ。彼等の筋書きでは、ここで殿下と彼女の2人でわたくしを吊るし上げる予定でしたものね。

 ですけれど、貴族派の家々が一枚岩では無かったように、王党派の貴族にも派閥はあるんでしてよ。表向きは追従している顔をして、好機と踏んで我が家に密告してくださった家もありますし、なにより、カタリナ嬢もごく親しい友人には、うっかり内心を吐露することもありますでしょう。


 さぁ、第2幕とまいりましょう。


 「殿下、フランボワーズ子爵令嬢との婚約をお祝い申し上げますが、さりとて、王子妃、ゆくゆくは王妃としての教育はまだで御座いましょう。殿下や陛下の目にかなった令嬢ですから、いずれは相応に成長なされるとは思いますが、わたくしが補佐を致しますわ。つきましては、王国法の定めに則り、わたくしを第2夫人として、婚約の継続をお願い致しますわ」


 場がどよめくのが伝わってまいりますが、予想外の発言に戸惑う大人たちが面白くて、笑ってしまいそうですわ。王国法では王妃に瑕疵がある、主には子を成せないことですが、その場合に限り第2夫人を娶る事を認めておりますの。これは立太子した王子にも適用されますわ。

 王統を途絶えさせない為の処置ですわね。ですけれど、名誉のために石女である事とはっきりとは明文化されず、瑕疵がある場合とされていますの。

 ですから、子爵家の令嬢でしかなく、後ろ盾も無ければ、教育も足りない、それを持って廃太子にする心積もりなのは分かっておりますが、明確な瑕疵があるなら、補う相手がいれば問題ありませんわ。


 「成る程、確かに名案だ。しかし、それで良いのか? 公爵家の令嬢たる貴女の名誉にも関わるだろう」


 殿下はわたくしの案に乗り気のようですわね。まぁ、当たり前ですわね。


 「問題ありませんわ。元より政略によって嫁ぐことになっていたのです。公務などで必要な時は表に立つことも厭うことは御座いませんし、元より恋慕で結ばれた関係ではありませんもの、嫉妬もいたしませんから、共闘し、国のために邁進すると思えば良いのです」


 堂々と言い切るわたくしに、呵々大笑したアルビト殿下は陛下へと向き直り。


 「してやられましたな、お父上。この通り、セラティア嬢は婚約破棄を第2夫人となることで上書きするそうですぞ。陛下の命でくだされた我等への婚約と、同じく密命でくだされた婚約破棄の命、どちらも果たした上で、我等は改めて婚約すると致します。陛下の命に従った上の最良の選択であると思いますゆえ、よもや、反対はなされませんな」


 そう、殿下は共犯者ですからね。反対なんかしませんわ。


 「なっ……なにを言っておるのだ。おかしな事を言って、余の権威を貶めるつもりか」


 かなりの間を置いて、陛下は声を荒げておりましたけれど。


 「異なことを仰られますな。我が娘との婚約と、それを踏み台に子爵家の娘との婚姻を画策したことは、この通り、これだけの証拠が御座います」


 カタリナ嬢が退出したあと、ゆっくりとわたくし達の元に歩み寄っていたわたくしの父上が、ある方々から横流しされた密命を認めた証書の写しや、子爵家への権利譲渡の証書の写しを放り投げましたわ。


 「随分と我が娘を愚弄されますな。あー、この場を借りて申し上げますが、カタリナ・フランボワーズ令嬢は我が家門のトゥールダン侯爵家へと養子縁組させますので」


 父上の言葉に、二の句を告げずに口を開閉するだけの陛下の隣で、王妃陛下が金切り声を上げ、こちらへと歩を一歩進めましたわ。


 「巫山戯ないで、何故、養子縁組なんて話になるの」


 「そう申されても、トゥールダン侯爵とフランボワーズ子爵の間で話は終わっておりますから」


 簡単な話、娘を生贄に利を成すような人物だと知れているのだから、「王家に利用されて、廃太子の嫁になるより、名門の出だとして、王妃なれば、もっと利がある」そう話を持ち掛けただけ。

 フランボワーズ子爵が命じられたのは娘を使い王太子を籠絡しろということ、それは成功しているのですから、その娘を養子に出したところで契約違反とは言えませんものね。

 ただ、その相手がうちの家門に連なる家で、我が家の意向に逆らわないだけで。


 「父上、私を廃して愛する息子を次代に据えたかったようですが、一言そう言ってくだされば、潔く身を引いたものを。愛されなかった息子ですが、王統の血は継いでおりますゆえ、王太子として、くだらない策謀で無駄に軋轢を生じさせた責を問い、後日、査問のための議会を招集させて頂きます。勿論、義母上もです。どうかご覚悟を、お集まりのお歴々の中にも関係する方がおりますでしょうから、召命には応じるように」


 茶番の幕を引く宣言は、婚約破棄のそれよりも生き生きとしてますわね。



 「でも、どうしても婚約破棄宣言はしなければいけなかったかしら」


 殿下の横に移ったわたくしは、すこしばかり嫌味を言わせて貰うわ。茶番とは言っても傷付かない訳では無いのよ。


 「カタリナ嬢に恋をしたのは本当だからね。まぁ、恋といって、猫を愛でるような感覚で愛情とは言えないけれど」


 そう言って茶目っ気を出して舌を出す殿下のお尻をかるーく捻って、わたくしもはしたなく舌を出してあげますの。


 「キライですわ」


 「いっ……痛いっ、ちょっと。てか、キライって。私が愛してるのは君だけだって」



 涙目になりながら釈明する殿下に可笑しくなってしまうけれど。


 「許してあげませんわ」


 そう言って、もう暫くはからかってあげますわ。


 


 「仲が良いのはいいが、人の目くらいは気にしてくれ、二人とも」


 父上の虚しい呟きは、わたくしにしか届いておりませんわね。


 殿下には逆転の目は無いんですわ。



 

 〜〜〜〜



 両陛下は査問ののち、退位となり、アルビト殿下は若くして王位を継ぐことになりましたわ。

 第2王子殿下とは、実は仲は良好ですから、問題もありません。


 カタリナ嬢はと言えば、養子縁組ののち、そのままトゥールダン侯爵家の近縁の家へと嫁ぐべく、婚約を結びましたわ。アルビト殿下との婚約話はそもそも茶番ですし、あの日のことは戒厳令が敷かれておりますから問題ありませんわ。


 そして、わたくしとアルビト殿下は無事に成婚しましたわ。


 因みにフランボワーズ子爵家ですが、取り敢えずはお咎め無しですわ。

 そもそも王命に従っただけですし、結果だけ見れば裁かねばならない程の悪事は働いておりませんからね。カタリナ嬢もそれで良いと仰られましたし。



 「猫を愛でるようなものでしたっけ? わたくしは殿下から見たら、どうなんですの?」


 ふと思い出して、何と無しに口についた疑問に、夫となったアルビトは即答しましたわ。


 「虎かな。犬ではないし、どちらかと言えば猫よりだけど、猫よりずっとおっかないし」


 盛大にお尻をつねったわたくしは悪く無いですわよね。





 

 


 


 

感想お待ちしておりますm(_ _)m

щ(゜д゜щ)カモーン

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― 新着の感想 ―
なかなか楽しいお話でした。ただ、「石女」という言葉の扱いには注意が必要だと思います。言葉狩りをするつもりは無いですが、古い言葉だけに少し気を付けるのがより良いかと、老婆心ながら申し上げます。 でも、面…
セラティアの殿下から見た印象として、「スナネコみたいだね」もアウトっぽいか。 まあ、虎よりはマシだけど。 セラティアがスナネコのことを知ってるならばね? つねられても仕方ない。でも、つねったらつねっ…
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