第7話
気がつくと、恵梨香は真っ白な世界にいた。
目の前では綺麗な女の人が泣いている。そこで、この人の大切な人を探しているのだと思い出した。
女の人は悲しんでいた。大切な人に裏切られたのだと、何度も何度も悔しそうにつぶやいていた。だから恵梨香は女の人の手をとって、真っ白な世界を歩き始める。一緒に探そうやと言うと、女の人は泣きながらでもついてきた。
「恨めしや。恨めしや」
女の人はずっとつぶやいていた。だから恵梨香もずっと「大丈夫やよ」と穏やかに返していた。
白の世界では、どれほど歩いたかも分からない。どこに向かっているのかも、目的地すらも見当たらない。探し人の姿もないから、恵梨香は正直、どうすべきなのか悩んでいた。
「その人が見つからんくっても、うちとおればええやん。うちはおらんならんよ。嘘もつかんよ。そうや、カミシロサマともお友達になれるんやない?」
恵梨香の言葉を聞いているのかいないのか、女の人はただ「恨めしや」とつぶやくばかりだった。
そうして、どれほど歩いた頃か。遠くにポツンと男の人影が見えた。
「あっ! あの人ちゃう⁉︎ なあ、見てみてや!」
男の人が振り返る。そうして、こちらに向けて大きく手を振っていた。
「ああ、あのお方。わたくしの愛しい人」
女の人はそう言って一目散にそちらに向かうと、男の人に飛びついた。男の人も嬉しそうに笑っていた。しばらく二人で抱き合って、手を繋いで振り返る。二人とも晴れやかな顔をしていた。ありがとうと聞こえた気がしたのは、気のせいではないのだろう。
手を振って、二人で並んで歩いていく。背中が遠のいていくのを、恵梨香はずっと見守っていた。
それで、どうして恵梨香はここに来たんだったか。
はたとそんなことを考えて、あたりを見渡す。
見覚えのない場所だ。これまで何をしていたのかも、あまり思い出せない。女の人の大切な人を探そう、と意気込んでいたのは分かるのに、そのほかのことは曖昧だった。
(……あれ、うち……)
どれほど考えても、何一つ思い出せなかった。
「恵梨香? どうしたん?」
ひょこりと、見慣れた顔が覗き込んだ。
「わ! 何いきなり!」
驚いた恵梨香は、思わず一歩足を引いた。覗き込んだ少女は軽やかに笑う。それと同時に音が聞こえた。
景色が広がる。色があふれる。先ほどまでの静けさが嘘のようにざわめきが聞こえて、気がつけば恵梨香は教室に居た。
「恵梨香が元気ないとか、変なもん食べたんちゃう?」
「ありえるわー。昨日帰り道でなんか拾いよったっけ?」
紗奈と沙織が笑いながら、「木苺に惹かれとったんやなかった?」と冗談を言い合っていた。
恵梨香はそれを見て、ひどく悲しい気持ちになった。どうしてかは思い出せない。だけど笑い合うみんなを見て、涙が自然とあふれてきた。
「……え、恵梨香、どうしたん?」
「えー! なんで泣くん! ほんまに変なもん食べたん?」
「沙織が目に見えん早さで殴ったんやろ?」
「そんなわけないやん!」
いつもの光景だった。それに恵梨香は涙を拭うと、なんでもないんよ、と笑って返す。
「なんかな、なんやろ……みんながおって、うちめっちゃ嬉しくなったん!」
「はあー? まーた恵梨香が面白いこと言いよる」
「授業始めるわよー、席について」
国語の教師が入ってきた。その言葉をきっかけに、いつものメンバーはそれぞれの席に戻っていく。恵梨香は最後までそれぞれの背中を見つめて、嬉しさにニヤニヤとしながらも席についた。




