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カンナギ  作者: 長野智
第2章

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第7話



 気がつくと、恵梨香は真っ白な世界にいた。


 目の前では綺麗な女の人が泣いている。そこで、この人の大切な人を探しているのだと思い出した。


 女の人は悲しんでいた。大切な人に裏切られたのだと、何度も何度も悔しそうにつぶやいていた。だから恵梨香は女の人の手をとって、真っ白な世界を歩き始める。一緒に探そうやと言うと、女の人は泣きながらでもついてきた。


「恨めしや。恨めしや」


 女の人はずっとつぶやいていた。だから恵梨香もずっと「大丈夫やよ」と穏やかに返していた。


 白の世界では、どれほど歩いたかも分からない。どこに向かっているのかも、目的地すらも見当たらない。探し人の姿もないから、恵梨香は正直、どうすべきなのか悩んでいた。


「その人が見つからんくっても、うちとおればええやん。うちはおらんならんよ。嘘もつかんよ。そうや、カミシロサマともお友達になれるんやない?」


 恵梨香の言葉を聞いているのかいないのか、女の人はただ「恨めしや」とつぶやくばかりだった。


 そうして、どれほど歩いた頃か。遠くにポツンと男の人影が見えた。


「あっ! あの人ちゃう⁉︎ なあ、見てみてや!」


 男の人が振り返る。そうして、こちらに向けて大きく手を振っていた。


「ああ、あのお方。わたくしの愛しい人」


 女の人はそう言って一目散にそちらに向かうと、男の人に飛びついた。男の人も嬉しそうに笑っていた。しばらく二人で抱き合って、手を繋いで振り返る。二人とも晴れやかな顔をしていた。ありがとうと聞こえた気がしたのは、気のせいではないのだろう。


 手を振って、二人で並んで歩いていく。背中が遠のいていくのを、恵梨香はずっと見守っていた。


 それで、どうして恵梨香はここに来たんだったか。


 はたとそんなことを考えて、あたりを見渡す。


 見覚えのない場所だ。これまで何をしていたのかも、あまり思い出せない。女の人の大切な人を探そう、と意気込んでいたのは分かるのに、そのほかのことは曖昧だった。


(……あれ、うち……)


 どれほど考えても、何一つ思い出せなかった。




「恵梨香? どうしたん?」


 ひょこりと、見慣れた顔が覗き込んだ。


「わ! 何いきなり!」


 驚いた恵梨香は、思わず一歩足を引いた。覗き込んだ少女は軽やかに笑う。それと同時に音が聞こえた。


 景色が広がる。色があふれる。先ほどまでの静けさが嘘のようにざわめきが聞こえて、気がつけば恵梨香は教室に居た。


「恵梨香が元気ないとか、変なもん食べたんちゃう?」


「ありえるわー。昨日帰り道でなんか拾いよったっけ?」


 紗奈と沙織が笑いながら、「木苺に惹かれとったんやなかった?」と冗談を言い合っていた。


 恵梨香はそれを見て、ひどく悲しい気持ちになった。どうしてかは思い出せない。だけど笑い合うみんなを見て、涙が自然とあふれてきた。


「……え、恵梨香、どうしたん?」


「えー! なんで泣くん! ほんまに変なもん食べたん?」


「沙織が目に見えん早さで殴ったんやろ?」


「そんなわけないやん!」


 いつもの光景だった。それに恵梨香は涙を拭うと、なんでもないんよ、と笑って返す。


「なんかな、なんやろ……みんながおって、うちめっちゃ嬉しくなったん!」


「はあー? まーた恵梨香が面白いこと言いよる」


「授業始めるわよー、席について」


 国語の教師が入ってきた。その言葉をきっかけに、いつものメンバーはそれぞれの席に戻っていく。恵梨香は最後までそれぞれの背中を見つめて、嬉しさにニヤニヤとしながらも席についた。


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